表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/36

トランスジェンダーを抱えた二人

「驚かないんだな」

「ずっと、そうじゃないかって思ってた。俺と同じなんじゃないかって」


 FtMという分類名があることを知らなかっただけで、自分の心が男だと言うことはずっとわかっていた。

 リクは長くため息をつくと、いつものような笑顔を浮かべる。


「……オレもずっとそうじゃないかと思ってた。だからこそ、こうして水沢に打ち明けた」


 ペットボトルを握るリクの手は震えていて、すごく緊張していたのがわかる。


「ここで気持ち悪いって言われてたら、生きていけない」

「そんなこと言わない」


 ポテトスナックのフタを開いて、タバコどうぞみたいに俺の方に向ける。

 ありがたく一本もらって口に放り込む。


「高校のときさ、オレが彼氏いんだよねって話をしたときのこと覚えてるか?」

「覚えてる。あのときは失礼なこと言って悪かったな」


 リクもあのときのことを覚えていた。


「あの日、彼氏が(・・・)いることに驚いたって言ったろ。なんで?」

「恋人がいることには驚かなかったけど、いたとしても彼女・・だと思ってた」


 リクがすべて打ち明けてくれるなら、和香ももう隠すことはない。あのとき感じたことを素直に話す。


「ははは、気付いてたんだな。隠そうとしたオレの努力って何だったんだろ」


 ソファの背に力なくもたれて、リクは続ける。


「察したとおりだよ。オレ、恋愛対象は女なんだ。でもまわりのみんな、恋人ができたって言っても彼氏だったろ。……気持ち悪いって思われたくなかったし、男と付き合えば普通の女の子になれるかと思ったけど、無理だった」


 頑張ってみたけど、男を恋愛対象になんて、見られない。そう掠れた声で呟いた。


「普通って、なんだろうな。俺も、女らしくしろって言われるのホント苦痛だった」


 真っ赤なランドセルが嫌だったこと、制服のスカートが嫌だったこと、和香もリクもずっと抱えてきたいろんなことを話した。


 相手が同じ種の人間だと明確になったから、心からの本心を初めて言えた。


「俺思うんだ。戦隊の主人公はレッドなのにさ、なんで“女の子だからランドセルは赤”って言うんだろうな。今考えても理不尽」

「それな。男女平等っていうなら、女子制服もズボンにしてくれりゃいいのに。女だからスカートって意味わかんなかった」


 世間一般の普通(・・)に苛立ったところで、小娘二人の言葉に世界を動かす力はない。

 和香とリクにとっての普通は、世間では異常。非常識だった。


「心が女の男も含めてくくると、オレたちみたいなのをトランスジェンダーって言うんだって」

「……そっかー」


 和香とリクがまだ会ったことがないだけで、属性名がつくくらいには心と体の性が一致しない人がいる。


「他にこのこと伝えた人っているか?」

「いや、母親以外では水沢が初めて。父親にも、そのうち話す。やりたいことがあるから」


 和香もこれまで、幼馴染の亜利にすら言えなかったんだ。そうだろうと思う。


「やりたいこと?」


 和香が聞き返すと、リクは自分の胸を拳で叩く。


「性別適合手術を受けようと思うんだ。調べたらそういうのがあるってわかって、主治医から病院を紹介してもらった」


 心に合うよう、体にメスを入れて男の体になる。

 それがリクのやりたいことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ