第七話 おじさん、銀色の装丁の本を開く。
「空間内部の環境設定は問題ないようだね。それじゃあ、もう一度確認するけど嬢ちゃん達4人とチビちゃん2人でこの空間で過ごしていける?
おじさんはこの空間を出て地上を目指す事になるんだけど、おじさんが居ない時間は協力してやっていけそう?」
「うん、分からないけど、頑張ります」
フンスって感じで両手を握りこぶしにして、やる気を見せてくるサクラちゃんに微笑ましいものを感じいってたら、思い出したようにナツちゃんが
「そうだ、おじさん私レベル上がった!」
「え?」
突然レベル上がったって?なんで?
「水源から出てる湧き水を飲んだの。そしたら目の前に行き成り【レベルが上がりました】って文字が出て来たの。それでね【ステータス】を見てみたら【レベル】が横棒だったのが1になってたの」
「水を飲んだだけでレベルが上がったって事?」
「「「「うんうん」」」」
「え、全員頷くって事は、4人ともレベルが上がったの?」
とりあえず、4人をそれぞれ見てみると、【白文字】で【名前】と【レベル】と【状態】が頭上に表示され、確かにそれぞれの【レベル】が1になっていた。
「なんで???」
「お水を飲んだだけだよ」
ミサキちゃんが水を飲んだだけと主張するが、ここの水はレベルを上げる効果でもあるんだろうか。自分も飲んでみよう。チビちゃん二人と遊んで喉が渇いてるし丁度いいや。
「ちょっとおじさんも飲んで来るね。チビちゃん二人も連れて行こう。マイちゃんも一緒に飲んで、チーちゃんにはストローマグを濯いで、水を入れて飲ませてあげて欲しい。」
そう告げながらチビちゃん二人を抱き抱えながら水源に移動し、自分の分とマイちゃんの分のコップをナツちゃんから受け取り、水を汲み飲んでみるも普通においしい水なだけだった。
水源の少し下の方でサクラちゃんがストローマグを濯いでるのを見ながら、首を傾げつつコップに残った水を飲み干すと。
「おいちゃん、ないかでちゃ。」
水を飲み首を傾げていると、マイちゃんが自分の目の前を虫でも払う様に手を動かしながら、何かが出たと言ってる。
マイちゃんの頭をなでなでしながら見つめてみると、嬢ちゃん達4人と同じ様に、【白文字】で【名前】と【レベル】と【状態】が頭上に表示され、【レベル】が1に上がってるのが確認出来た。
「マイちゃんも【レベル】が上がったようだね。本当にどうなってるんだろうね。」
サクラちゃんからストローマグを受け取って水を飲んでたチーちゃんを見てみると、飲んだ後にマイちゃんと同じ様に目の前をはらう様に手を動かしてるのが分かり、同じようにチーちゃんを見つめてみると、チーちゃんも【レベル】が上がっていた。
「チーちゃんも【レベル】が上がったようだ。おじちゃんは何も無かったのはすでに【レベル】が上がってたからかもね」
「まぁ、【レベル】が上がる事は【ダンジョン】内では有り難い事だし、問題は無いとは思うから今後も様子をみよう」
「「「うん」」」
「さてと、この空間内部には魔物は出る気配は無いようだから、ここを拠点にして地上を目指す事にするで良いね?」
「でも、おじちゃん一人で地上を目指すんだよね、大丈夫なの?」
ミサキちゃんが本当に心配そうに聞いてきたから、本音で答える事にする。
「うーん、おじさんにも分からないよ?絶対に大丈夫とは言えないけど、君達と約束はしたからね親元に連れて行くってね。だから頑張るけど一人じゃ無理ってのも言っておくよ。
おじさんが地上を目指してる間のこの空間では不安になる事もあるだろう。おじさんの約束の中にはチビちゃん二人も無事に親元へ連れて帰るってのがあるからね。
君達4人には、おじさんが居ない間はチビちゃん二人が怪我とか病気とかしないように注意して貰わないと、おじさんも安心出来ないからね。
最初の内は出来るだけ短時間でこの空間に戻って来るようにして、皆が慣れて来たぐらいから少しずつ攻略時間を増やす感じでやっていこうと思ってる」
いきなり長時間もここに放置されたと感じちゃうと不安になるだろうしな。
「最初の目的は、最初の広場から出発して食料を探す事にするよ。それにおじさんの【レベル】が上がった事での体の動きとかも確かめつつ進めないと駄目だしね」
運動性能が上がったような気がするんだよな。
「そうだ、確かめないと駄目な事がもう一つあったんだ。この本の事なんだけどね」
そう言って、リュックサックの近くに置いてた銀色の本を持ち出して、見せてみる。
「ああ、さっきリュックサックからコップを取出す時に気になった本だ。持とうとしても持ち上がらなかったし、開く事も出来なかった本だよね」
ナツちゃんが本の事を触ってたみたいで、持ち上がらない事や開かなかった事をアピールしてきた。
「そうそう、おじさんも【レベル】が上がる前は持つ事も開く事も出来なかったんだけどね、魔物を倒した後に【レベル】が上がった事で持ち運べる様になったし、開こうと思えば開く事も出来る様なんだよ。
昨夜に皆が寝てる時にね、スキルとかの確認をしてた時にも本が気になって触ったりはしてたのね、でさ魔物の【ドロップアイテム】とか鉱石を触ったときってさ、【名称】と【レベル】が分かったよね?」
「あ、そうだったね、でもその本を触ったときは、持ち上がらない事と開く事が出来ない事しか分からなかったよ?」
ナツちゃんが本を触ったときに名称が出なかった事に頷いてくれる。
「おじさんも持ち上げたり開く事が出来そうだとは分かったんだけど、この本の【名称】や【レベル】は触ってもポップアップって言うの?目の前に文字が浮かんで見える感じの見え方がしなかったから、不思議に思ってね。まだまだ【ダンジョン】内のルールか[神]様の決めたルールなのか、謎がある事が分かるよね」
「「「うんうん」」」
嬢ちゃん達も、同意する様に首を縦に振ってる。
「でね、本が気になるから開こうと思ったんだけどさ、夜の寝てる内に開いて何かあったらと怖かったから今まで放置してたのね。
もし開いてさ何処かに転移?飛ばされたりさ、おじさんだけ消えちゃうとかさ、そんな事があったらと思うと怖くて、皆が寝てる時には開けなかったのね。
でもね、気になるから今開いて中を確認してみようと思うんだけど、皆はどうおもう?」
開いてみようと思うと言った後は、嬢ちゃん達はそれぞれが考え出してしまったようだ、開いてみようと提案する前に、自分が怖いと思った内容が引っかかってるような感じだな。
「おじさんが言った様な事になったら・・・・」
サクラちゃんは不安なようだ。
「確かに、おじさんが言った事も怖いけど、その本の内容が【ダンジョン】内のルールブックだったり、脱出する為のヒントだったりした場合も、ありえるんですよね?」
ナツちゃんが、自分でも考え付かなかった事を言い出したので、目から鱗が落ちる思いがした。確かにルールブックや脱出のヒントだったりもあり得る事だわ。自分は罠の類ばっかりを心配してたが本当に自分の発想力の低さには呆れるな。
「!?ナツちゃんが、言った事も確かにあり得るね。おじさんはまったくその発想は無かったよ」
「その可能性があるなら、開けちゃえば?」
ミサキちゃんが、開ける事を提案してきた。
「よ・よし、開いてみよう。おじさんは不安な事ばっかり考えてたけど、確かにプラス方面の事もあり得るもんね。少し下がってて。爆発とかしないとは思うけど、念の為ね。」
全員を少し下がらせてから、本の表紙部分に指を引っ掛けて、本が開くかの確認をしてみると確かな手応えがあり表紙が僅かばかり浮き上がる。
一度深呼吸をしてから、周りにいる全員を見回して軽く頷き、本へ視線を戻しゆっくりと本を開いていく。
その瞬間、本から中空に文字が浮き上がって来た。
【ランダムシルバースキルブックが開かれました、ランダムでスキルが付与されます。】
その文字が中空に表示されると同時に、本のページが勢いよく捲られていくが、どう見ても装丁されてる以上のページが捲られてる感じがし、ページ数が無限にある感じだ。
しばらくページが捲られているのを眺めていると、突然ページが捲られるのが止まり、その瞬間本が銀色に輝き光の玉が中空に浮き出て来たと思った瞬間にその光の玉が自分目掛けてぶつかってきて、胸の中に入り込むようにして体の中へ消えて行ったと同時に、目の前に【ステータス】画面が開き。
〔スキル:造形術Lv67〕を取得しました。
光の玉が吸い込まれていった胸の辺りを触ってみるも特に何もなく、ドキドキしていると。
「おじちゃん、大丈夫なの?」
ミサキちゃんが、心配そうに声を掛けてきたので大丈夫と答えてスキルが手に入ったと伝える。
「さっきの本は【ランダムシルバースキルブック】って物だったみたい。それで〔造形術Lv67〕ってのを取得したと言われた。」
「「「それって何?」」」
「造形術?」
「「「うんうん」」」
ふむ、流石にこの年の子供達じゃピンと来ないようだな。
「多分だけど、形を変える為に使うスキルだと思う。例えば粘土をこねくり回して手で形作るのを【スキル】が補助してくれる感じかな?
スキルを取得した時に使い方も頭の中に流れてきたから、使えるとは思うけど口での説明は難しいかな。ちょっと荷物置き場にしてる空間に鉄棒を取りに行ってくるから少し待ってて、スキルを使って見せた方が早いと思う」
「「「「はーい」」」」
そう言って、一度空間から出て〔ゲートオープン〕と唱え荷物置き場の空間に入り、持てるだけの鉄棒や支柱を抱え、子供達の居る空間へ戻る。
「ただいま~」
「「「おかえり」」」
「それじゃあ、スキルを試してみるね」
「うん」
鉄棒の支柱を一本手に持ち、〔造形術〕スキルを使うと意識すると支柱に魔力が流れて行くのが分かる。
「それじゃあ、この鉄棒の支柱のペンキとか錆を分離して鉄だけにしてみるね。」
塗装や錆と分離する様に集中していると、手に持った支柱がぐにゃぐにゃと動き出して、地面に塗装分や錆が落ちて行き、支柱だった物は今ではインゴットの様に銀色の鉄だけの塊りと化し一纏まりになっていた。
「ほぇー」
ミサキちゃんが、見入る様に呆けていた。
「こんな感じで材料にしたりね、お次は・・・・と」
もう一度、手に持った鉄だけのインゴットに〔造形術〕を使うと意識して形を変形させる様に集中していき、家庭用の深鍋の形を意識すると魔力がインゴットに浸透していき、またまた金属がぐにゃぐにゃと動き出したかと思うと、取っ手も何もない深鍋みたいな物が出来上がった。
「こんな風に形も変える事が可能なようだけど、おじさんの想像力じゃ練習がかなり必要って事だね・・・(汗
一応ね、家庭用の深鍋を意識はしてみたんだけどさ、最初だしね・・・」
「変な形ー」
ミサキちゃんが、思った事をズバッと言い、おじさんの心にグサッと刺さったよ。。。
「まぁ、練習するよ、必要な物が作れるようにね・・・」
「さ、最初だし、初めてやるんだから上手く出来ないのも仕方ないよ、おじさん」
サクラちゃんが慰める様に言ってくれて、その優しさがうれしいよ。
「うん、ありがと。
さ、さてと後は練習するとして、リュックサックはこっちに置いておくから食べ物の管理はサクラちゃんに任せても良いかな?」
「はい!」
「それじゃあお願いするね。チーちゃんにカルピスを与える場合だけは10倍以上に薄めてほんのり味がする程度で作るようにして、食料が見つかるまではクッキーだけはチーちゃん用にしてあげててね。マイちゃんのカルピスも気持ち薄めで作るようにしてて。それからー後は何かあったっけ?」
「うーんん、食べ物の管理ぐらいかな。危険な物は今の所は水場だけだから、マイちゃんとチーちゃんはちゃんと注意してみておくよ。」
ナツちゃんが、最初に注意した事をしっかり覚えておいてくれた事が嬉しくて、おじさん涙出そうだよ。
「オッケー、それでは食料を探しに出るね。最初だから1時間ぐらいで戻る様にするからね。心細いかもしれないけど、協力して頑張っていこう!」
「「「「はーい」」」」
嬢ちゃん達がしっかりと返事してくれたので、攻略に向けて第一歩を踏み出しますかね。
嬢ちゃん達が居た空間から【ダンジョン】内に出て、まずは荷物置き場の空間に移動して、水場とかの環境設定を済まし、鉄棒と支柱を使って鉄のインゴットに作り変え保管する。
次に鉱石を〔造形術〕で材料にしようと思い手に取り【スキル】を発動させるが、これはまだ扱えない物だと理解でき諦める事になる。
「さて次は武器や防具になりそうな物を考えないとな」
つい声に出してしまったが、寂しさから来るものだろう。所謂独り言ってやつだ・・・
サーベルデスラビットの角を慎重に持ち空間を出て、角の形状をしっかりと見てみると先端から根本までが刃になっており、今のままでは持ち手が無く武器には出来ないのでなんとか持ち手を作る方法を考える事になった。
まずは、布おむつモドキを作ってもらう際に出た、Tシャツの端切れで付け根部分を巻いてみるも、巻いたとたんから刃に触れた部分が切れてしまい、持ち手としての役目は期待出来なかった。
次に〔造形術〕で加工が出来ないかと【スキル】を発動させてみるもこれまた扱えない素材である事が判明しただけに終わった。
刃の部分を潰す事が出来れば端切れを巻き付けて持つ事も出来るんだがと、????の鉱石で根本の刃部分を潰せないかと叩き付けるも、鉱石の方が欠ける始末。
「困ったな、この角硬すぎるぞ」
考えても良い案が思い浮かばないので、荷物置き場用の空間に移動して鉄のインゴットを利用して〔造形術〕で角の形を真似て成形してみるを繰り返し、〔造形術〕に慣れて行く練習にしばらく充てた。
しばらく没頭して成形をしてはインゴットに戻してを繰り返し、なんとか形だけはソックリに成形するまでに至ったものの、武器としての性能を有しているとはとても思えなかった。なので先端から10センチほどで切り落とし、包丁へと成形加工して総鉄製の包丁を1本作る事に成功したので、包丁の刃先を収納できるような鞘モドキも作成し、一旦嬢ちゃん達の所へ戻る事にする。
「ただいま~問題なかった?」
「「「おかえり」」」」
「マイちゃんが、おじさん居なくなって愚図った位だけど、しばらく遊んであげてたら忘れた様で楽しくしてたよ。」
「そっかーやっぱり愚図ってたかー。マイちゃん、ただいまー」
そう言って、マイちゃんを抱き上げ高い高いをし、抱っこする。
「お昼はおじさん戻らないから、適当に食べててね。サクラちゃんに任せたからね後何回分か、うまい事調整してやり繰りしてね。」
「はい、でもおじさん朝も何も食べて無いけど、大丈夫なの?・・・」
「うん、大丈夫だよ、おじさんは夜に一食生活もしてたぐらいだからね」
そう言って安心だけさせておくが、この小太りな体型を見ても分かると思うが、実際は一日3食以上は食ってたんだよね、【レベル】が上がった事で特に空腹になったりしないから助かっては居るが。
「じゃあサクラちゃんに任せるから、こっちの事はお願いね。おじさんはチビちゃん二人を抱っこして、心のエネルギー補充してからまた外に出るよ。」
そう言って、マイちゃんとチーちゃんを抱っこして抱きしめる。
「ギューっと、そしておひげさんだぞー!!!」
「キャッキャ」「おいちゃん、いちゃいよぉー」
「うりうり、おじちゃん頑張るぞー」
ふぅ、そっと二人を降ろし行って来ますと、空間の外に出る。
本当に未だに眠気も来ないし、腹も減らないな。とりあえず荷物置き場空間に入るためにゲートオープンと念じて金枠の出入口を出現させ、ピンとくる。
角をこの出入口の切断を使って加工出来ないかな?、鉄棒の支柱は切断出来たり抉り取ったり出来たよな。閃いたならやってみるべきだわ。
空間内に入り角を慎重に持ちだして、ゲートオープンと閉じるを繰り返しながら角を加工していくと持ち手の部分の刃を抉り落とし、多少のでこぼこにしてTシャツの端切れを巻き付けて行き両手で持てる程度の持ち手を作成する事に成功する。
刃先の見た目は方手持ちのシャムシールのような形状なのに、重量的な問題から持ち手が長く両手持ちになってる。
「とりあえず、武器はこれで行くしかないな」
防具が欲しいが、鉄しか材料が無いし量もそんなに残ってないので、腕と足のすね当て位を作ってみるか。
荷物置き場の空間内に入り、まずは水場で水分補給をしてから鉄の残量を確認して、手か足のどちらかしか作る分量しかないなと判断し、どちらが重要か黙考する。
腕は武器が重いから、すね当てを作ってみるか。
サッカーのレガースっぽい物でも出来れば上出来だろうと、平らに伸ばした鉄を自分の脛にあてがいながら〔造形術〕で成形していくが思い通りにいかない。
駄目だ裏地も無いし金属がズボンの上からとは言え直接当たるのは地味に違和感が凄いし、それに何と言ってもベルトも何もないから脛から脹脛までを覆ってしまう作りになってしまい、動きが阻害される感がするのと、〔造形術〕で装着してるので咄嗟に外す事も出来ないのでは不安しかない。
仕方がない、防具はこの際諦めて次に進もう。まずは【レベル】が上がった事で上昇した能力値の数値分の運動性能の把握だな。
空間から外に出て、最初の広間で体を動かしてみる。
「・・・・・・・・」
「なんじゃこりゃーーーー」
あまりの驚きに、子供の時見た刑事ドラマの腹を撃たれた刑事の如く叫んでしまったのであった。
お読みいただきありがとうございました。