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いつか家を出る日のために

 夏休みになり、和香は近所の店でバイトをはじめた。


 家に居なくていい理由を作るため、家を出る資金を稼ぐためだ。

 

 兄も夏休みなのでずっと家にいる。そしてバイトをしていなくて、四六時中ゲームをしている。

 両親と兄の喧嘩を四六時中見ていないといけないなんて地獄でしかない。

 


 高校卒業後にひとり暮らしをするなら、どうしたってアパート契約の初期費用が必要になる。

 和香の真意など微塵も気づいていない様子で、母はバイト許可書にサインをした。


 大手のスーパーよりは小さく、コンビニにしては大きめ。冷凍食品と常温食品、雑貨を扱う店だ。

 やはり指導係のパートさんに、愛想があまりよろしくないことを指摘された。


「もっと笑顔で。お客様は神様なのよ!」

「はい」

「喋り方をもっとたおやかに。男みたいなのはやめなさい」

「すみません」


 レジの打ち方、クレジットカードが来たときの対応のしかたなどを教わり、練習モードで何度か打ったあと、本番となった。


 常連らしいおじさんが、レジに来るなり短く言う。


「セブン」

「はい?」

「だから、セブンだっつってんだろ!?」


 タバコの棚を指差して怒鳴られた。

 急いで棚を開ける。が、

 セブンと名のつくタバコが多すぎる。


 マイルドセブン、マイルドセブンライト、マイルドセブンスーパーライト、セブンスター他


「早くしろよ!」


 和香の戸惑いなどお構いなしにおじさんが急かしてくる。

 指導係のパートさんが入ってきてサッと一つ取りレジを通しておじさんの前に出す。


 おじさんは投げるように丁度の額カウンターに投げ、レシートも受け取らず出ていった。


「あの方がセブンと言ったときはマイルドセブンなのよ」

「すみません」


 初日でそんなん知るかボケと喉から出かかった。

 しかし客からしたら和香が新入りかどうかなんて関係ない。セブンと言ったなら要望のものを出せ、それ以外ない。

 しかもほかのおじさんがセブンと言ってきたときはセブンスターなのだ。


 人によってセブンの意味が違うなんて覚えられるか。正式名称で注文しろと、和香は怒鳴り返したくなった。


 初日から心が折れそうだった。

 そのあとは普通に食品のお客さんが数名。戸惑いながらもレジを終えて、その度パートさんから指摘が飛ぶ。


「重いものは下。パンは一番上よ。パンの上にものを乗せたら潰れちゃうわ。さっきのお客様嫌な顔してたの気づかなかった? 教わらなくてもちょっと考えればわかるでしょ」

「すみませんでした」


 そういうのは本番をさせる前に練習で教えといてくれ、と内心思った。



 和香は働きはじめてから、すみませんごめんなさいが口癖になった。


 それでも、いつか実家を離れる日のために耐えた。

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