卒業と新生活の準備と
卒業式がとどこおりなく終わり、友だちみんなと一緒に玄関の前で記念撮影する。
希沙と雪江、百合奈は式の間ずっと泣いていたのか、目が真っ赤になっている。
小学校中学校のときはわからなかったけれど、別れが寂しいのは初めてだ。
メールも電話もできるからいつでも会えるけど、これまでみたいに毎日じゃない。
「和香、卒業おめでとう」
珍しく化粧をした母が、パンダみたいな目になって言う。
何度も目元を拭ったようで、マスカラがあちこちに移ってえらいこっちゃ。
和香が黙って携帯のカメラを自撮りモードに切り替えて母に向けると、慌ててトイレにかけていった。
受験のとき大反対していたけれど、一応卒業おめでとうを言ってくれたから良しとしよう。
「水沢、ごはん行こごはん」
「おう!」
現在時刻は昼十二時をまわったところ。リクのところもお母さんが卒業式を見に来るから、四人で一緒に昼ごはんを食べようと前日のうちに約束していた。
以前希沙たちと行ったお好み焼き屋に行って、懐かしい気持ちになる。
あの時みたいに四枚のお好み焼きを分割して、四つの味を楽しんだ。
お腹いっぱいで店を出る頃には、和香の母とリクの母が仲良くなっていた。
初対面なのにコミュ力がハンパない、と和香はひそかに驚く。
「東京に発つ日、見送りに行くからな」
「さんきゅ。三月二十日だから引越し祝いもヨロシクゥ」
「マジかよ」
ブイサインするリクは本当に楽しそうだ。
引越し祝いよこせ、は冗談。
わかっているから和香も笑う。
そして三月二十日リクが新幹線ホームに行く背中に手を振り、すごく久しぶりに涙が出た。
和香のほうもそれからすぐアパートに移り、美術学校生活に備える。
東京の学校卒業後に兄が実家に帰ってくると言い出したから、家を出て正解だ。
正月ゴールデンウィークお盆、帰省しないと心に誓った。
何もないまっさらな部屋に引っ越しのダンボールを運び込んで、自分好みにカスタマイズしていく。
ポケットに入れていた携帯が鳴り、亜利からのメッセージが届く。
『引っ越ししたあと荷物整理が落ち着いたら教えて。引越し祝い持ってく』
部屋の中を見回して、たぶん明日の午後には終わると目算する。
明日なら大丈夫、とメッセージを返して携帯を閉じる。
布団だけ先に出して、ダンボールをずらして横になる。
見慣れない高い天井。
そのうち馴染んでくるんだと思うと楽しみだった。





