第二十三話 運命の日
「おはよう」
「「おはようー」」
「おじさんは少し早いけど、ホテルの部屋に戻って誰が来ても対応出来るようにしとくね、今日でここから出る事になるから、準備だけはしといてくれるかな?」
「「うん」」
「それじゃまた出る時に、呼びに来るね、行ってきます」
「「いってらっしゃーい」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ホテルの部屋に戻りソファーに腰掛け、テレビを見ていると昨日の【ダンジョン】前の映像が流されまくっていた。それと同時にやっぱり未成年者を見捨てて成人男性だけが出てきたとの騒ぎも大きくなっていた。
「はぁー、気が重いな。こんな奴らの前に出ていかないといかんのか」
ま、考えてもしかたない、今夜には予定されている事だしな。気分転換に2か月ぶりに甲子園駅周辺でも散策しようかとドアを開けると、やっぱりいるわ、黒服の見張り番が。
「あの、何かありましたか?」
「【黒色表示】者は話し掛けんな、胸糞悪い。違う人間と交代して、俺の目に映らない場所に消えろ」
「な、なんだと貴様、未成年を見捨てて一人で出て来たくせに偉そうにしやがって」
「だから、【黒色表示】者のゴミと話す気は無いんだ。さっさと言った様に上と掛け合って部署替えしてもらえ、胸糞悪い」
そう言って、ドアを閉め中に入り、ロビー直通の受話器を取り松本3等陸佐を呼び出して貰う様に頼むと、数分もせずに部屋にやってきた。
コンコンコン
「はい。」
「松本3等陸佐です、お呼びとの事でお伺いさせていただきました」
「どうぞ」
そう言いながらドアを開け招き入れてソファーへ座るように勧める。
「あのさ、悪いんだけど表で見張りしてる黒服のやつさ、【黒色表示】で胸糞悪いし、直接的に未成年を見捨てて一人だけで出てきやがってとも言われたしな、替えてくれ」
「もしくは、殺していいか?」
「ま、待ってください、即配置換えするので、殺すとかは言わないで頂きたい」
「それも仕方ないだろ、テレビを点ければ昨日の映像と共に俺の悪口を言いたい放題で、よく放送できるよな。事実無根の事ばかり垂れ流してさ」
「ま、早急に胸糞悪い奴は遠ざけてくれよ。気分転換に甲子園駅周辺でも散策しようかと思ったのに、気分を害してそれどころじゃないわ。もしイライラしてホテルの備品を壊してもそっちで面倒みてくれよな」
「わかりました。出来るだけ落ち着いていてくださいね?」
「ああ、そうするよ。ホテルが崩れ去る所なんか映像で欲しくないだろうしな」
そう言うと、松本3等陸佐は顔色を青くして勢い良くドアを出て行くとドアの外から怒鳴り声が鳴り響いて居たが、しばらくすると静かになった。
「たく、どいつもこいつも」
もう一度ロビー直通回線でコンシェルジュに連絡を入れて、松本3等陸佐に言付けを頼み、部屋に電話してくれるように頼んだ。
プルルルルル
「はい」
「松本3等陸佐です、ロビーで言付けを聞きお電話しました」
「ありがとうね。それでさ今夜の何時に部屋に迎えに来るのかなと思ってね。今夜とは聞いてたが時間まで聞いてなかったので、テレビも見れば見るほど苛立つし、散策に出たとして【黒色表示】や【赤色表示】者に出くわして、ぶん殴ってしまっても大事になりそうだからね、寝る事にしたんだわ」
「えっと、それでしたら18時半にお部屋の方へお迎えに上がります。19時から会見となってますので、ごゆっくりされて下さい」
「分かりました。18時頃まで休ませてもらうよ」
そこで受話器を置き、通話を終了させた。
「ただいま。18時頃まで何もする事が無いので帰ってきた」
「「「おかえりー」」」
「テレビを見ても、おじさんが未成年者を見捨てて一人で【ダンジョン】から出てきたって悪者になってるし、中には会う人に面と向かって言われたりするから、ストレスマックスだよ」
「ひどーい」
「そんな事一回もしたことないのに」
「ここだけだよ、心が癒されるのは」
そう愚痴りながら、マイちゃんとチーちゃんと遊びながら時間を潰すのであった。
「そろそろ、18時になった頃かな?」
「そんな感じですね」
「それじゃ部屋に戻って迎えが来るの待ってるよ。19時から会見らしいからね、それまでに出る準備を終わらせててね?」
「はーい」
「準備するもなにも、最初に着てた服を着るぐらいだよ。最初から何も持ってなかったし、【ダンジョン】の物を持ち出すと、変に目を付けられる恐れがあるでしょ?だから、最初の持ち物だけ持って出るつもり」
「そっか、それなら大丈夫だね。外に出たら【スキル】とかも気を付けるんだよ」
「はーい」
「それじゃ行ってきます」
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18時過ぎに部屋に戻りソファーで寛いでいると、ドアがノックされる。
「松本3等陸佐です。お時間前ですが着替えをお持ちしましたので、着替えてから移動致しましょう。」
「わかりました」
松本3等陸佐に渡された背広を身に纏い、気を引き締めて松本さんの後ろを付いて歩き、ホテルの2階にある大広間への入り口前で一拍置かされる。
「この中で謝罪されるんだな?」
「そう伺っておりますが、詳しいことはお聞きしてませんので入ってみないことには」
「そっか、なら入ろうか」
「ここからはお一人で入っていただき、会見席の中央に席が用意されてますのでそこにお座りください」
「わかった、ありがとさん」
気軽に返事してドアを開けて一歩入ると、カメラのフラッシュの嵐に見舞われた。それは中央の席に移動する間止む事もなく光の暴力が如く注がれた。
少し気分を害しながらも中央の席に徐に着席すると、記者席から言葉が飛んできた。
「挨拶も、名乗りもせずに行き成り座るとか、失礼じゃないですか?」
そいつを見ると【赤色表示】で『阪本仁の母親を死に追いやった一人』と出ていたので、会場中のすべてを見渡すと、すべての人間が【黒色表示】者で良く見てみると『未成年者を見捨てた男性と誹謗中傷を拡散した者』と出て、【赤色表示】者を良く見てみると『阪本仁の母親を死に追いやった一人』と見て取れた。
なかでも、内閣総理大臣席を見てみると、【黒色表示】者で『阪本仁の真実を知りながら黙認した者』と出た。
「あー、まず一つ、お前らに挨拶する価値も気持ちも無い。お前らは俺に殺されても文句が言えない立場であることを理解しろと言ってもまだ無理だな」
「なんだと、貴様挨拶するぐらいは常識だろうが」
「ああ、常識だろうよ、お互いに尊重しあうような関係ならばな。悪いが、俺の誹謗中傷しか広めなかったお前らに、敬意も尊重もない!」
「なんだと貴様、未成年を見捨てて一人で脱出してきた奴が偉そうに喋るな」
「喋らせたいのか、喋らせたくないのか、どっちなんだドアホウ共め」
「ドアホウとは何て言い草だ、訂正して謝罪しろ」
「はぁ、こっちが謝罪してもらいにここに来たんだが?」
「てか、うるさいお前ら、もう『だまれ』!」
俺は声に魔力を乗せて一言を強調して強めに発言した。
「やっと静かになったな、あと『動くな』!」
同じように魔力を乗せた一言で会場中の人間の行動も封じた。
「まず、内閣総理大臣さんよ、おたくさんの命令系統化にある組織から、うんざりするほどの銃弾を浴びせられたんだが、俺が入ってくるなり土下座でもして謝罪するのが先じゃなかったのか?それにお前は俺の情報を正確に知って居ながら、ここに居るぼんくら共のマスコミの嘘八百の報道を放置したよな。きちんと頭の上に【黒色表示】で出ているぞ?」
「それじゃ、次にこの本は見覚えあるよな、『週刊真実』って名前の暴露本系の本だな。ここに書かれたのが最初の俺の情報で間違いな?」
「で、この記事を書いたお前、木澤さんよ」
そう言って会場の中に居たマスコミ席に座る一人の男を指さす。
「ペンネームかは知らんが、お前が書いた記事な、88%が捏造記事で、3件の証拠物件の隠し、2件の捏造証拠物件、と頭上に【赤色表示】で出てるぞ?
よくそんなクソな人物が記者なんてやってられたな?
まだいうと、お前の記事で冤罪で刑務所に入ってるのが2名、冤罪で死刑になった者1名、お前の書いた記事で炎上を起こし自殺に追い込んだ人物3名。
そのうち、俺の母親を死に追いやったのも、お前だろ」
「ああ、喋れないか、お前だけ喋っていいぞ」
そういいながら、木澤への魔圧を下げた。
「はぁ、出鱈目ばかり言うな。証拠がどこにあるんだ。自分が非難されたからって出鱈目で言い返すとか、出自が疑われるな。これだから住所不定の下級民は」
「面白いこと言うな、〔神〕様が作ったシステムでお前の罪状がズラッと並んでるんだぞ?ま、良いやお前の声を聴くのも鬱陶しい、そのうち殺すから今は黙ってろ」
そう言って今までよりも強めに魔圧を仕掛けた。
「あらら、呼吸も出来ずに気を失ったか」
強過ぎたようだ、呼吸ができる程度まで魔圧を抑え和らげる。
「ま、後でこの会場に居るマスコミと内閣総理大臣には最悪死んでもらうとして、まずは私と一緒に【ダンジョン】に落下したご親族の方々から話を終わらせるとしますかね、楽しみにしてたし」
そう言ってから、ご親族の座る席に掛けている魔圧を解除し、話せるし動けるようにした。
「もう話せるし、動けるでしょ。あなた方だけ解除したので、付いてきていただけますか?」
そう言ったのに、一人の女性が自分に向かって勢いよく走ってきて頬を平手打ちしてきた、よけるほどでも無いのでそのまま頬で受けると、行き成り罵声を浴びせかけてくる。
「良くも娘たちを見捨てたくせに偉そうに付いて来いだなんて言えたものね」
「はぁ、まぁ、今はこちらも我慢しときますので、どうか付いてきてくれますか」
言うだけ言って、ドアを開けて廊下にでて銀色のゲートを出し入るように促すも、喚いていた女性が抵抗するので仕方なく押し込んだ。
「誰にも聞かれたくなかったので、私の作り出した異空間に来ていただきました」
「まずは、謝罪申し上げます、生き残るためとは言え安全確認も取れていない食べ物を食べさせた二ヶ月間を」
「ん?二ヶ月間を?」
「ええ、【ダンジョン】に落ちた時に私が持っていた食料では私一人だと5日分は保ちましたが、7人で食べるとなるとどうやっても、一日二日が精一杯だったので、【ダンジョン】で手に入れた食材を調理して生き残る為に口にしました。なので、安全確認の取れてない物を食べさせた事に対して謝罪します。まず、私が口にし異常が無いかを確認しながらも、子供達にも食べさせました」
「次に、脱出するまで二ヶ月間も掛り、謝罪します。これでも急いで出てきたのですが、あそこは地獄です、何度命を落しかけたか。なので、二ヶ月間も掛ってしまってご心配かけさせた事への謝罪です。」
「ま、まってくれ、貴方の言い方だと、娘は無事なのか?」
「ええ、元気ですよ」
「それで、すぐにでも会わせてあげたい所ですが、何分お子様達も【レベル】が上がってしまっているので、普通に抱きしめられるだけで絞殺されかねないので、こうやって個別で対応させてもらいました。先ほどの私の話を聞いていたと思いますが、政府にもマスコミにも協力する気持ちが無くなりましたので」
本音で言えばあなた方にも協力したくないのですがね、子供達の為ですよっとボソッと呟く。
「では、まずはこの水源の水を飲んでいただけますか、【レベル】1に上がりますので」
戸惑いながらも、ご親族の方々は水をそれぞれで飲んで【レベル】アップの文字を目の前で見たようだ。
「【レベル】1になったとは思いますが、お子様方の【レベル】は34ですので、まだまだ不安が残りますので、今度はこちらを召し上がってください、無理にでも食べきって頂けると助かります」
またまた戸惑いながらも、ナツちゃんが作った最高レベルの食材で作れるだけの料理を作ってもらい、時間を掛けても食べきって貰う。
「食べてる最中でも【レベル】が上がっていってるとは思いますが、【レベル】が15位まで上がるまで食べ続けてください。特にマイちゃんとチーちゃんのご親族さんは15以上まで食べてくださいね、手加減が出来ないと思いますので、ご親族の方々が耐えてあげてください」
それから1時間近くゆっくりでもしっかりと食べてくれて、一様に【レベル】16まで上げ切った。
「お疲れさまでした、それでは会場に戻ってお子さんとご対面してから、会場を去ることをお勧めします。
わが子をモルモットよろしく、研究機関に奪われても良いと言うならその先は関与は致しません。
なので、貴方がたも【レベル】が上がった事を吹聴すると政府や研究機関に纏わり付かれる恐れがあるので、子供達との話し合いでは、最初から最後までこの異空間で匿って貰ってたから【ダンジョン】内の事は全く知らないと口裏を合わせてます」
「ま、モルモットとして昨日助け出した女性達が候補に上がるように同じように【レベル】を上げさせ政府の目が彼女たちと、私に向くようにはしてますが、安心は出来ませんので口外しない事をお勧めしますよ」
「では外に出て会場に戻ってください」
「あ、あの、さきほ・・・」「さっさと出てくれませんかね」
不機嫌そうにそう言って異空間から出てもらうと会場に戻るように促し、言葉は最後まで言わせなかった。
「さて、こちらの用意も終わりましたので、ボンクラマスコミ共の知りたかった事をお知らせしましょうかね」
「ゲートオープン」
金色枠の子供達が居る異空間へのゲートを開き中に入っていく。
「おまたせ、君たちのご両親や兄弟も来てたよ。【レベル】差があるから優しく抱きしめてあげてね、もうここで会う事もないけど、元気でね」
「おじちゃんほんとにありがとう」
「おじちゃんがいなかったら絶対に死んでたよ」
「おっちゃんありがとね、また遊びに来るよ」
「おじさん、ありがとうございました」
サクラちゃん、ナツちゃん、ミサキちゃん、ハルちゃんの順でお礼を言ってくれた、それだけで頑張ったかいがあると言うものだ。
「今から両親と会うのに、泣いてたら可愛い顔が台無しだよ」
「笑って笑って」
「あと、どんな状況だろうと君達の事を心配してたのは事実なんだからしっかりと抱きしめあうんだよ」
「マイちゃんとチーちゃんも、パパ、ママ、が痛いって言ったら力抜いて優しく掴むんだよ。おじちゃんを掴むみたいに掴んだら、パパもママも痛がるからね」
「あぃ」
分かってるのか、分かってないのか、元気な事は良い事だ。この笑顔に癒された日々も終わるのかと思うと少しだけ寂しく思う。
「それじゃゲートを出ようか、マイちゃんとチーちゃんは、おじちゃんとお手手繋いで出ようね」
「あーぃ」
それから、順にゲートから子供たちが出て行き、ご家族の元へ駆け出して行ったが手前で止まってしまいこっちを振り返ってきたので、頷いて抱きしめあうように促す。
「マイちゃんとチーちゃんも、パパママの所に行っておいで、バイバイ」
「おうちゃん、バイバーイ」
しばらく抱きしめあった家族を見て、少し羨ましくなったのは小さな秘密だ。
しばらく見守っていたのだが、突然それは起こった。
お読みいただきありがとうございます。