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男になる夢が叶ったら

『手術成功したぜ!v(。・ω・。)ィェィ♪』


 というメッセージが届いたのは二十五になる年の春だった。

 五年でお金を貯めてタイに渡る。

 リクはやはり有言実行が代名詞のような人だ。

 

『夏になったら地元帰るから会えない?』


 すぐにOK のスタンプで返信する。


『土日ならいつでも空いてる』


 何分もしないうちに既読がついて、土曜の10時に会うことになった。



 N駅の偉人像前で待ち合わせ、ベンチに腰掛けてリクを待つ。


「水沢ーー! 久しぶり!」

「ようリク」


 久しぶりと言っても半年に一回は会っていたから、あまり久しぶり感はない。

 けれど半年前に会ったときと劇的に違う。


 リクの胸は真っ平らになっていて、声も以前より低い。


「すげーな。完全に男じゃん」

「だろー! 胸も子宮も全部切り取って、戸籍も男に変えたんだぜ。父さんに事後報告したらめっちゃ驚いてた」

「マジか」

「驚いてたけど、薄々気づいてたみたいで、「そうか」って納得してくれた」


 得意げに親指を立てて笑うリク。

 性転換を反対されたくないから、手術が終わってから父親に報告する。

 そりゃお父さんも相当驚いたことだろう。


(俺も手術終えてから親に報告すりゃいいのかな)


 なんて思ったけれど、リクの親と違って夫婦揃って世間体最優先のカタブツだ。

 勘当されて二度と実家に帰ってくるなと言われることは想像に難くない。


「ほんと、いつも有言実行で尊敬するよ」

「へへへ。もっと褒めろ。水沢も協力してくれてありがとな」

「俺がしたのは手紙を書いたくらいだぞ」


 とりあえず何か食べようということで、歩きながら話をする。

 ビルの二階に入っている、こじんまりした老舗のレストラン。

 そこでカレーを注文してお互いの近況報告をする。


「水沢はどうしてた?」

「転職した。病院の先生にも言われてさ」


 五年の間に和香は二回転職した。

 洗い場の仕事はあのあと更に手が荒れて、両手の平の皮膚がボロボロ。日常生活に支障が出るレベルだったから辞めた。


 そのあと就いた職は先輩と相性が悪く、ひと月もたなかった。

 注意・指導でなく人格否定の暴言を吐かれる毎日で精神を病みかけ、精神科のお世話になった。


 主治医の判断で半年療養の末、先月からようやく新しい職に就いた。


「今はだいぶ快適なもんよ。試用期間中だからサヨナラになる可能性もあるけど」

「水沢なら大丈夫だろ。ガッツがあるから」

「おー。ありがとな」


 和香は自分のことを根性無しだと思っているけれど、十年一緒にいる友がそう言ってくれるなら、そうなのかもしれない。


「オレも手術が終わったから転職するんだ。次の職場では最初から男として入れる」

「楽しみだな」


 戸籍上も男になったから、リクは堂々と男として生きることができる。


「体の方は大丈夫。でも定期的にホルモン注射受けないとだから金がかかるんだよ。だから前の職より給料いいとこにした」

「手術終わればもう何もしなくていいってわけにはいかないんだな」

「そーなんだよ。更年期症状が出ちゃうから、ホルモン注射必須」


 子宮卵巣全摘すると、閉経と同じ状態になる。

 二十五才で更年期症状、なかなか辛いものがある。

 二百万円必要なのは、この弊害を緩和するためのホルモン注射も含めてのこと。


 手取り十二万の和香には真似出来ない。


 念願叶ったリクは、これまで和香が見てきた中で一番楽しそうだ。


「ホルモン注射は大変かもしれないけど、良かったな、男になれて」

「すごくいいぞー。水沢も手術受ければいいじゃん」

「そうできたら良かったんだけどな。なんせ半年無職だった上に転職したばかりで手取りが少ない」

「そっか」


 貯金はこの半年の生活費で溶けた。

 仕事がなくても年金と国保、税金の徴収はくる。


 金の問題が解決しても、臆病者だから手術できそうもない。

 


 ただただ、リクのこれからの幸せと健康を願うばかりだ。

 

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