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最近雇ったウチの事務員が可愛くてしょうがない。

作者: 火野陽登《ヒノハル》

はじめまして、火野陽登ヒノハルと申します。

至らぬ点もあるかと思いますが宜しくお願い致します。


小説投稿サイト【カクヨム】にて同名で投稿しております。他にも色々と謎の文字列どもを投稿しております。素人の拙い作文ですが、もしご興味あればお越しいただけると幸いです。


どうぞよろしくお願い致します。


⇒【カクヨム】

https://kakuyomu.jp/users/hino-haruto

 【1月1日】

 私の名は津賀美(つがみ)シンジ。

 父が経営する整形外科クリニックで医療事務長をしている。

 今年でちょうど30歳を迎える。

 昨年は新型ウイルスの流行で当院も大変だったが、こうしてまた新年を迎えられた。患者様や従業員の皆に支えて頂いたお陰だ。

 ありがたいことである。

 今年は私の人生でも節目の歳だし、日記でもつけようと思いこうして筆をとった。

 一発目。 まずは今年の目標でも決めよう。

 とりあえず、今度寿退社するパート事務職員さんの代わりの新人を見つけることだな。


 そして、やはり……… 今年こそ、結婚したい。



 【1月20日】

 応募が来ない。

 というか、反応がイマイチだ。

 だが想像はしていた。

 なにせウチは整形外科。小児科や内科に比べて圧倒的に人気がない。

 お越しになる患者様は御年配や事故に遭われた方ばかりだし、すこし医療事務をかじった人間なら内科や小児科よりも診療報酬算定が難しいことを知っている。

 しかもウチは時給が安い。ほぼ最低賃金と言っても過言ではない。

 だが整形外科である当院では仕方のないこと。

 ランニングコストが飛び抜けて高価いのだ。

 リハビリ用の機器やレセコン、その周辺機器のリース代。シーネ(ギプス)を初めとする固定具に、作業療法士や看護師に掛かる人件費…etc

 ああ、考えるだけで頭が痛くなる。

 とにかく、新人が決まるのを祈るばかりだ。

 


 【2月1日】

 今日は午後から面接だった。

 応募者は少ないながらも10名ほど居たが、半分は勤務条件が合わず辞退。1人は面接に来なかった。

 と、いうわけで希望者の4名を面接した。

 その中に1人、ものすごく可愛い子がいた。

 背が高くスラッとして、遠目にも美人と分かる佇まい。丸顔だが目はパッチリとして、どこかあどけなさが残る。雰囲気にも品がある。芸能人で例えるなら高田里穂と佐々木希を足した感じ。

 おまけに23歳と若い。

 少々引っ込み思案な気質なのか、声が小さ頬を赤らめていた。

 履歴書によれば彼女は中学から有名私立の進学校に通い、大学までずっと女子高育ち。

 本当に「良い所のお嬢様」という感じだった。



 【2月3日】

 採用の連絡を入れた。

 雇ったのはもちろん、あの23歳のお嬢さん。

 大学を卒業してから就職をせず、別のクリニックで数か月だけ働いていたようだ。

 まったくの未経験ではないが、正直長続きするか心配でもある。

 かといって他にピンときた人が居ない。

 それに、美人だった。

 もしかすると「美人な受付が居る」と評判になって来院数が増えるかもしれない。




 【2月8日】

 お嬢さんの入社初日。

 休診時間を利用して簡単な業務説明と顔合わせだけで終わらせた。

 だが彼女を見た瞬間、看護師もリハも他の事務員も皆一様に驚いていた。中には「可愛い!」と心音を漏らす者も。

 父と私以外、男性職員がいないことに、初めて「よかった」と思えた。



 【2月22日】

 お嬢ちゃんが入社して、ちょうど2週間が経過した。

 医療の仕事は覚えることが多いので、この辺りで辞めていく者も多い。特に若い子は。

 しかしお嬢ちゃんは頑張ってくれている。真面目で一生懸命で、患者様にも愛想が良く、気も回る。年配の患者様から「可愛らしい受付さんね」などと褒められ、頬を赤らめて照れ臭そうに笑っていた。

そんな仕草もまた、愛らしい。


 


 【2月27日】

 月末なので閉院後にレセプト作業の準備をしていた。

 事務の皆は特に残業をして頑張ってくれたので、クリニック近くのスーパーで飲み物など簡単な差し入れを買ってきた。

 お嬢ちゃんは家であまり珈琲やジュースなど嗜好品を飲まないらしく、私の買ってきたミルクティーやシュークリームにも喜んでくれた。

 甘いものを口にした時に浮かべた彼女の笑顔が、何よりも疲れた私を癒してくれた。



 

 【3月10日】

 次の市議会議員選挙で医師が立候補するらしい。それを応援すべく市の医師会が署名を集めていた。

 私や父だけでなく事務員やパート職員にも署名させるよう言われたが、住所や電話番号を書く必要があり、当選の暁には医師会からハガキが届くなど、皆嫌がった。

 当然だろう、私だってどこの誰とも知らない相手から御礼状など届けてほしくないし、そんな相手のために個人情報を与えたくない。

 とはいえ医師会からの要請もある。

 板挟みに悩んでいた私を見てお嬢ちゃんは「わたし、署名します」と言ってくれた。

 「いいの?」と私が尋ねると「事務長、困ってるみたいだから…」と案じてくれた。

 優しい子だ。

 私は目頭が熱くなった。


 


 【3月22日】

 髪を切った。

 私は父に似たせいが目付きが悪い。

 少しでも患者様に良い印象を与えられるよう、いつも髪を長めに揃えて優男風にしていた。だが最近は暖かい日が続き鬱陶しくもあったので、サイドを刈り上げツーブロック気味に短くカットした。

 従業員らは今更私の髪型が変わろうと何も言わない中で、お嬢ちゃんだけは開口一番「短くされたんですね、素敵です」と言ってくれた。

 一生この髪型をキープしよう。そう思った。

 



 【4月19日】

 お嬢ちゃんと先輩女性事務員が、休診時間に雑談をしていた。えらく楽しそうに話をしていたので何事かと尋ねると、お嬢ちゃんの好みの男性のタイプについて話していたらしい。どうやらお嬢ちゃんは真面目な年上の男性が好みだそうだ。

 すると先輩事務員(既婚女性)が「なら事務長と結婚したら?」などとふざけたせいで、お嬢ちゃんは顔を真っ赤に俯いてしまった。

 昨今ではそういうのがハラスメントに繋がるというのに……やめて頂きたいものだ♪




 【4月28日】

 もうすぐゴールデンウィークだ。

 お嬢ちゃんに「どこか遊びに行くのか」た尋ねたが、「コロナだし遊びには行かない」と言った。

 どうやら家族と過ごすらしい。

 彼氏とか居るのだろうか。まあ、こんなに可愛くて素敵な子だ。居ない方が不自然か。いったいどんな相手なのだろう。医者か、弁護士か。もしかすると俳優か。聞きたいけれど、セクハラになるので私は聞けない。事務員や看護師の誰か、それとなく聞いてくれまいか!




 【5月19日】

 ふと「私の苗字ではなく名前を知っているか」という話になった。お嬢ちゃんに尋ねると、「知ってますよ。シンジさん」と、少し恥ずかしそうにしながら即答してくれた。

 何故私はボイスレコーダーを持っていなかったのだろう。




 【5月28日】

 もうすぐお嬢ちゃんの誕生日だ。

 何故知っているのかと聞かれれば、履歴書に書いてあったから。

 私は職員の誕生日には、必ずプレゼントを贈っている。

 本当は商品券でも渡したいのだが、「プレゼントにお金」を嫌がる人も居たので、いつも何かしらのギフトをプレゼントしている。

 それとなく「今欲しいモノとかある?」と聞くと、「家族が健康でいてくれること」と言っていた。

 心まで美しい子だ。

 そんなお嬢ちゃんが喜んでくれるプレゼントとはなんだろうか…。

 



 【6月11日】

 結局プレゼントはバースデーブックと、ちょっと高級な洋菓子にした。一応デパートでしか買えないような小洒落た菓子だが、プレゼントとしては当たり障りなくありがちだ。

 だが、お嬢ちゃんは思いのほか喜んでくれた。わざわざ「これ欲しかったんです」とまで付け加えてくれた。なんと気の回る優しい子だろう。

 こんな娘が嫁さんに出来る男は、本当に幸せだろうな…。




 【6月12日】

 父から「従業員を食事に誘ったりするなよ」と釘を刺された。以前にも言われたことがあった。私がまだこのクリニックに来て間もない頃に、若い女性事務員(未婚)と食事に行ったことがあった。もちろん食事だけで肉体関係など一切なかったが、どこから漏れたのだろう他の従業員との間で噂になった。

 中にはあからさまに彼女に強く当たるようになった職員もいて、私と食事に行った子はそれからすぐに辞めてしまった。

 女性社会というやつか。父はこうなることを知っていたのだ。若い私にはそれが分からなかった。

 それからというもの、女性(特に既婚者や若い子)などと食事に行くことはなかった。父も以降そのようなことは言わなくなったが、今更どういうことだろう。




 【7月11日】

 院長である父から唐突に、「お前ももう30歳だな」と言われ、見合いをすることになった。

 相手は父が在籍していた大学の後輩(歯科医師)の娘らしい。

 しかも、その女性は医者だというではないか。

 年齢は今年29歳。地元の有名な医学部をストレートで合格し、一度も留年せず卒業した才女らしい。今年に研修医期間を終えて、今は大学の附属病院で勤務しているようだ。

 父の魂胆は分かっている。

 のクリニックの将来を案じて、一人息子である私に医者の嫁を取らせたいのだろう。

 そして嫁に来た医者を院長に仕立てて、この医院を継続していく算段なのだ。

 ふざけるな!

 誰が見合いなどするものか! 

 有名な医学部にストレート合格する医者なんて、どうせ高飛車でイヤミな女に決まってる! 

 どうせならお嬢ちゃんくらいの女を連れてこい、というものだ。




 【8月1日】

 昨日、見合いをした。

 美人だった……ものすごい美人。

 お嬢ちゃんが清楚な美少女とすれば、彼女は大人の色気を醸す聡明な美女といったところか。

 キリッとして頭の良さが際立っている、柴咲コウや北川景子に似た美人。

 ホテルのレストランで食事をしただけだが、たったそれだけでも品の良さと頭の良さが感じられた。

 おまけに気も回るし、ユーモアのセンスもある。

 申し分ないどころか、完璧すぎて私はちょっとひいた。

 まあ、どうせこんな素晴らしい女性が私など相手にするはずもない。

 フラれるのがオチだ。

 それよりも月初請求作業をしなければ。




 【8月3日】

 夢ではなかろうか。

 あろうことか先日見合いをした女性医師が私と「結婚を前提にお付き合いしたい」と申し出たらしい。

 優しく、面白く、だけど仕事には真面目な部分を気に入ってくれたのだとか。

 医療関係者の周りにはいないタイプの男なのに、医療に対して理解がある。「話していてとても楽しかった」とのことだとか。

 ……夢ではなかろうか。

 



 【8月10日】

 クリニックもお盆休みに入った。

 お嬢ちゃんは実家暮らしなので、ご家族とお婆様の家に帰省するらしい。家族想いの良い子だ。

 そして私は今日、見合い相手と初めてのデートをした。

 私も彼女も動物が好きだったので、デートスポットでも有名な水族館にやってきた。

 女性と二人だけで歩くなど何年ぶりだろう。

 緊張していた私を、相手の方が上手くリードしてくれた。情けない話だ…。

 レストランで食事をした後、お相手のほうから連絡先の交換を申し出てくれた。仕事以外で女性とメッセージを送り合うなど久しぶりすぎて、最初の返信には30分以上を要した。

 情けない話だ…。




 【8月29日】

 女医さんと2度目のデートをさせて頂いた。

 今度は映画デートだ。

 特に観たい映画など無かったが、他のデートの方法など私には分からなかった。私は邦画が好きで、オンデマンドやDVDで名作から迷作まで一通り齧っていた。

 すると偶然にも彼女も映画好きで、話に花が咲いた。女性と話していてこんなに楽しいと思えたのは久しぶりだった。

 彼女が教えてくれる病院の話も非常に勉強になった。




 【9月6日】

 今日お嬢ちゃんから「事務長、最近楽しそうですね」と言われた。

 「そうかな?」と私が尋ね返すと「いつもニコニコしてます」と言われた。

 私は背中に汗をかいていた。 

 尋ねるお嬢ちゃんの顔が、笑っていなかったからだ。

 なにか気に障る言動でもあっただろうか…。



 

 【10月25日】

 医薬品卸会社の担当営業(若い男性)が休診時間にやって来た。満面の笑みを湛えているので何事かと尋ねれば、開口一番「おめでとうございます! ご婚約なさったとか!」などと大声でほざきおった。もちろん、従業員らのいる前で。

 お嬢ちゃんの見ている前で。

 恐らく父が浮かれて口を滑らしたのだろう。早合点もいい所だ。

 私はまだ、婚約などしていない。例の女医さんとは良いお付き合いをさせて頂いているだけで、まだ体の関係も持っていない。

 私は担当営業にすぐさま弁明しようとしたが、営業は父に呼ばれて診療室へと消えた。

 するとその時、お嬢ちゃんが「事務長、結婚するんですか」と私に真顔で問うた。

 何と言って良いか迷った。

 とりあえず「まだしないよ」と笑ってみせると、何故か無視されてしまった。

 なにか、まずかっただろうか…。




 【11月8日】

 今日、お嬢ちゃんを泣かせてしまった。

 先週あたりから私を避けている素振りで、業務の引き継ぎ時も話を聞いてくれなくなった。

 だが仕事は仕事。業務に支障をきたして、患者様に御迷惑をかけてはいけない。

 私は事務所に彼女を呼んだ。

「私が何か不手際があれば謝るし、最悪私のことは嫌いでもいいから仕事の話だけは聞いて欲しい」というと、泣き出してしまった。

 私はただ戸惑い、謝ることしか出来なかった。




 【11月22日】

 お嬢ちゃんが退職を願い出た。

 今年いっぱいで辞めたいらしい。

 引き留めたが意思は固いようだ。「パートではなく正社員で仕事を探したい」と言われ、私は引き留められなかった。

 体の大事な器官を失くしたような感覚だった。




 【12月18日】

 医師の女性と、正式に婚約が決まった。

 10日に一度ほどデートを重ね、毎日のようにメッセージの遣り取りをした結果だ。

 私よりもお相手が強く希望したらしい。

 私などには勿体ない、本当にありがたい話だ。

 だが私は1週間だけ返事を待ってもらった。

 お嬢ちゃんが、ウチを辞めるまでの、一週間だけ…。




 【12月24日】

 お嬢ちゃんの最終出勤日となった。

 夜勤だった。

 職員らとも別れの挨拶を交わして、事務仲間からは餞別も貰っていた。

 私は花を贈った。

 お嬢ちゃんは喜んでくれた。

 これで彼女の笑顔を見れるのも最後なのか。そう思うと、身体が真二つに引き裂かれそうだった。

 脳みそが沸騰しそうだった。色々な思考が巡りすぎて、何も考えられなくなった。

  そして無我夢中の私は、


 「大好きだ。君のことが、今まで出逢った誰よりも、好きなんだ!」


 そんなことを、恥ずかし気もなくほざいていた。

 気付けばお嬢ちゃんの赤みさす頬に一筋の涙が流れていた。


 私が日記を付ける日は、もう2度と来ないだろう。

 

こちらは小説投稿サイト【カクヨム】にて同名で投稿しております。

恥ずかしながらラブコメ、SF、エッセイ、異世界系なども投稿しております。

どうぞ名前だけでも憶えて頂ければ幸いです。


⇒【カクヨム】

https://kakuyomu.jp/users/hino-haruto

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