手紙
ある朝、いつものように少女は固いパンを食べていた。なぜ固いのかというとそれはただ少女がパンを作ることに慣れていないからである。少女もそれには薄々気付いているようで、最近は小麦以外にじゃがいものような野菜も育て始めている。少なくとも固くて味のしないパンよりもただ焼いたじゃがいもの方が美味しいことだろう。
少女は日課のように郵便受けを見に行っていた。誰から来るわけでもないのに何度も何度も…そしてその日、そこにはあるはずのない手紙が置かれていた。
【素敵なお庭ですね】
たった一言。手紙というよりもただのメモに近いようなそれは、少女以外誰もいないはずのこの世界での少女に向けたメッセージだった。
少女はこの手紙を見つけて満面の笑み、そして文字を読んで更に太陽のような笑顔へ。誰もいない、何もないこの世界で初めての他者との繋がりに少女は歓喜したのだった。
早速少女は返事を書くことにした。一方的に褒められるだけじゃもったいないわとは彼女の弁。返事を書いたところで少女がその人に届ける方法は一切ないが、まあこの程度は今更である。
【お手紙ありがとう。私もあなたの家を見てみたいわ。次ここに来たときには私もあなたの家まで連れて行ってくれない?】
初めて話す相手とは思えないほど砕けた口調、手紙とは思えないような文ではあるがそれは少女の魅力とも言える。少女は手紙をきちんと封筒に入れ郵便受けの中に入れておいた。手紙を出した人本人が来ても、配送人が来ても分かるように封筒には『この手紙を見た人へ』と書いてある。
そして数日…一週間が経った。だが郵便受けの中にいれた少女からの手紙は誰にも読まれた形跡がない。
「きっと忙しいんだわ」
少女はそう思いながら、それでも少しの寂しさを感じて郵便受けを閉じた。
少女にとって手紙の相手はこの世界で初めて接触した人である。勿論姿を見たわけでも声を聞いたわけでもないが、手紙を書くことが出来て、郵便受けの中にいれておいてくれたのだから普通の会話もできる普通の人であろうと少女は確信していた。
最初はその姿を見ようと郵便受けを見張っていた少女だったが、実は送り主がシャイなのではないかと思ってここ数日はいつも通り庭仕事をしていた。しかし未だに返事はない。
こんなことなら最初から郵便受けの中に自分からの手紙を入れておけばよかったと後悔する少女であったが、今はただ待つことしかできない。
少女が寂しくなくなるまで、まだあと…




