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「オレが男になったら、友達やめるか?」

「水沢は……オレが男になったら、友だちやめるか?」

「いーや。性別でリクと友達になったわけじゃない。男になることを選んでも、今のままでも、どっちでも、リクが生きたい形を応援するよ」


 リクの話を聞いて、友達やめたいなんて一ミリも思わなかった。

 軽蔑どころか、むしろ尊敬の念を抱く。

 自分の心が男だと告白した勇気、手術を受ける覚悟。

 どっちも和香になかったから。


 リクの話を聞いて、手術をして男になるという選択肢があることを初めて知ったくらいだ。



 合間合間に好きなアニソンを入れながら、話をする。



「リク。適合手術って、いつ受けるんだ?」

「手術費用がたまったら。胸だけでなくて子宮も取りたいから、目標は二百万。タイでなら日本より安く受けられるんだよ」


 二百万。

 リクが身をおいているのは東京だから、ど田舎の地元よりは初任給が良いと思う。だけど、湯水のように使えるほどの額ではないはず。


「戸籍上の性別を男に変えるには、手術が必須だからさ。あと、いつでもいいから水沢に協力してほしいことがあるんだ」

「なんだ?」


 リクは何も書かれていない官製はがきを二枚、テーブルに滑らせる。


「手術で変えることができるのは性別。名前を変えるには、男の名前で生活しているという証拠が必要だから」


 姿が男になると、涼子という名前のままで生きることは困難だ。

 男が女の名前の免許証や社員証を出したら、書類を書いたら。人がどう反応するか……想像するだけで頭が痛い。


 女の姿で男言葉を使って白い目で見られてきたんだから、真逆の状態で同じことが起こる。


 どうしてみんな、男ならこうで女はこうあるべきって、勝手な枠組みを作ってそこに合わせろと言うんだろう。


 日本を出たことがないからわからないけど、日本人だからなのか。

 出る杭は打たれる。

 人と少しでも違う存在は弾かれる。


 はがきを受け取ってくるりと裏面を見る。


「暑中見舞いでもなんでもいいから、田部リク様って宛名で出せばいいってことか」

「やー、水沢は理解が早くて助かるよ。さすがオレの見込んだ男」

「どーも。リクの名前で手紙を出すことが手伝いになるなら何枚でも書くよ」 


 はがきを手帳にはさみ、大事にカバンにしまう。

 


「さ、せっかくフリータイムなんだから存分に歌おうぜリク。入れたい曲リストアップしてきたんだから」

「へへへ。オレもリスト作ってたんだ」


 お互いが知っている曲ならパート分けして歌い、時間が許すかぎり歌って笑った。


 夕方、リクと別れたその足で近場の神社に向かった。

 神さまなんて信じちゃいないけど、リクが手術を受けるとき、うまく行くようにお祈りしておく。


 小銭を投げて二礼一拍。 

 何よりも大事な親友が、望む通り男になれますように。

 

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