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みんな違う道を行く

 十二月の半ば、例年よりはやく雪が積もった。

 雪が降ると消雪パイプという、車道の中央に埋め込まれた装置から水が細く吹き出す。


 車の人は走りやすくなっていいのかもしれないが、このあたりの土地は水はけがよくない。

 そのため歩道と車道の間、横断歩道のはじまりと終わりの地点はくるぶしより深い池ができあがる。



 寒いのにブーツは浸水して靴下までビチョビチョ。

 学校についてすぐ、和香は靴下を絞り、教室のストーブ前で新聞紙を丸めてブーツに詰める。


 先客のブーツが何足か逆さに設置されている。この季節の風物詩だが、情緒もクソもない。


「うわー、水沢、今年もやってるのか」

「うるせー。今年もだよ。ブーツはいたって無理なもんは無理だ」


 教室に入ってきたリクが笑っている。

 リクの場合親の職場がこのあたりだとかで、雪のある間は毎朝親が送ってくれる。

 うらやましいかぎりだ。


 和歌の父親も高校から車で十分くらいのところで働いているが、勤務開始が朝六時だから送ってもらうには少し都合が悪い。


 朝五時半だと早すぎて校門が開いていない。

 

「これでも一本早い電車で来たんだぞ」

「そのわりに普段通りの時間に着いてるのな。そういやニュースでバス電車ダイヤが乱れてるって言ってたかも」

「うちはまだマシな方だよ。三十分遅れでも動いたんだから。希沙がいつも乗ってるやつは午前中運休って駅の電光掲示板に出てたぞ」


 ブーツを干してから、和香は今日の時間割を確認する。


「三限と四限は希沙が楽しみにしていた調理実習なのに、来れないなんて気の毒に」

「オレ二人が作ったやつ貰おうと思ってたのに、水沢のだけだと少ないな」

「もらう気満々」

「炊き込みご飯するって言ってたじゃん。だから弁当はおかずだけ持ってきた」


 いつも調理実習で作ったものをおすそ分けしているから、くれと言われなくても分けている。

 笑っちゃいけないが、ついつい笑ってしまう。


「それにしても、この調子だと今週末も電車動かないかな」

「なんだ? 水沢は週末どっか行くのか」

「学校説明会。絵のことを学べる学校っていくつかあるじゃん。だから手始めにA市にある美術学校の説明会に登録してたんだ」


 目標が決まっている人は高一のときから説明会に参加していると、進路指導の先生が言っていた。

 もう高二の冬だし、進学する先を決めておくべき時期だ。

 成績によって希望する奨学金をもらえるか否かも変わってくるから、勉強も手を抜けない。


「そっか、頑張れよ。オレも夏に行ってきたんだ、東京の説明会」

「どうだった?」

「絶対ここに入学しなきゃって思ったな。説明役で立ってた二年生がダイビング資格取っててさ」


 雪江と百合奈も教室に入ってきた。

 そのまま話に加わって、就職活動するとか家を継ぐとか進路のことを聞く。


 中学生のときには何人もいた、「〇〇ちゃんが行くなら同じ学校がいいな」「制服が可愛いから☓☓高にする」なんて言う人は一人もいない。


 就職、進学、家を継ぐ、それぞれの道がある。


 楽しみなような不安なような、不思議な気持ちでみんなの進路を聞いた。


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