第二十二話 運命の日まであと1日。
予約間違ってましたm(__)m
「はっ?人の話を聞いていたか?一切の報告はしないし、協力もしないと言ったはずだぞ」
「ま、もう【魔物】が出て来る事もないから安心だろう?」
「な、なぜ言い切れる?」
「だから、答える気はない」
「それで、その剣は【ダンジョン】の中へ放り込んで良いのか?」
「いや、待ってくれ判断できない」
「まさか、人の戦利品を奪おうと考えては居ないだろうな?」
「そ、そんな事はしないから、落ち着いてくれ」
「ま、良いや、とりあえずブルーシートを持ってきてくれんか?」
「なぜ?」
「ここに、【ダンジョン】内で見つけた、遺骨をバラまいても良いなら」
「わ、分かった、用意させる」
「良かったよ、ご遺体に鞭打つマネをせずに済んで」
その会話を最後に、丹後2等陸曹は上官の元へ駆けて行った。
「置いてきぼりかよ」
『ま、ここで異空間の入り口ゲートを開くのは避けたいから、【ダンジョン】内に戻ってから、遺骨や遺品をブルーシートに包んで持ち出し、助けた女性達には毛布を渡すだけ渡し、後で放り出せば良いな』
ぼんやりと、この後の事を考えていたら、丹後2等陸曹が男性を一名伴って戻ってきたようだ。
「ブルーシートを貰ってきた」
「ああ、助かる」
「で、其方の彼は?」
「陸上自衛隊伊丹駐屯地所属、中部方面情報隊本部の松本3等陸佐であります、この度は救援頂きありがとうございます」
「ふーん、【白色表示】か、話すだけなら良いが、何も情報は与えないし、協力も拒否するぞ」
「それは、どうしてでしょうか?」
「簡単に言えば、へそを曲げた、だな」
「自分の扱いが世の中でどうなってるのか知ってしまったし、母親が死に追いやられたのも知ってしまえば、誰が協力などすると思う?」
「しかも、出てきた直後には、銃弾をこれでもかと浴びせかけられて。負傷しなかったからと、無かった事にでもするのか?」
「そ、それは、新たな【魔物】が出てきて更なる脅威の出現かと思ってしまっての行動であって」
「だから?それで正当性が罷り通ると?話にならんな、この件は自衛隊のトップを来させて謝罪させろ。くだらないトップを寄こすなよ。伊丹駐屯地だかのトップじゃ話にもならんからな」
それだけ言って、会話を打ち切り【ダンジョン】の結界を通過して【ダンジョン】内部へ入っていくのであった。
階段の下まで降りた所で、遺体と遺品を置いてあるゲートを開き中に入ってそれぞれに手を合わせながら、ブルーシートの上へと移し替えていき、全ての遺骨を慎重に包み持ち抱えると、異空間から外に出て遺体を安置した空間を消去した。
次にやったのは、助けた女性達の空間を開き入っていく。
「おじゃまするよ。舟木さんこっち来てくれるかな?」
「はい」
「とりあえず地上に出る階段を見つけ一度地上に出た所で、【魔物】の襲撃現場に遭遇して、それに介入し毛布を貰って来たので、毛布で体を包んでこの異空間から出てくれるかな?毛布は人数分あるから、配ってね」
「はい、分かりました」
「準備が出来次第出てきて、一応外で周りを警戒しておくから」
そう言い残して、先に異空間を出ていき【魔物】が寄って来ないかだけ注意していた。
「お待たせしました。6名全員出てきました」
「そう、階段を上がれば出口だから行って」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「あり・・」
「話し掛けるなって言ったよな、お前らとは言葉を交わすだけでも苛立たしいんだ」
そう言い残して、階段をスタスタ登って行き、徐に結界から外に出る。
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言いたい事だけ言って【ダンジョン】の中へ入っていった鎧の男性を目で追いかけながら、入れるのかよって内心ツッコんでいた。
「松本3等陸佐殿。報告通り一切の協力は得られないかと思いましたが、会ってみてどうでしたでしょうか?」
「どうやら、先の報告にあった、相手の頭上に出ると言う表示が見えているようですね、私の事は【白色表示】かと言い捨てられただけで、会話が可能だったのが救いでしょうか。相手の要望を少しでも聞く事が出来たのですから」
「そのようですね。ご自分の母親が亡くなってる事や、自身の評判まで認識してる節がありましたね」
「入り口前で助けられた女性には、礼すらする間も与えず、「話しかけるな」の一言で一蹴してましたしね」
「どこまでの情報を得られるか、これからの付き合い方に掛かって来ますが、此方側で誰が【黒色表示】で【赤色表示】なのかが分からない以上下手に人を接触させるのも考え物ですね」
「そうですよね。彼の戦闘を間近で見ていましたが、私が遊ばれただけの【魔物】が本気で襲い掛かって手も足も出ない状態でしたしね。本気になった【魔物】の動きは一切目で追いかける事が出来なかったですよ?」
「それに、2匹の【魔物】を一撃で倒してるんですよね。【魔物】の猛攻に見えた激しい斬撃すら、避ける必要すら無いとばかりに棒立ちでしたし【魔物】を掴んでからも握力だけで首を握り切るって言うんですかね、あんな倒し方ゾッとしますね」
「ええ、見ていましたよ。と言うか見ていたのですが、見えていませんでしたね」
「ははは、間近に居て見えてなかったんですし、仕方ないですね」
「それで、丹後2等陸曹は、彼を追いかけてご遺体の回収を手伝う事はしないのですか?」
「はっ、彼を追いかけ遺体回収に同行いたします」
見事な敬礼をし、彼の後を追いかけて行った丹後2等陸曹ではあったが、結界に阻まれて中に入る事が出来なかったのである。
「松本3等陸佐殿、入れません!」
「見てみなさい、結界の表示が彼が入って行った後は1を表示していたのに、0になってます」
「ホントですね、何が起こってるのでしょうか?」
「わかりませんが、しばらく様子見です」
「彼は、もう【魔物】が出て来る事は無いと自信を持って言い切っていましたが」
「それも聞いてみたいですが、お答え頂けるかどうか」
「あ、また1になったのに、速攻で0になりましたよ?」
「そのようですね」
「1になりましたね」
「えええ、2,3,4,5,6,7と増えて7になりましたよ?」
「何事でしょうか?」
「あ、階段から誰か出てきます。」
そう言った瞬間、毛布で身を包んだ女性6名が飛び出してくるのであった。
そこからは、救護班を呼ばれ身元確認がなされ、【ダンジョン】内へ連れされてたい女性が全員無事に救出された事が判明したのであった。
「助けた女性は、舟木さんとしか話して無いが、生きてたもんは助けといた。
それでこれが、彼女たちを助けた広間で【魔物】に食い散らかされてたご遺体の遺骨な。多分武器防具や道具作りにで使うつもりで確保してたか遊び道具にしてたかだろう。
頭骨の数だけで22体分の遺骨だと思う、それとこっちが遺品な、集めるだけ集めただけなので中身を見たりしてないから、あとはそっちでやってくれ。」
そう言って遺体と遺骨と遺品を我々に渡した彼は、両の手を合わせ合掌ししばらく瞑目し、最後にと一言聞いてきた。
「それでその剣は、自分が倒した【魔物】からの【ドロップ】品だが、【ダンジョン】内に放り捨てて良いのか?」
「いや、色々と調べたいから捨てないで欲しい」
「わかった、ただし一切の協力はせんぞ、そこの丹後さんだっけ?彼でも持てない物を調べるなどどうやるのか知らんが、俺に迷惑を掛けるなよ」
「あと、あんたらのトップはいつ謝罪に来る?」
「それは追って報告するから、こちらで部屋を用意するので今夜はそこで休んでくれないだろうか?」
「ふーん、内閣総理大臣の予定があろうが謝罪を優先させろよ。あと総理の来る時に、一緒に落下した女の子達の親御さんや親族の方も呼び集めといてくれ。伝えたいことがあるから。
今夜の所は用意された部屋とやらで休ませてもらうよ」
「では送ろう、車を手配するので今しばらくお待ちいただきたい」
「分かった」
「なぁ、なんで【ダンジョン】の中に入って行けるんだ?」
「答える気はないな」
「・・・・・・」
「お車の用意が出来ましたので、お二人とも移動をお願いします」
「了解」
「じ、自分もでありますか?」
「そう伺ってます」
車に乗り込み連れてこられたのは、甲子園球場の北側にあるホテルであったのだが、鎧姿で動き回っているので、注目を集めて非常に居心地が悪いが、最上階の部屋を用意してくれたようで快適そうだ。
「そうだ、着替えが全滅してるのだが。燃えたり溶けたりしたからな。何処かで下着とか買えるかい?」
「わかりました。こちらでご用意いたしますので、部屋で寛いでいてください」
「そっか、助かる」
「というか、松本3等陸佐がさっきから運転だの、買い物とか受け付けてくれているが、そんなの下っ端に任せるんじゃないのか?」
「そうしたいのですがね、丹後の報告から貴方は人それぞれの状況が見えていると聞いていて、下手な人間を貴方に宛がうと、恐ろしい事になりかねませんので」
「そっか、それは助かるな。母親を殺したやつらと会話する等ゾッとするし、ブチギレしてしまいかねんからな」
「ま、今夜はゆっくりさせてもらうが、急いでくれよ。くれぐれも総理と一緒に、嬢ちゃん達の親御さんやご親族さん方も無理にでも来てもらってくれ」
そう言って、室内に入り鍵を掛け、鎧を脱ぎ去り荷物置き場にしまうと、風呂に入りソファーに座り、日が更けるのを待つのであった。
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救助された女性たちの証言
助け出された女性たちは、それぞれ個別に分けられ、何があったのかを事細かく聞かれた。
【赤色表示】の女性の証言
「【ダンジョン】前の防壁裏で中継作業しているときに、防壁を飛び越えてきた【魔物】に腕を捕まれそのまま【ダンジョン】内部に連れ去られたのはご存じだと思います。
その後は、【魔物】のボスと言いますか、統率者の元へ運ばれ、運ばれてる最中に両手足の骨が折られ逃げる事も不可能になりました。
ボスの元へ運ばれた後は、衣服を剝ぎ取られ全裸にされ、檻の中に無造作に放り込まれました。私が放り込まれた際にはすでに3人の女性が全裸で糞尿を垂れ流しにした状態で檻の中で積み重ねられていました。
それで、私は泣け叫ぶ位しか出来なかったのですが、先に檻に入れられていた女性が泣き叫ぶと黙るまで殴られまくると注意してくれてからは、身動きも出来ずただただ恐怖に支配されて行きました。
時々連れて来られる男性は生きたまま食われる姿を何度も見せられました。
そうして数日が経過して、私の上にも1人積み重ねられて、最後に1人が積み重ねられた後から状況が一変しました」
「鎧を着た男性が、私たちを水場の近くまで運んで、最後に運ばれてきた女性だけを汚れを流し折られた手足の骨を薬で治してから、その女性に残りの女性もある程度汚れを落としてから小瓶に入った薬を飲ますように言って去っていきました。
裸を見られてるのも嫌でしたので去ってくれてホッとしましたね。
次に鎧の男が来たのが、食事と草臥れたタオルや布切れを持ってきました。布切れで隠せる所だけ隠せと言って、大きな皮もあるが持ち上げる事も出来ないだろうから我慢しろとだけ言い残し、食事は自分らで配膳させられましたが、予想よりも美味しかったです。
美味しかったんですが、食べただけで【レベル】が上がりました」
「ふむふむ、それから?」
「それからは、大きなフカフカの皮を何枚か持ってきて、寝るのに地面が硬いだろうから、全員が寝るのに不自由ない位の広さで敷いておくので休めと言われ、それぞれで寝る場所を決めて休みました」
「ただ、私が話しかけると、母親はなぜ死に追いやられなければいけなかったんだと聞き返されました。
なんで?と答えると、君の頭上に罰が表示されてると言って、助けられた女性でそれぞれ向き合って確認してみろと言われ、確認したら、私だけが【赤文字】で他3人が【黒文字】で残り2人が【白文字】で頭上に文字が浮き出ていました」
「【黒文字】の方の罰には、『鎧の人のありもしない誹謗中傷を拡散させた罪』とあり。私の頭上には、同じ一文と『阪本仁の母親を死に追いやった一人』となってました」
「私も何がなんだが、わからない状態ですよ」
【黒文字表示】されてた女性
報告される事はほぼすべて一緒で、興味を引いたのは手足の骨折を癒したと言う小瓶の液体と、食べると【レベル】が上がること。
そして、【黒文字表示】者や【赤文字表示】者は、分け隔てなく完全無視で話しけるなと一蹴されてるにも関わらず、【ダンジョン】脱出までの対応は全員同じ。
【白文字表示】されてた女性
こちらの報告もほぼすべて一致、やっぱり興味を引くのは、骨折を癒した小瓶と、食べると【レベル】が上がる食事。
そして、この伊丹駐屯地所属の3等陸曹で船木という女性だけが会話したそうだ。
会話内容も特に目新しいものは無いものの、脱出までの指示を出されただけのようだ。
そして、全ての女性が【レベル】3になって居ると言う事。
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内閣総理大臣官邸
「磯部総理、兵庫県西宮市の【ダンジョン】から男性が脱出したようです、その際に自衛隊からの一斉掃射をくらって、憤っているそうでトップ直々の謝罪しか受け入れないと言い張ってます」
「そうですか、映像をみましたが、生還した自衛隊員の丹後さんでしたね?手も足も出ない【魔物】に良いように弄ばれてる感じが映像から感じました。彼も分かって居たのでしょうね、自分の力量じゃどうしようもないと言う事が。それでもTVカメラの前で果敢に応対してくれた事には感謝しかありません。それにしても【レベル】持ちが弄ばれる強さを秘めた【魔物】に対してまるで、アリと象って感じでしたね。おかげで今日の被害は出さなくて済んだのですが」
「それで、謝罪の方はいかが致しましょうか?」
「そうですね、明日の予定を全てキャンセルし、明日の夜にでもお会いして直々に謝罪しましょうか。それと同時にマスコミも呼んで会見もしてしまいましょう。マスコミの前で頭を下げるのは忸怩たるものがありましょうが、仕方ありません。あれだけの銃弾を浴びせた映像が世に出回ってしまってるようですしね」
「それで、何か情報がおありですか?」
「はい、まずは鎧の彼は、我々の頭上の表示を見る事が出来るようで、すでに自分の母親が死に追いやられた事も、自分の風評被害が拡散されてるのも知ってしまってました。黒文字や赤文字で表示されてる人物に対して完全無視か、憎悪の視線を一瞬向けるそうです。
本日、【ダンジョン】前で救助された女性がお礼を言おうとした瞬間に、話しかけるなと一蹴してますし。今後どう対応するのが正解かわかりかねます」
「そうですか。でも彼の持つ情報はすべて欲しいですね」
「出来れば協力してくれる事を願いますが、あの力は有効利用しないとですね」
そう言って、どうにか言い包められないかと思案する磯部総理であった。
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コンコンコン
「はい?」
「松本3等陸佐であります。衣服と明日の予定を伝えに参りました。」
ドアを開けて、迎え入れてソファーに座り、話始める。
「明日の夜に総理がこちらの大広間にてお会いするそうです。その際マスコミも同席させ脱出者が出たと報告をするそうですので、あと明日の夜の同じ時間に一緒に落下されましたお嬢さん方のご親族の方々も全員が強制的に参加させられますので、ご要望には報いれたかと思います」
「そうですね、ありがとうございました。後は明日の夜ですね」
「では、報告は以上ですので、失礼します」
見事な敬礼をして部屋を出ていく松本を見送り、子供たちの居る空間にゲートを開き入っていくのであった。
「ただいま、今日は遅くなってごめんね」
「無事に【ダンジョン】から外に出て今はホテルの一室に軟禁されてる状態かな?」
「「「そうなんだー」」」
「やっと出られたんですね」
「お父さんお母さんに会える?」
「うん、明日の夜にはご親族を集めてもらってるよ、そして【レベル】の上がる水を飲んで貰って、食事もしてもらおうかな、そうしないと危ないからね」
「どうして?」
「それはね、君たちが【レベル】34まで上がっちゃってるからだよ、おじさんは最初から君たちと一緒に居て、マイちゃんやチーちゃんと触れ合いながら、力の加減の仕方を学んだけど、君たちは一緒に【レベル】が上がり、手加減できてるようで出来て無いかもしれないでしょ?」
「下手したら、お父さん、お母さんに、抱き着いた瞬間背骨を折るぐらい抱きしめちゃうかもしれないしさ、マイちゃんチーちゃんは、そもそも手加減なんて出来ないでしょ?」
「「「「確かにー」」」」
「だからね、もうちょっとだけ我慢してね」
そう言って深く頭を下げる。
「「「「はーい」」」」
「だって、おじちゃんが外まで連れて来てくれたんだもん、おじちゃんの言う通りするよ」
「ありがとね、それじゃご飯を食べて寝ちゃおうかな。久しぶりに他人と会話して疲れたよ」
「はーい、ご飯の準備しますね」
「ありがとね、手伝える事あったら言ってね」
「あ、あと部屋に付いてたシャンプーとかリンスとか一通りのアメニティグッズを持って来たから使って良いよ。明日の朝には戻しておくけどね」
「「「わーい、やった!」」」
そうやってワイワイしながら、最後の夕食に満足し、マイちゃんとチーちゃんの二人といっぱい遊んで二人が寝落ちするまで、一緒に過ごすのであった。
お読み頂き、ありがとうございます。
ブックマーク数が増えてくるとやる気も増えてきますので頑張ります。