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それぞれの夢

 夏休みの間に、高校の友だちと遊びに行くことになった。

 和香と希沙、雪江、リク、そして希沙を介して友人になったクラスメート二人、計六人。


 お好み焼き屋の大テーブルについて、それぞれ違う種類のお好み焼きを注文する。


「これを六等分すれば、一枚の値段で六種類の味を楽しめるっしょ。“希沙アタマいいー!”ってほめて! たくさんほめて!」


 自分たちで焼くスタイルの店だから、みんなで手分けして二枚ずつ焼いていく。


 お好み焼き屋に入ろうと発案した人ーー希沙が豚玉をコテで刺して六等分にしながら自画自賛している。

 ちりちり生き物みたいに動くカツオブシを見ながら、和香は苦笑する。


「そうだな。希沙は頭いいよ。一人で来たら一つの味しか食べられないもんな」

「もっとほめてー」



 バイト代が入るのは月末だから、今回は貯めていたおこづかいでお好み焼き代を払った。

 会計を終えて店の前でケータイをポチポチしてると、リクが聞いてくる。


「水沢もバイト始めたんだろ。何やってる?」

「俺はスーパーのレジ。リクは?」

「ファストフードのキッチン。制服がズボンなのが決め手だな。まかないつくし」

「わかる。俺もジーパンTシャツにエプロンだから選んだもん」


 あえてスカートが嫌いとは口にしないけれど、同族だとわかる。出会ってから今日まで、リクがスカートをはいているのを見ていない。

 それどころか、女物の服を着ているのを見たことがない。


 希沙や雪江や基本中学の制服を改造したスカート。リクも制服の中学校だったはずだから、やろうと思えば希沙たちのように中学の制服で来れる。


 そうだと本能で感じるだけで、口にするのははばかられた。

「リクも女でいたくないんだろう」、なんて。


 リクも同じことを感じているのかもしれない。他の子といるとき以上に、和香といるときのリクは仕草や言葉づかいが男っぽい。

 和香には気を置かなくていいんだと、思っているのだろう。


「水沢、バイト代が入ったら何に使うか決めてるのか?」

「家を出る。卒業したら。自由になりたいんだ。ひとり暮らしのためのお金」

「オレも高校卒業したら家を出るんだ。やりたいことを学べる専門学校が東京にしかないからさ」


 リクは熱く語る。


「ダイビングの資格取りたいんだ。イルカとか、海洋生物とふれあいたい」

「すごいな。もう学校決めてるんだ」

「水沢も決めてるだろ、学校。いつもノートに絵を描いてるじゃん」


 やはり、和香のことをよく見ている。亜利以外の人に言ったことはなかったのに。


「ああ。イラストレーターの学校に行きたいんだ」


 絵描きなら、性別にとらわれず働ける。そこにある絵がすべてだから。

 性別の関係ない仕事なら、きっと自由でいられると思った。 


 でも、そうか。

 東京に行くなら、卒業したらリクと気軽に会えなくなるな。それは残念でならない。

 せっかく同志に巡り会えた気がしているのに。


「東京行ってからも長期休みには帰ってくるからさ、そんときはまたこんなふうに会おうぜ」


 和香の考えたことを知ってか知らずか、リクが言う。

 だから和香も本心で答えた。


「そのときはリクのために時間開けるから、いつでも来てくれよ」


 卒業してからも、いつだって会える。

 中学卒業のとき亜利以外の同級生とは一秒だって顔を合わせたくないと思っていたのに。

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