嫌でも体は成長していく
小学校の体操着はブルマだった。
冬は長ズボンが用意されているけれど、他の季節は基本ブルマをはけと学校から指定されていた。
ブルマは深い紺色で、厚手なだけでほぼパンツだ。
なぜ男の子は半ズボンなのに、女の子は全員ブルマなんだろう。
「ブルマやだ」
「校則だから嫌だは通じないのよ。みんなはいているのになんであなたはそういうことを言うの」
先生に言ってもただのわがままとして、たしなめられて終わり。
半ズボンがいいのに、和香はやっぱり女の子だからという理由でブルマをはかされた。
お腹が痛くて冷えているとか、足を怪我しているからとか、何か理由をつけて長ズボンでいようとしたけれど怒られた。
なんで他の女の子は平気な顔でブルマをはいていられるのか理解できなかった。
そして不満を抱えたまま五年生になり、女子児童だけ集めてのお話が行われた。
保健室の先生が黒板に、お腹の大きい女の人の絵と何か内臓の断面図をいくつか貼って、生理というものの説明を始めた。
女の子は成長すると、赤ちゃんを産むための準備が起こるのです、そんな感じの説明だ。
他人事のように思える。
自分が大人になる姿は想像できても、誰か男の人と結婚して母親になるという想像は一切できなかった。
想像できなくても、和香にも生理はきてしまった。
朝起きてパンツが赤黒く染まっている時の絶望といったら、テストで0点を取るのより酷い。
どんなに嫌でも、自分は女という生き物なんだと現実を叩きつけられた。
抵抗したって生理はくるし、胸はブラが必要なサイズになった。
修学旅行で同室の女の子たちがキャイキャイいいながら「わたしは何組の誰が好き」という話を持ち出された。
「和香ちゃんだって好きな男子いるでしょ、誰が好き? ここだけの秘密。誰にも言わないから教えて」
みんなの視線が和香に集まっている。
誰に対してもとくべつな気持ちはない。
平等にクラスメートというだけ。
誰でもいいから答えなきゃいけない気がして、てきとうに思いついた男子の名前をあげたら、次の日男子含めて学年中の児童の知るところとなった。
「ここだけの話、秘密」と言う女の言葉は信用に値しないと学んだ和香だった。