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三年生春、一抹の寂しさを覚えた

 三年生になり、新しい時間割を決めた。

 今年は数学を取らなくていいから気が楽だ。数学Ⅲは必修じゃないのだ。

 その代わり英語Ⅲと国語Ⅲ、選択科目で美術と音楽を取る。


 一年の頃は必修科目だらけで個人差はあまりなかったけれど、三年生になるとそれぞれの好む教科や得意分野が顕著になる。


 和香と一つも授業がかぶらないクラスメートが何人もいる。

 数学が得意な人、科学が得意な人、体育が得意な人。みんな違う時間割だ。

 三年前、和香の両親は「定時制なんて落伍者が行くところだ」と馬鹿にしたけれどそんなことはない。


 個性が伸びる学校だと、和香には思えた。



 中間テストの勉強のため、放課後いつものメンバーで図書室に集う。

 希沙が数学のノートにぐるぐるとシャーペンを踊らせる。何を書くでもなく動かすだけだからノートが黒く潰れていく。


「あーうー、寂しいなぁ。もうすぐ卒業かー」

「まだ三年前期の中間だろ」

「もう三年の中間なんだよ〜。ちょっと前までミズっちが暴れん坊将軍の着メロ鳴らしたと思ってたら、あっという間に三年生じゃない」 

「忘れろ。それは黒歴史だ」


 一年の最初の方の失態だ。今でもことあるごとにネタにされる。

 和香は話しながら、英語のテスト範囲にマーカーを入れていく。


 雪江は希沙の隣で世界史の教科書とにらめっこ中。


「希沙の言うとおり、早かったよねほんと。もう受験のこと考えなきゃだもん。わたしはM町の調理師学校行きたいのに、親は市内の調理師学校に行かないなら学費を出してやらんって言うんだよ。ひどくない? M町の学校のほうが学費安いのに」


 雪江の行きたい学校と市内の学校、興味のない大人から見ればほぼ同じだけど雪江にとってはそうじゃない。


 調理師学校と一口に言っても和食に特化した学校、フランス料理の指導が得意な学校など様々だ。

 雪江の希望する学校は学校給食の調理師を目指せる学科がある。

 その代わり家から遠いから、ひとり暮らししないといけない。


 市内の学校なら家から通える。しかし雪江の望む学科はない。雪江に家を出てほしくないんだろうな両親は。


「雪江の話を聞いているとさ、大変なのは俺んちだけじゃないんだなって思うよ」

「水沢のとこは許してくれたのか? 美術学校」


 リクに聞かれて、ブイサインする。


「俺が絶対譲らないってわかったみたいで、同意書にサインしてくれた。粘り勝ち」


 美術学校なんかに行くくらいなら就職しろ、としつこかった。


「リクの親は話がわかる人だよな。前に会ったとき、東京でのひとり暮らしがんばりなって言ってたじゃん」


 リクの家に遊びに行ったとき、リクのお母さんと会った。

 優しくて穏やかな雰囲気の人で、心からリクの夢を応援していて羨ましい。


 隣の芝生は青く見えるってやつなんだろうが、和香の芝生が青く見える人はいないだろう。

 和香の環境は芝生どころか、草一本育たない荒れ地だ。



 ここまで頑張れば、高校卒業はもうすぐそこ。

 希沙に感化されたわけじゃないけれど、和香も卒業するのは寂しいと思った。

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