大人になっても腐れ縁は続く
「今月末で閉店することにしたんだ」
店長に言われたのは夏休みに入る一週間前のこと。
前年に店から車で五分行ったところに、大型ショッピング・センターができたのが打撃となった。
食品だけでなく農業用品、文具、寝具、ペット用品と幅広く取り扱う店だから、田舎の片隅の小さなスーパーもどきじゃ太刀打ちできなかった。
車を持っている人は何でも揃うそっちに行ってしまう。
「……お世話になりました」
残念でならなかったが、閉店は決定事項だ。
最後の勤務の帰り道。
落ち込んでいるのかと思いきや、亜利はわりと元気だった。
「つぶれるのは残念だけど、貯めたバイト代で夏コミ行くー」
「おう。行ってらー」
これくらい前向きじゃなきゃ人生やってられないかもしれない。いつも明るいから見習うところだと和香は思う。
「亜利も進学組だったよな」
「うん。A駅の前にあるペットトレーナー学校行く」
和香が希望する学校の近くだ。
「和香が電車通学にするならまた一緒なのになぁ」
「すまんな。もう入居するアパートを見繕ってる」
「でもなぁ」
亜利の親も雪江の親と同じ、娘には家から通ってほしい派。
学生は、本人の意志より出資者の意志のほうが優先されがちだ。
それが嫌で、この三年貯めたバイト代でアパートを借りる資金を作った。
「通学が一緒じゃなくなっても、学校が近いから、放課後や休日に会おうと思えば会えるだろ?」
「わぁ、和香の口からそんなにポジティブな言葉が出てくると思わなかったよ」
「俺をなんだと思ってんだ」
ネガティブなのは自覚しているけれど、亜利にまで指摘されてしまった。
昔から内向的で後ろ向きな人間だけど、中学生の頃よりは成長できたと思っている。
「じゃあその代わり夏コミ一緒に行こうよ。1日目に好きなサークルが出店するんだよ」
「なんで“じゃあ”で夏コミなんだ。東京だと泊まりじゃん。アパート借りる金が減るのヤダ」
「ちぇー」
亜利は口をとがらせるけど、機嫌を損ねたわけではない。
「亜利のみやげ話を期待してるよ」
「任しといてよ。レイヤーさんの写真もたくさん撮ってくる!」
それから亜利はアパートどんなとこ? 写真ある? と興味津々で聞いてくる。
リクだけでなく、亜利との腐れ縁もまだまだ続くらしい。





