第五話 深い穴の底で③
誤字報告本当にありがとうございます。
拙い文章ですが誤字報告より勉強させて頂いております、ありがとうございます。
感想の返事は個別には出来る時間がございませんが出来る限り目を通し前書きや作品紹介文の訂正も頑張らせて頂いておりますので感想へのお返事はご容赦頂けますようお願い申し上げます。
[ステータス]
【名前】:阪本 仁
【年齢】:44
【性別】:男性
【レベル】:531
【状態】:バツ1
【善悪値】:83
【性格】:おだやか
【結婚可能人数】:5人まで
【生命値】:117484
【魔力値】:115493
【筋力値】:45856
【体力値】:37881
【器用度】:43863
【敏捷度】:27913
【知力値】:31900
【精神力】:39875
【 運 】:67
《スキル》:造形術Lv74、頑健Lv52、怪力Lv69、機織Lv8、裁縫Lv9、糸紬Lv26、鋳造Lv1、鍛冶Lv1、採掘Lv1、陶芸Lv1、調合Lv1、料理Lv3、手芸Lv49、錬成Lv3、錬金術Lv2、火魔法Lv2、土魔法Lv1、風魔法Lv2、水魔法Lv72、回復魔法Lv1、解毒魔法Lv1、解呪Lv1、威圧Lv1
《固有スキル》:[異空間創造作製Lv8]
《加護》:[女神様方の寵愛]
[簡易表示]
【善悪値】の数値により、簡易表示は【銀色文字】で表示されます。
【名前】:おじさん
【レベル】:531
【状態】:常に小さなイライラ
会見の日から気持ちを落ち着ける為と、我が子の足取りの確認が出来ない事への鬱憤晴らしで【ダンジョン】内ではっちゃけ過ぎた結果がこれだ、スキルは単純に【スキルブック】を使った順に記載されている、【レベル】が高い〈糸紬〉は【シルバースキルブック】と言うものを使ったから、これはスキルレベルだけランダムで手に入る代物で。〈手芸〉なんて覚えたのは一番最初に使った【ランダムシルバースキルブック】を使ったからだね。流石に自分でも望んで〈手芸〉なんてスキルを覚えようとは思っても居なかったし。
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深い穴の底
さて話を戻そう、穴の中に飛び込み底に到着した自分は聞こえてくる衝撃音と苦痛に呻く人の声のする方へ急いだ。そこで目にしたのは大きな爬虫類に咥え込まれてるサクラちゃんの姿だった。危機一髪と思い爬虫類を蹴り飛ばしサクラちゃんを解放するも、両足が噛み切られた姿で地面に落ちた。
一気に爬虫類を粒子に変えサクラちゃんを抱きかかえて異空間内に連れ込んで【エリクサー】を飲み込ませようとするも、サクラちゃんは飲もうとしないので、キツメに飲みなさいと促すと大人しく飲み込んでくれた。
効果は素晴らしいもので、失った両足が綺麗な状態で元に戻り体に受けて居た傷も無くなっていた。慌てて異空間からサクラちゃんを連れ出し他の子供達にも上級ポーションを飲ませると、誰一人として命を落とさなかった事に安心した。
落ちて来た穴の上に向かって大声で「子供たちを発見したが深すぎるので保護しながら上の階を目指すので安心してくれと伝えてくれ」「聞こえたか!」「こっちには何も聞こえないが聞こえたなら壁面を叩くなりして音を出してみてくれ」すると。
コーンコーンと音が響いてきたので伝わったようだ。
「さて、サクラちゃん君は13歳だ法律で決まってはいないが15歳以上と決められた【ダンジョン】になんで来た?君はそんな無謀な事をする子じゃないだろ?」
「ごめんなさい、キヨちゃんが心配で」
そう言いながら泣き出してしまった。
「他の子もなぜ【ダンジョン】に来たのか話してくれるか?」
「「「「「ごめんなさい」」」」」
「ごめんなさいは今は要らないから、どうして【ダンジョン】に来る事になったのか話して。君たちは見たところ全員が【白色表示】されてるから悪い事をしようとしたんじゃないとは思うけど、どうしてかな?」
優し気に問うと、事情を話し出してくれた。要約すると英雄になりたかった少年が夢見がちでサクラちゃん、ナツちゃん、ミサキちゃんを引き込む作戦でキヨちゃんに接触したと白状した。この際キヨちゃんと言う子の気持までは考えられないが良い気持ではないだろう。
「なぁ、君はなんて言ったかな、将大くんだったっけ」
「はぃ」
「おじさんが理解してるだけの話で申し訳ないんだけど、この地球上で英雄って呼ばれてる大半の人は大量虐殺者か大量略奪者が多いと思ってるよ、おじさんの偏見が多く含まれてるけどね。
将大君が思い描いてる英雄ってさ、漫画やアニメの中での英雄像じゃないのかな?この地球上にはあんな英雄は一人も居ないのが現実だよ、これもおじさんの偏見が含まれる意見だけどね。
おじさんの救助が間に合わなければ、今回の事で将大君は同級生を死なせた人物として少数の人や同級生の記憶には残れたと思うけど君はそんなのになりたかったのかい?」
「ち、ちがいます」
「それじゃ、大量虐殺者や大量略奪者になりたかった?」
「それも違います」
「それじゃ、アニメや漫画の架空の英雄を目指した?ってっことだよね?」
「う、そうなります」
「そんなのは、その作品を作った人の頭の中だけの英雄で実際にはなれないのが現実だよ?」
「・・・・・・」
「でもね、これからの先の世界では【ダンジョン】から食料を取って来れる人や建材を持ち帰れる人は、英雄と呼ばれるようになるかも知れないね、知らんけど。
今回は生き残ったし、時間を掛ければ地上にも出られる叱られるのは皆覚悟しとかないといけないけどね。でも一晩も生き長らえたのも事実だし、おじさんの救助がギリギリ間に合ったのも運が良かった。君達はまだ運が良い方だと思うよ。
これからの事を話すけど良い?これからは皆の足で歩き【魔物】を倒しながら上を目指し移動する。【ダンジョン】がどんなに怖い所か知らないと英雄にはなれない」
「え、おじさんの異空間でじゃないの?」
「サクラちゃん、あの時とは状況が違うよ?今回は皆が自分の意志で入った結果罠に掛り命を失う一歩手前まで経験した。いまのまま異空間に入って外に出たらどうなると思う?もう二度と【ダンジョン】に入れない心になるよ?おじさんはそれでも良いけど〔神〕様はそんなのは望んでないと思う。ちゃんと強き善き魂には〔神〕様は恩恵を与えてくれるはずだし、魂を鍛えないとこの先辛くなるよ?
ただし、おじさんが出口までは君達の命の保証をしてあげる。絶対に死なせはしない。立ち上がれない者はもう面倒をみない。異空間で出口に行くまで安全に軟禁してあげる。
強くなりたいなら立ち上がろう」
そう言ってそれぞれ子供の顔を見ると悩んでる人や何かを決意した人とそれぞれだ。
「私は強くなりたい、山之内さんを見てて憧れた!」
「私もサクラちゃんみたいに弱い人を守れるようになりたいです」
「俺も考えを改める。英雄なんてなりたいとはもう思わない。おじさんの言うようにアニメや漫画の偶像に影響されない強い自分になりたいです」
「僕も強くありたい」
「僕も怖いけど置いて行かれたくない」
「私もおじさんに助けてもらって甘える癖が付いちゃってたみたい。おじさんが見守ってくれるなら安心だしやってみる」
「よし、よく言ったそれじゃご飯を食べてから移動しよう」
そう言って銀色のゲートを開き中に子供達を入れて食事の支度を始めた。
「おじさん金色のゲートの方が中で出来る事が多いんじゃない?」
「それだと出れなくなる人がいるでしょ?」
「あ、そういえばそうだった」
そんなことをサクラちゃんと話をしながらゲートを潜り子供達にここは安全だから安心して良いと説明して水場の使い方を説明して、薪を燃やして子供たちの【レベル】を底上げし戦う準備を始めるのであった。
「将大君はどんな英雄を思い描いてたのか教えてくれる?」
「俺は異世界物の話を読んだりして世界を救う英雄に憧れていて、何も考えずに【ダンジョン】にさえ入れば強くなって皆から尊敬される存在になると思ってしまってた。
実際は1階層では【魔物】を倒すのは物足りなくて2階層に行きたいと強く思うようにもなってた。今よくよく思い返せば2か月近くも【ダンジョン】に行ってる兄貴達がまだ2階層までしか行けてないって言ってたのを思い出して、考えが甘かったと理解出来た。
おじさんに助けて貰えなければ確実に死んでたし。俺が誘ったせいで友達も命を落としてたと思う」
「ふむ、他の皆はなりたい自分を思い描ける?言っちゃ悪いけど今ある地上の職業の殆どは機能しなくなるから【ダンジョン】ではこうありたいって感じで思い描いてくれるかな?」
「私はサクラちゃんみたいに、遠くから戦いたい」
「私はケガとかを手当て出来るように勉強したいです」
「僕は1階層では蹴り倒してただけだから何も思わなかったけど、攻撃を食らった瞬間の痛みは想像を絶する痛さで、今は何がしたいのか出来るのか分からないけど、考えてみます」
「僕は右腕が全く動かなくなってしまった時はほんとは凄く後悔したんだ、一生右腕が使えなくなったのかと泣き喚きたかったけど、場所が危険地帯で静かにしないと駄目って指示で我慢できた。こうやって右腕が動くようになったなら、山之内さんが庇ってくれた様に皆を庇い助けれるようになりたいです」
「私はおじさんに助けられるのは2度目だけど、1度目みたいに保護されるだけじゃなく先を見据えて戦える自分でありたい」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
芦屋市立打出浜小学校校庭の簡易テント
「報告があります【ダンジョン】内に突入した民間人男性が罠のあった場所を殴り壊し下に続く穴の中へ飛び込み、穴がゆっくりと修復し始めた頃に穴の中より「子供たちを発見し保護した」と声が聞こえて来ました」
「それで上の階への階段を探し出口に向うから安心して欲しい」と聞こえてきて、こちらからも「子供たちの状況は大丈夫か」を聞き返しましたが、下まで声が届いてないのか再度下から「こちらの声が聞こえたら壁面でも叩いて答えてくれ」と言われたので壁を叩いて応答してる最中に床は元に戻ってしまって床を破壊する事は出来ませんでした」
「あの民間人は一体誰なんですか?」
「ああ、知らないのかあの人が私を助けてくれた人で【ダンジョン】に試練で落とされた子供たちを全員無事に地上まで連れ出した阪本氏だよ」
「とりあえず、親御さん達に報告してくる」
「はっ」
「お邪魔します、新しい情報が入りましたのでお伝えしに来ました」
「息子は無事なんでしょうか?」
「結論から言うと保護されました」
「おおおおお、いつ戻ってきますか?」
「いつとは申し上げられません。落ちた所が深い場所なので階段を探しつつ上がって来るそうです。我々も「穴の底より子供たちを発見保護した」「階段を探して出口を目指す」とだけ聞き取れたので、詳しい事は何も分かっておりませんが、私の私情で申し訳ないのですが、ご子息ご息女の安全は確保されたと思っています」
「なぜ言い切れるんだ?」
「それは救助に向かってくれたのが私も助けて頂いた、あの阪本氏だからですよ」
その瞬間ばつの悪そうな顔色をするご家族が複数名見受けられた。
「あなた方が誹謗中傷を拡散し、中には母親を死に追いやった一人とかって人も居てるようですが、事実無根の記事や報道に踊らされたあなた方をお気の毒には思いますが、母親の命を奪われた阪本氏と比べれば私には同情の余地がありません。事実だけを述べれば阪本氏と合流出来たのであれば帰りを待つだけで良いと思っています。ですが自衛隊員としては苦渋の報告でもある事をご理解ください」
「それでこの後の事なんですがここにいつまでも居られる訳にもいかないと思いますので、脱出された際にご連絡すると言う事で一旦ご自宅にお戻りになって日常生活に戻って頂けないでしょうか?何日後に出て来るか見当も付きませんのでその方が楽かと思われますが、こちらのテントで寝泊まりして頂いても一向に構いませんが食料の配給は御座いませんのでご了承頂けますように」
「おばちゃん、おじちゃん良かったねサクラ無事だよきっと」
「あ、ああ」
ミサキちゃんの言葉に曖昧な返事しか返せなかったが罪悪感に支配された心ではそれが精一杯の反応であった。
「それじゃお迎えが来るから先に帰るね。またサクラが戻ってきたら連絡してって伝えてください」
「さようなら」
そう言って車で迎えに来たミサキちゃんのお父さんと一緒にナツミちゃんも同乗して帰って行った
「良かったねサクラが無事って分かって」
「そうだね、おじさんにお願いしたらあっという間だったね」
ふふふと笑い合いながらの会話を複雑な心境で聞かされるミサキ父であったとか。
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夕方ニュースのNEWS18
「こんばんは、夕方18時のNEWS18の時間です」
「昨日兵庫県芦屋市で発生した【ダンジョン】内で15歳以下の少年少女6名が落とし穴の罠に掛かると言うショッキングな事故の続報ですが、自衛隊員の報告によりますと子供たちは無事保護との事ですが【ダンジョン】より運び出された姿は確認されておりませんので続報を待ちましょう」
「続きまして兵庫県西宮市の阪神電鉄高架下の【ダンジョン】で発生した【魔物】が出て来ると言う記憶にも新しい事件ですが、首謀者と共謀者の2名が逮捕されました。2人はやってないや、記憶に無いと言い張ってるようですが【赤色表示】で【ダンジョン】結界に触れ18名を殺したと表示されており罪状は確定的なのに犯行を拒否しパトカーへの乗車に抵抗しておりました所に『審判と裁きの女神』様が顕現されまして即刻死罪をお告げになり消え去りました。この事を重く見た政府は捜査も裁判もせずに数日以内に死刑囚としての死刑執行の判を押すものと思われます」
「それにしても驚きましたね、頭上に出た罪状から通報が相次ぎ即日逮捕され供述拒否にそんな犯行は行って居ないと言いながらパトカーへの乗車拒否をしてる最中に審判と裁きの女神様が顕現されての即断罪」
「捜査も裁判も必要ないとばかりに断罪されてましたね」
「もしかしたらもう少しで建造物が維持できなくなる世界で犯罪者が解き放たれるのを危惧されてるのでしょうかね?」
「それもどうでしょうか?それならば、現行の死刑囚や犯罪者にも同じように断罪されるべきでしょうが一度もありませんよね?この事からの推測なんですが、初めに顕現された時は阪本氏への誹謗中傷拡散時と今回ですよね。上海で神罰がくだされた時も【ダンジョン】への攻撃ですし〔神〕様の行ってるイベントと申しましょうかに茶々入れした者は断罪あるいは神罰が行われるのでは無いでしょうか?」
「そうですか、ご意見ありがとうございます」
「続きまして、皆さんご存じのこの週刊雑誌〔週刊真実〕ですね。これの記者である木澤洋一郎被告が収監されてる事で誹謗中傷の回収率が進まないのではないかと多くのお声が寄せられていますが、そうとも言えるし関係ないとも言えるとしかお答え出来ないのが我々です。
我々も努力して拡散した誹謗中傷情報の回収に躍起になっておりますが、空に映し出された表示は71%からは一向に進んでいませんし、個人の方々でも100%を達成出来たとの報告もありません。
本当に木澤洋一郎被告のした事は許されざるべき事だとは思いますが、その情報を鵜呑みに拡散させてしまった我々も申し訳なく思っております。
【ステータス】が導入されてからというもの、ニュースはただ起こった事実だけを伝えるだけになりコメンテーターも事実確認をしっかり出来た事しか口にしなくなり、唯一【ダンジョン】関係や〔神〕様関係の時だけ憶測と断りを入れてから喋るようになった。
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深い地の底で
食事を食べさせある程度の【レベル】まで引き上げた。ここからはこの子達の頑張り次第であるが【スキルブック】を与えるべきかの判断はもうしばらく様子見をしてからにしようと思う。
「それじゃ【魔物】を倒してもう少し【レベル】を上げようと思うけど、大丈夫かな?」
「「「「「「はい」」」」」」
「それじゃ外に出てね先に出て警戒はするからね」
そう言いながらゲートを開いて異空間から外に出て、全員出て来るのを待った。
「顔色を見るにやる気はあるようだね。今からやるのは素手で生き物を殺す事だ。
いくら倒せば青黒い粒子になって消えると言ってもそこを履き違えると、人にも平気に攻撃できてしまうからね」
「おっ」
すぐ近くに居たカメレオンの【魔物】の口を握るようにひっつかみ子供達の前に突き出す。
「良いよ死ぬまで殴って。おじさんが口を押えてるから舌が飛び出る事はないけど引っ掻かれないようにと尻尾にだけ注意して戦うんだよ」
そう言ったのに誰も踏ん切りが付かないようで殴り始めない。
「どうしたの?さっき言ってた事は夢物語を語ってくれただけかな?」
「いや、やる」「どうぞ」
そう言って全員が交互に殴りだしたが【魔物】の抵抗も激しく小さな反撃を食らい傷は増えていってるが殴る闘志は衰えずに全員が息切れを起こしても殴り続けたのがとどめとなり青黒い粒子になって消えていった。
「このまま次って言っても無理そうだな。中に入って休もう」
ゲートを出し子供達を中へ入れ休ませる。
「どうだった?自分の手で攻撃して弱っていく【魔物】にとどめを刺した気分は?反撃もほどほどに食らってボロボロになった気分も併せて聞きたいね」
「はい、1階層でスモールラットを蹴り殺してた時と違い殴る度に手に嫌な感触が残って何とも言えない気分になりました。反撃を食らう度に気を付けていましたが油断もしてもいないのに食らってしまってて未熟さを実感しました」
「私も殴るのは気持ち悪かったです。反撃は痛かったですし、てか今も痛いです」
「僕も将大と同じかな。殺したって実感がすごく理解出来ました」
「私も気持ちの良い物では無かったですね」
「ぜぇぜぇぜぇ、しゃしゃべんのもしんどい」
「右に同じ」
「ははは(汗、まぁ実際は格上の【魔物】だしサクラちゃんにはスキルの使用を禁止してたからね、あれが普通だよ」
「実際におじさんも当時は苦労したからね。誰の助けもなくね」
そう言った瞬間沈黙してしまった。気持ちが分かるだけに掛ける言葉もないが、やっておきたい事はある。
「まぁ気持ちは分かるが、安全に強くなれるならなった方が良いよ。これから先の世界では必ず必要になるから」
「そこで、佐藤さんだっけ?君にはこれを読んで貰おうと思う」
そう言いながら5冊の本を持って来てその内の1冊を佐藤さんに渡す。
「これは?」
「回復魔法のスキルブック」
「え?」
「君、他人の怪我の手当てを学びたいって言ってたでしょ?君にピッタリじゃないかな。開けば覚えるから開いてね」
「ゴクッ、は、はぃ」
生唾を飲み込んで緊張気味に返事をしてスキルブックを開いた佐藤さん目掛けて粒子が集まり胸に吸い込まれて行くとスキルブックの文字は消え去った。
「覚えたみたいです」
「そりゃよかった、それじゃ魔力の続く限り皆の怪我に回復掛けて行ってね」
「はい、がんばります」
「次は長尾君だったかな?」
「はい」
「君は皆の盾になりたいって言ってたよね。でも盾なんてまだ作られてないしドロップ品じゃ持てもしない。なので君にはこれね」
「パリィのスキルブック?パリィって何ですか?」
「ああ、簡単に言えば敵の攻撃をいなすかな」
そう言いながら長尾君にパンチの動作をしてもらいそれを違う方向へ動かし逸らす動きを見せてこう言った行動全般がパリィに含まれてるよと説明した。
「盾を持っても使えるし武器で戦ってる最中にも使えるし素手でも使えるから、そのうちきっと役に立つよ」
それを聞いた長尾君はスキルブックを開いて佐藤さんと同じようにスキルを覚えた。
「次は、将大君だね正直何が良いか思い浮かばないがまだ武器もない世界だしやってる事と言えば石や木での殴打でしょ。でも君の性格を知らないから攻撃力のあるのはあげられない。他人に危害を加えられても困るからね」
「そこで君と横田君は同じ物になるけど、探知スキルを覚えてもらう」
探知スキルがいかに重要かも教えておく
「探知スキルのレベルを上げれば罠も見つける事が出来るしカメレオンみたいな擬態する【魔物】も気配がわかる。でもそれは【ダンジョン】内で探知スキルを発動し続けておかないとスキルレベルは上がらない。学校で使っても人が居るかわかるだけでスキルレベルは上がらない」
「じゃあ山之内が【魔物】の位置を当ててたのはスキルだったって事かよ?」
「そう言う事だね。おじさんがスキルを持ってるのは親にも言わない方が良いと口止めしてたのを守ってたから学校に通えてた。君達もスキルを覚えた事は絶対に秘密にしなさい。大人に良い様に使われたくなければおじさんほどの強さを得てから公開しなさい。
じゃないと普通の生活は送れなくなるよ。英雄どころか奴隷みたいに使い潰される未来しか見えない。例え日本と言えどもね」
「わ、わかった」
ゴクッ「はぃ絶対に秘密にします」
2人とも想像出来たのか真剣に頷きながら返事を返してきた事で信じてみる事にした。
「さて、最後に清水さんだっけ?君はサクラちゃんみたいに遠距離攻撃を望んで居たよね、でも君も将大君と同じで性格を知らないから攻撃性のある物を渡す事は出来ないのは分かるね?」
「はい」
「それで君は魔法が良いの?それとも弓とか投擲とかの物理的な遠距離攻撃でも良いのか知りたい。」
「はい、出来ればサクラちゃんの様に魔法を使って戦いです」
「そうは言っても行き成り、火、水、土、風、の魔法スキルを渡すのは怖い。どれも攻撃性があるからね。まずは魔法に慣れるって事で生活魔法とかはどう?汚れ落としたり小さな火種出したり、ちょっとした量の水を出したり出来る魔法だけど便利ではあるよ。攻撃には使えないけど練習にはなるし魔力量も鍛える事が出来るかもしれない」
「はい、それで鍛えていきます」
「わかった、それじゃこれが生活魔法のスキルブックだ」
渡した瞬間本を開いてスキルを覚えてしまった。この子は大丈夫なのか少し心配だ。
「わ、使い方が頭に入ってくるんだね。レベル1だと清潔ってのが自分だけに使えるみたいよ」
大丈夫かなこの子、それが第一印象になった。
「よし、それぞれ【スキル】の使い方は理解したね?もう一匹今日中に倒すからもう一踏ん張りしようね」
「はーい」
「「「はい」」」
「今度は、将大君と横田君で敵を探してみてね。そしておじさんが捕まえたら殴りながら探知を使って周りを警戒してみて。長尾君は敵を殴るのもそうだけど【魔物】の動きを良く見て誰かに当たりそうな攻撃は逸らすようにパリィスキルを使っていなしてみてね。佐藤さんは怪我をした人の回復ね、サクラちゃんと清水さんは数回殴ったら待機ね、前衛が疲れたら交代で殴る」
「わかった」
「「「わかりました」」」
「「はーい」」
返事を聞いてゲートを開き外に出てまずは警戒するも近くに【魔物】の気配はない。実は探知のスキルを持ってないはずなのだが、膨大な魔力量になった時から自分の魔力の範囲に他の魔力が入ると違和感を覚え反応してしまうのだ。
「それじゃよろしく。見つけたら指さして」
しばらく着いて行くと、二人が同時に上と左を指さしたので左の【魔物】を蹴り倒し上の【魔物】を先程と同じように口を開く事が出来ないように鷲掴みして皆の前に差し出して殴らせる。
言われたようにしっかりと殴りながら長尾君はパリィの練習をし、将大君と横田君は探知を使いっぱなしで殴っている。佐藤さんは長尾君がパリィに失敗して引っ掻かれたりしたら即座に回復魔法で回復を掛けているが、過剰すぎるので後で説明が必要だろう。だって見ている間にでも魔力切れで倒れそうになってるんだもん。
そして訪れる体力と魔力の限界で前衛が交代するも回復役の佐藤さんもヘロヘロで休むしかなくなってる。そして今はサクラちゃんと清水さんが殴ってるが清水さんが器用に汗をかく度に清潔の魔法を使って自己鍛錬までしていたのには驚かされた。交代してからは倒すまでにそう時間が掛からずに青黒い粒子となって消え去ったので、ドロップ品を回収してゲートを開き異空間内で休ませた。その時に佐藤さんに魔力配分を意識するように注意しといた。
みんなが疲れ果て寝入った頃にゲートを開き一人外に出てきて階段を探して歩いた、試練で落とされた【ダンジョン】よりも階層自体が格段に狭く直ぐに階段を発見する事が出来たので上階に移動して同じように階段を見つけるところまでして、階段下まで戻って異空間内に入り休むのであった。これでいざとなれば2階層は一気に上がる事が出来るが、もう少しこの子達を鍛えてから上がりたい。
お読みいただきありがとうございます。
読んでいただけてる人数が増えて嬉しく思いやる気が漲っておりますので頑張ります。