関係者のその後4
まだ続きます。
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河辺夏美&春美 時間が戻った直後
私たち姉妹は、弟の面倒を掘っ立て小屋の中で見てたの。両親と祖父は、おじさんと、おじさんのお母さんに酷い事をしちゃってて【赤色表示】になってしまってたのよ。それを少しでも償うために【ダンジョン】に食料を得に行ってる。
まぁ、結局はおじさんから食べさせて貰った食料で【レベル】を上げたから他の【赤色表示】の人達よりマシって感じで【魔物】と戦えてるんだけどね。今更試練の脱出直後の事を言ってもしかないから言わないけど、桜や岬と同じ感情ではあったのよ。
話を戻すけど、両親と祖父が食料を集めてる間は妹と弟の面倒を見るのが日常だった、それが突然と試練開始の日に集まってた鉄棒の前に移り変わったの。
すごく混乱したけど、すぐに〔神〕様のお告げがあって時間を試練開始の前に戻して試練は行わない事にしたと。
そこで、辺りを見回してみたけど、私たち四人とマイちゃんとチーちゃんは近くに居たけど、おじさんだけが自転車で通るはずなのに、一向に通らないから不思議に思っちゃってたら、突然に岬が泣き出したけど理由が分からずに岬を自宅に送って行く事になったの。
桜がマイちゃんママにおチビちゃん二人を任せて、私たち三人で岬を送って行ったの。そのあと直ぐに解散になったんだけどね、妹のハルと一緒に自宅に帰ると、お母さんが居て混乱してたけど〔神〕様のお告げで時間が戻ったと喜んでた。頭上の表示も【白色表示】にはなってたんだけど、【ステータス】の中には「阪本仁の誹謗中傷を拡散した者」「阪本仁の母親を死に追いやった一人」と目立つように出てると言ってた。
それでも私たち姉妹は見たくない表示を見なくて済むなら心穏やかで居られると受け入れたの。
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川辺夏美 七か月経過後
結局あの日に初級【ダンジョン】に入る事はなかった。桜が話を聞き終わって直ぐに急用と言い出して皆に謝って急いで帰ってたのもあったし。私たち同年代組と将大君のお兄さんのパーティーの人も話の内容が凄すぎて【ダンジョン】どころの心境じゃなくなってた。岬もずっと泣き続けてたしね。
にしても、試練の最高難易度【ダンジョン】が、あそこまでとは思ってなかった。異空間に入って来るおじさんは、いつも安心させるようにしか話さなかったし。
始めの頃の左手先を食い千切られた事だけが衝撃事件だったの。何度も手足を切断するような大怪我を負いながら私達が知らない所で回復させてから心配掛けないように戻ってきてたなんて、思ってもいなかった。
それにしても、おじさんが岬の実のお父さんで、お兄さんまでどこかに居てるなんて話には驚いたけど六か月間の岬の行動もシックリ来た。だっておじさんが既に居ない事を知ってしまってたんだもんね。
親友なんだからもう少し早く教えてくれても良かったのにとは思ったけど、言った所で本人にしか分からない葛藤があったんだろうな。
舟木さんパーティーは心痛な面持ちだったけど任務だからと初級【ダンジョン】に入って行った、流石は大人だと思ったけど無理はしないで欲しいとも心底思った。
岬の告白から半月程経って保存食は底を突き、調味料も買い置き分が無くなったら手に入れる方法が無くなる。でも建物があって電気が使える可能性があるだけまだ希望はある。前回の時は時間が経つ毎に建物が崩壊し消えて行ったからあれを思い出せばまだマシ。
前回と違う所と言えば、プラスチックゴミだけは中身を使い切ると白い光の粒子となって消える事かな。〔神〕様も地上に残したくないのだろう。
ついでに言えば、ごみの回収は各自治体でしてくれるが各【ダンジョン】前まで運んでからは、人力で【ダンジョン】内の決められた部屋へ運び込んでる、3時間で綺麗に消えるのでエコらしい。
なので電気自動車のトラックが大活躍で、塵芥車こと通称パッカー車は姿を消した。
最終的に人力で【ダンジョン】内へ入れる事により圧縮されたゴミはゴミ袋から中身が飛び出して運んでられた物じゃなかったそうだ。
そのうち加工品のゴミ袋も在庫がなくなれば作られる事は無いので、代替品がなにかしら出て来るとは思うけど、そこは大人の人に任せるしかない。
それと各家庭には電気は来てないが市役所に行けばスマホやモバイルバッテリーの充電ならさせてもらえるし、火力発電所の改装がもうじき完成するとも町内放送でも流された。
原子力発電所は資源回収の時に〔神〕様によって建造物ごと消された。日本では過去の地震で事故を起こした福島の原子力発電所も綺麗に消されて、周囲は完全に除染もされたそうだ。日本でこうなのだから世界でも過去に起こった原発事故の場所が綺麗になってると思う。
電気さえ戻ってくればオール電化住宅の我が家なら生活は楽になる。それにおじさんが覚えさせてくれた【スキル】も姉妹共々凄く役立ってるし。
「おじさんが楽しみだと言ってくれた料理をこれからも作り続けるね」
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川辺春美 七か月経過
岬さんの話は強烈だった。だって異空間に入ってくるおじさんは、いつも状況を説明してくれたけどそれが困難な事だとは一度たりとも聞いたことがない。自分が知ってるのは左手先を食い千切られてしまった時ぐらいだ。いつも、何とかなるよって言ってくれてたし。
いつもマイちゃんとチーちゃんと楽しく過ごす姿しか記憶にない。人見知りする私にも一定の距離感を持って接してくれてたし、良いおじさんだった。
私はたまにマイちゃんとチーちゃんの家に行っては、チビちゃん達と遊ばさせて貰ってる。
マイちゃんママとパパは時間が戻る前までは【赤色表示】だったから、マイちゃんとチーちゃんとの【レベル】差が大きくて手に負えない事が増えたらしいの。
おじさんがちょくちょく来ては、離乳食やミルクやフルーツや甘味と与えるもんだから【白色表示】だったマイちゃんとチーちゃんは普通に食料の恩恵を受けれてたが、ママさんパパさんは、それが微効果のため【レベル】に差が付いては、差は開く一方だった。
そう言った訳でママさんパパさんが初級【ダンジョン】に行って食料と【レベル】上げをしてる間は遊びに来てる。
一度だけ弟を連れて来た事があったんだけど、あの時はチーちゃんに握られただけで痛がって大変だった。
弟もおじさんの提供してくれた食事会で【レベル】アップはしてる筈なのに、やっぱり二か月のアドバンテージはマイちゃんとチーちゃんに軍配が上がるようだ。まぁ、チーちゃんに手加減をってのも無理な話だよね(汗
「おじさんも、チーちゃんの手加減には頭を悩ませてたしね」
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三木茂樹(通称:大将 )試練開始前の時間へ
俺は確か贖罪の為に【ダンジョン】に入り食料を集める為に【魔物】と戦っていたはずだ、それがなんだ?以前経営していた居酒屋の厨房で煮物の火力調整しながら、突き出しの酢の物の下拵えをしてる。一体何があった?そう考えた瞬間に時間が止まり〔神〕様のお告げがなされ、試練開始前の時間に戻されたと言う。
何もかもが当時のままで店内で暴れられた形跡すら無い。混乱が激しく営業出来る心境でも無いので閉店とした。
そうこうしてるうちに【ダンジョン】に一緒に入っていた馴染み客でもあった仲間が店に駆け込んで来た。
「大将一体何がどうなってるんだ?」なんて聞いてくるが自分にも分からない。
分かっていることは自分が未だに【黒色表示】で「交通違反常習者」って表示されてることぐらいだろうか?
店内はL字カウンターにテーブル席が4席と小上がりの座敷席が3席有るだけのこじんまりした作りの店だ、常連連中は固定位置を勝手に決めて座るが新規客とかが来ると席移動してくれたりと協力的で大変助かっていた。
仁の捏造報道が加熱するまではだけどな。常連の中にも仁を批判してた奴はいたし、酒の肴にして好き勝手に話す奴もいた。出入り禁止にしたけどな。
それにしても、時間が戻されたがなにをどうしたら良いのかサッパリわからねぇ。
試練がされないって事は、仁の誹謗中傷や仁の母親が追い詰められる事も無いって事か?ダメだ、考えてもやっぱり分からねぇ。
とりあえず、嫁と娘の無事を確認する為に久しぶりに?スマホで通話した。記憶だけが数か月先に進んでて違和感が凄いが消えたスマホが無事にカウンター上に置いてあったから使ってみた。何を言ってるんだ俺は・・・
嫁と娘も混乱はしてたが、家にいて特に何もなかった。ホッとするも何が何だか分からない事だけが分かった。
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三木茂樹(通称:大将 ) 一か月経過時
時間が戻ってから普通に居酒屋を経営していたが、ふと思った。いつも卸して貰ってる業者も、もうじき卸す商品自体なくなるのではと?
仁の奴も言ってたしな、手に入るだけ調味料を掻き集めて卸して貰う事にした。勝ったな!
・・・・・・・・・・・
そうは甘くなかった、俺の考えてる事なんて既に一か月前から実行されてて、調味料争奪合戦が繰り広げられてるらしいわ。勝ったと思った俺はバカだ(遠い目
嫁に泣きついて慰めて貰ったけど、娘には馬鹿にされた。ついでに仁の事を思い出し我が子に会えたんだろうかと気になってしまった。
それからも普通に居酒屋を営業してるが、まだ動物の隔離は始まってないので減ってるの調味料だけ。
そんなある日、嫁から店に電話が掛かってきた。嫁が店に電話するなんて珍しい事なので少々焦ってしまったが、話の内容はSNSに仁の事が書かれてるって事だった。妻に教えてもらった掲示板を見に行くと本当に仁の名前が書いてあって驚いた。
「信じられないかもしれないが真実を書く、阪本仁がその身と魂を捧げて〔神〕様が時間を戻す事にしてくれた」
SNSの書き込みを何度読み返してもそう書いてある。しかもその後の否定的意見者達の哀れな結末まで読むと、この書き込みが真実なのだと思わせられてしまった。
まじか、真実なのだとしたら仁とはもう会えないって事か。いや、俺はいつかひょっこりと店にやって来るのを待つさ。仁の事だ「熊の大将、元気かー」って入ってくるに違いない。
お読みいただきありがとうございます。