第二十一話 おじさん遂に地上に帰還する
「女性には、ぶらつくとは言ったが、流石にこれを放置は無いよな。」
山積みとなったご遺体の骨を新しく作った銀色ゲートの荷物置き場に一体分ずつ丁寧に運び入れ、手を合わせていく。その数は頭蓋骨の数で判断するしかないが22体。
クイーンが居た場所には認識票もまとめて落ちていた。戦利品とでもして身に着けていたのだろうか、自衛隊員18人分ある。
破き捨てられた着衣や誰の物か分からないが所持品も纏めて遺体安置してる場へ置いておく。
22人の男性を食って配下を増やしたとしたら、先ほどこの場で倒した数がクイーン含む18体、残りは5体居るはずだ。
目ぼしい物が無くなったのを確認していると不意に襲い掛かってきたゴブリンが3匹。
「やっぱりまだ居るよな、っとつぶやきながら3匹のゴブリンの首をはねていく。あと2体は確実に居るはずだし出来れば討伐しておきたい。とは言え出口も近いだろうし、さっさと出てしまいましょうかね」
その後は、宣言通りに行ける道行ける道を手当たり次第に突き進み、突き当りにぶち当たったり、行き止まりの小部屋で【魔物】と遭遇したり、半日ほど掛けて動き回ったのに出口はおろか、ゴブリン2匹とも遭遇しなかった。
「ま、見つからない物は仕方ない、夕飯を食べて今夜が最後だろうチビちゃんとのひと時を満喫しようかね。
あ、序に女性たちにも食事を持っていくか。」
「ただいま」
「「「おかえり」」」
「おちゃえりなさい」
「ごめんね、まだ出口が見つからなかったよ、結構動き回ったんだけどね」
「そうなんだー、でももうすぐそうだし、大丈夫だよー」
ミサキちゃんが明るく返答してくれて、大分心が軽くなるのが分かる。
「それじゃ晩御飯の用意しようかな、序に助けた女性の分で6人分も用意しないとだめだし」
「はーい、でも【ダンジョン】の食材を食べるとレベル上がるけど良いんですか?」
「ま、良いさ、助けといて食事も出さないって酷いしね」
「ですね、私たちも34レベルになってからは、食べても食べても【レベル】上がらなくなってしまいましたしね」
「そうだね、そこから考えたんだけど食品レベルの20分の1までしか上がらない仕組みなのかもね」
「え、どうしてですか?」
「今食べてるお肉は主に、最初の階層の【魔物】から手に入れたものでしょ、人参もそうだしさ」
「で、最初の階層の【魔物】の【レベル】ってLv685だったんだよね。それで、単純で悪いけど、割り算してみると34.25で割り切れるから、そこが上限になってるのかなって考えただけだよ」
「「「そっかー」」」
「考えもしなかったー」
「ま、憶測だけどね」
「とりあえず、鎧を外して助けた女性たちと会いたくないので、先に夕食を作って持って行ってくるよ」
「私たちが持って行きましょうか?」
「いや、まだ安全とは言えないし、本当に【ダンジョン】の外から攫われて来たのかも分からないから、念のためね。それにここまで来て、君達に怪我でもさせたら親御さんたちに申し訳ないしね」
「わかりました、それじゃ作ってしまいますね」
まだあの女性たちの頭上に出る表示をお嬢ちゃん達に見せたくはない。
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助けられた女性たち
「ねぇ、さっきの鎧の人って最初に【ダンジョン】に落下した人よね?」
「多分ね、それで偶然悲鳴を聞きつけ助けてくれたって事でしょ」
「でも途中から泣いてたよね?」
「そりゃ泣きたくなるでしょうよ。あなたの頭上に出てる表示見たら自分の母親が死んだって分かっちゃうもの」
「しかもそれが、死に追いやってって出てる以上さ、事故や病死じゃないのが丸分かりでしょ?」
「それにあなたたちもそうよ、あの人の悪評を広めたんでしょ?」
「そんな事してない、SNSで知った事を友人とかに教えただけ」
「ねぇ、それを拡散したって言わないの?」
「うっ、そんなつもりじゃない」
「ま、そんなつもりじゃないって言ってもさ、〔神〕は悪評と評価したからそうやって公表されちゃってるんでしょうし」
「私は、助けられた事に感謝しかないわ。目の前で同僚男性が食べられるなんて光景を目の当たりにさせられて、気分も最悪だったのが手足の骨折はおろか心まで軽くなったんだしね。あの飲ませてもらった薬のおかげね」
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「それじゃ、食事を持って行ってくるね」
「「はーい」」
そう言って、造形で作り出していたトレイに料理を盛った食器類と箸を載せて片手で持ち、異空間を出ていく。
「おじゃましますよ。出口はまだ見つける事が出来ませんでしたので、夕食をお持ちしました」
「こちらに置くので、そちらで配って食べてください。食べ終わったらここに纏めて置いて貰えれば持ち帰りますので」
「あ、あの」
話しかけたが振り向きもせずに出ていかれた。
「徹底的に関わりたく無いって雰囲気が出てたね」
「とりあえず、お腹は空いてるし頂きましょうか」
そう言って、均等になるように配膳していったが、予想外に美味しい食事に笑顔が零れるのであった。
「再度おじゃましますよ。そのままじゃ寝るのも苦労されるでしょうし、こちらの皮を敷いて置きます。掛布団や毛布は無いので我慢してください。またその皮はあなた方じゃ持ち上げる事すら不可能なので置いた場所固定となりますが、6人が寝るには十分な広さの枚数を敷いて置きすのでそれじゃ」
視線を向けもせず一方的に伝えることを伝えたら出て行ってしまったが一瞬だけ、黒色や赤色の4名に向けて憎悪の篭った視線を向けたのは気付けた。
「なんか嫌な感じだね、こっちの話を聞きもしないでさ」
「そう?最低限の事はしてくれてると思うけど、寝るのに地面が硬いからってこれだけフワフワの毛皮を地面に敷いてくれるって、優しくないと気付いてもくれないと思うわよ。
それにさ、嫌な感じってさ、貴女方のした事が相手に分かってしまってる以上さ、親切にされると思ってる方がどうかしてない?私から言わせてもらえば、自分の事は棚に上げてってやつね。
ま、言い合ってても仕方ないし、私は休むわ。
一つだけ言わせてもらえば、命を落とす寸前で助けられたって事をどう考えるかって事ね、おやすみ」
「「「「・・・・・」」」」
「ただいま、助けた女性達へ食事を届けてきたよ」
「おぁえりー」
「おーマイちゃんか、ただいまねー」
未だに直してない左手と右手でもってマイちゃんを抱き上げてたかいたかいして、抱っこして皆の所へ行く。
「お、チーちゃんのオムツ擬きを交換中だったか。汚れたオムツ擬きは持っていくね。ついでに汗も流してくるよ!」
「はい、お願いしますね」
「了解」
そう言って水場に行ってオムツ擬きを洗い物干し竿に干す。そう森林フィールドで薪を集めるのと同時に物干し竿とかも作っていたのだ。
それに、スキルレベルが上がった事で、この空間内にも風呂場が出来たのである。いつでも温かいお湯が流れ出し24時間入る事が可能なのである。広さも全員で入ったとしてもゆっくり入れるだけの広さを完備している。
ま、チビちゃん二人としか入った事はないんだけどね、当然といや当然だわ。
嬢ちゃん達は風呂が出来た時は大喜びしてたのを今でも覚えている。それだけ飢えていたんだろうな。
「お風呂空いたよ、マイちゃんは一緒に入ったから、チーちゃんどうする?おじさん入れようか?」
「私たちもお風呂入るので、このままチーちゃんも一緒に入っちゃいますね、マイちゃんの事よろしくです」
「ほぃ、了解」
「お姉ちゃん達が出てくるまでおじちゃんと遊んでようね?」
「うん、おうまさんしてー」
「いいよぉー落ちないようにしっかり摑まってるんだよ!」
「あーい」
それから、嬢ちゃん達が風呂から上がってくるまでに、おうまさんごっこで激しく動き回った結果、マイちゃんは疲れ果ててお眠になってしまっていたので、添い寝してあげるとスヤスヤと眠ってしまった。
自分もマイちゃんの根顔を見ながら穏やかな気持ちで見守りつつ、女性の頭上に出た表示の事を思い出してしまっていた。
「死に目にも会えなかったとか本当に親不孝者だな」
心のどこかでは、父親から縁を切られても母親とは繋がってる感覚だけはあり、母親の死に目にも会うことは出来るんだろうなと高を括っていた自分が居た。
それがどうだろうか、この数十年会わなかった母親の死と言うものが〔神〕の導入したシステムによって知らされるなど誰が予測できただろうか。
それも、ただの寿命や病死ではなく、第三者による他殺だ。システムでは死に追いやった一人と表示されていたが、遺族にとっては殺人に等しい。
母親の事を思うと目頭が熱くなり、それと同時にどういった理由で死に追いやられたのかも考えだすと頭の中がぐちゃぐちゃになり纏まるものも纏まらなくなる。
「おじさんどうしたの?」
「いつも穏やかに、マイちゃんの寝顔を見てだらしない顔してるのに、何か考え事でもしてるの?」
「だね。おじさんはいつもマイちゃんやチーちゃんの寝顔を見ては穏やかな顔してるのに、今日は厳しい顔してるね」
三人して酷い。
「え、そんなに厳しい顔してた?」
「「「うん」」」
「そっか、明日ぐらいで出口を見つけて外に出れるかなと考えてたんだよ」
「そうなんだ、明日出れると良いね」
「うん、出れる事は良い事だけど、問題もいっぱいありそうだよ?」
「なんで?」
「だって、【レベル】とかあるじゃん、検査でいろいろ連れまわされたり、【ダンジョン】の中がどうなってるのかとかさ、【スキル】の事も知られると、色んな研究機関でモルモットの様にされそうじゃない?」
「「「確かに」」」
「そんな事を考えてたらどうすれば良いのかなとね。
そこで考えたのが、【レベル】が上がったのはおじさんだけで、【ダンジョン】の事を知ってるのもおじさんだけって事にして、嬢ちゃん達はおじさんの【スキル】内でただ脱出出来るのを待ってたって事にしないかとね?
そうしないと、おじさんは一人だから誰か人質に取られて言う事を聞かせられるって事も回避できるけど、嬢ちゃん達はさ、両親や祖父母、それに兄弟まで居たら、その人らが人質として使われちゃう可能性があるよ?
日本って国を信用したいけど、何も日本だけが国じゃないからね、例えば隣国が誘拐するって事もありうるかもでしょ?
ただでさえ、半島には誘拐された人々の返還も解決してないぐらいな情勢だしさ。
なので、何もわからないで通して、おじさん一人に目を向ける方が、嬢ちゃん達は安全に今までの生活に戻れるかなとね」
「「「そっか」」」
「ま、脱出出来ても1日2日はまだここに居て貰うつもりだよ、政府やマスコミとはきちんと話付けてからじゃないと、君たちが心配で仕方ないからね」
「「「「わかった、おじさんに任せるよ」」」」
「今までもおじさんだけが傷つき、痛みに耐え苦労してここまで来たんだもん」
「そっか、ありがと、じゃあ色々考えとくから、後は任せてね。今夜はチーちゃんも眠そうだし、明日に備えて寝てしまおうか。」
「「「「うん、おやすみなさい。」」」」
そう言って、チーちゃんを抱っこして寝るまで横炊きであやし、寝た所でマイちゃんの横へ寝かし、自分も寝顔を見ながら微睡むのであった。
そして朝を迎え、朝ご飯を用意して食べる、その時に昨夜話した通り、嬢ちゃん達はここの空間に入ったままで一度も外に出ずに、おじさん一人だけが頑張って助け出してくれた事にすると口裏を合わせてもらうことになった。勿論【スキル】の事もおじさんがいくつか取得したって事だけは言っても良いが、自分らが【スキル】を取得した事は絶対に秘密であるとも言い聞かせた。
絶対に政府のモルモットになってほしくない。
「それじゃ、助けた女性達にも朝食を持って行って来るよ。食器を回収したら、すぐ出口探しに出かけるからね」
「「「いってらっしゃーい」」」
「いってらっちゃい」
マイちゃんまで声を掛けてくれるなんて思いもしなくて、思いのほか心が軽くなった。
「おじゃまするよ、起きてますか?」
「はい」
「では、ここに朝食を置いておきますので、配膳はお任せしますし、食べ終わったらここに戻しておいてください」
「あ、あの!」
昨日より大きな声を張り上げるも振り向きもせずに出ていかれた。
「声掛けるの無駄だと思うよ。ここに来るのに毎回鎧を纏ってる時点でさ、私達の事を味方でも仲間でもなく、ただ同族ってだけで食事が運ばれてるだけだね」
「・・・・・」
「ただいま、食事は運んで来たけど食器の回収は後でするね。食べ終わるの待ってる間、時間の無駄だし早く出口探したいからね。このまま出口探しに行って来るよ!」
そう言い残し、空間を出ていき出口目指して動き回るのであった。
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アーミーヘルゴブリンソルジャーとアーミーヘルゴブリンファイターの2匹は、親元へ帰ってきた。
いつもは騒がしいメスのエサは死んだのか静かになっている、小部屋に入るもクイーンも居らず、仲間のソルジャーやファイターの兄弟も見当たらない。
いったいどうしたのかと檻に近づくともぬけの殻で、クイーンは追いかけて行ったのか全兵力で移動でもしたのか、ねぐらの場所を変更したのか分からないが、どこにも見当たらない。
夜通しでクイーンの痕跡を捜し歩いたが、他の魔物一匹出くわせる事もなく動き回れた。
クイーンに捨てられた?でも一番強い自分を捨てて?
忠実にクイーンの命令は遂行していた。兄弟を増やすためにオスも捕まえた。分隊を作るときの為にメスも確保していた。
繁殖するのに生死は関係ないのだ。性別だけの問題と量が関係する。
こうなっては、短期間での増殖は難しい。クイーン程簡単に兵を増やせないのだ。他のゴブリンと同様に他の種のメスを苗床に増やすしか無いが、如何せん時間がかかるし成長も遅い。
でも、クイーンはもう居ない。あれだけ探し回って痕跡さえ見つけられなかったのだ、今度は自分がキングとして兵を増やし隊を強くしなければならない。
そうなると、メスだ。生きのいいメスを苗床に同胞を増やしクイーンが帰還された際にも困らないだけの隊を作らねばならぬ。
なので、狩場でメスと食料を集め、力を蓄えねば種が絶える。
ここからなら、狩場までは半日程度の距離だ。狩場に移動して同胞を増やすエサと苗床を手に入れて、再起せねば。
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兵庫県西宮市の【ダンジョン】前
昨日の襲撃を最後に、襲撃が行われていない。俺の祈りが天に通じたのかと思うぐらい、何も起こらない朝だ。ただ昨日の昼には驚くことに、【ダンジョン】の【結界】に表示されている生存者数が、どんどんと減っていった。
7と表示された居た数字は、見る見る間に0まで減ったのだ。0を表示したと思ったら10分ほどして1と表示し表示したかと思った瞬間0になり、また10分程度で1と表示された瞬間に0に変わると言う不可解な現象が実際に目の前で起こった。
なんなのだここの【ダンジョン】は。落下者数は7名と聞いている。そのうち6名は未成年者であり、難易度も我々が挑まされた比ではないはずだ。
2か月近くもの間、生存者が存在してる時点でおかしいのだ。あの地獄を2か月近くだぞ。
そろそろ昼かと思われた時だった。突然発砲が響き【ダンジョン】方向へ一斉射撃が繰り広げられている。何事かと思えば【ダンジョン】から【魔物】が出現したそうだ。
「とうとう来たか。一矢も報いる事は難しいだろうが、報道陣に【レベル】持ちが挑み無力だと知らしめねばな。政府が今後耐え切れないだろう」
「煙幕とかは使えません。どう言った訳かサーモグラフィが作動せず、姿を捉えられないのです。
また今行ってる一斉射撃も近隣住民への避難勧告の一環と、何のダメージも与えられませんが相当数の銃撃ですと僅かばかりの行動阻害が出来るので、やってるだけです」
「わかった。出てきたのは1体か?」
「はい、確認できてるのは1体だけです」
「大した事は出来ないだろうが行ってくる」
「はっ、ご武運をお祈りしてます」
そう言って、最敬礼の形をとられ送り出される。
「装備はポリカーボネート製の盾と、アラミド繊維を混ぜ込んで作られたと言う短剣と腰にナイフか」
「こんなもので何処までの事が出来るのか」
『丹後2等陸曹が出るぞ、打ち方止め』
『丹後2等陸曹が出るぞ、打ち方止め』
『丹後2等陸曹が出るぞ、打ち方止め』
その瞬間飛び出て、出てきた個体へと盾毎ぶちかますも、僅かばかりも押し込めず受け止められてしまう。
「嘘だろ、ちょっとぐらいはぐらつくとか無いのかよ」
いったん距離を取ろうと離れようとした瞬間、盾を思いっきり殴りつけられて後方に吹っ飛ばされてしまう。
「いつつつ、おいおい盾の意味ないじゃねーか」
盾を見れば殴られた箇所が割れて穴が開いていた。それでもまだまだ身を守る範囲はあるので投げ捨てはしないが、立った瞬間を狙われ今度は盾を蹴り飛ばされてしまうも、盾は手放しはしなかった。
今度は盾を蹴られたはしたが、踏ん張ったりしたわけではないので、罅が入った程度ではあるが、そもそも罅が入る事自体異常ではある。
「まいったな、動きは速すぎて見えないし、盾を手放した瞬間やられるな」
そうこうしていたら、再度の一斉射撃が始まった。自分が相手してる個体ではなく新たに出現した個体への集中砲火だ。
「2体目とか、絶体絶命だな」
新たに出現した個体は集中砲火を何の痛痒もなく防壁を飛び越え、女性自衛官を鷲掴みにすると【ダンジョン】入り口前まで移動し、おもむろにその女性の両手両足をへし折り、衣服を邪魔だとばかりに剥ぎ取りだした。
「ゲギャギャギャ」
何がおかしいのか、笑いながら衣服をはぎ取りに掛かるゴブリン。
丹後2等陸曹の相対するゴブリンは事もあろうかと、背中に背負っていた大きな剣を持ち出して、盾に向けて一閃した。
「ぐあぁぁあぁぁ。」
盾は何の抵抗もすることなく盾を持つ腕ごと両断されてしまったのである。
とっさに、短剣を構えるもその刀身は何の抵抗もなく切り落とされてしまうと同時に右腕にも傷が増える。
「まずいな、装備が何の役にもたたん」
そう言って覚悟を決めた瞬間であった。
「グギャアァァァァ」
けたたましいゴブリンの悲鳴と思わしき叫びと共に女性自衛官の衣服を剝ぎ取って居たであろうゴブリンが防壁まですっ飛んでいくのが視界の隅に捉えることができた。
それと同時に自分の命を刈り取ろうと振り下ろしかけた剣を止め【ダンジョン】入り口を凝視するゴブリンの姿を見上げることとなった。
「ゲギャ」
憎悪を隠しもせずに【ダンジョン】入り口前に居る鎧に対して激高している、よく見ると吹っ飛んでいった方のゴブリンは青黒い粒子となって中空に溶けるように消え去って行く所が目に映った。これは【ダンジョン】の中でも見た光景だ。ビッグラットを倒した時と同じ光景なのだ。
「あの鎧がゴブリンを倒した?」
自分の発言と同時に、相対していたゴブリンが剣を振りかざして鎧に襲い掛かった。今まで見た中での最速の動きだ。どうやら自分は遊ばれていたようだ。
まったく目に見えない攻撃が鎧に振りかかる。
鎧は身動きせず、女性の方を見て安堵し、自分の方を見て慌てているようだ。ゴブリンの攻撃には一切の関心が無い様で何度切りつけられても、鎧に傷一つ付ける事が出来ていなかった。
そうこうしてる内に、おもむろにゴブリンの首を掴んだかと思えば、片腕で持ち上げゴブリンを宙づりにすると、片腕の握力だけで首を握り切ってしまった、ゴブリンは言うまでもなく青黒い粒子となって中空に溶けるように消えていったのであった。
「握り殺すって・・・・」
倒れている女性には目もくれず、今度は自分の方へ歩いて来ようとした鎧だったが、一斉射撃が開始されたが、すべての銃弾が跳ね返り跳弾の嵐となった為、射撃中止の指令が出されたようだ。
「アホなのか、生存者の味方が居るのに発砲し跳弾の嵐を作り上げるなんて、味方を殺したいのかね?」
「はっ?」
「大丈夫か?」
「脱出者なのか?」
「ああ、それで大丈夫か?ちょっと切り落とされた腕を傷口に繋げて持ってろ」
そう言って腰らへんをごそごそして、小瓶を取り出すと切られた腕の接合部分に何かの液体を掛けられた、見る見るうちに傷が癒えていき完全に腕が繋がったのである。
「もう大丈夫そうだな。残りは飲んどけ。他も重症だろう。」
小瓶の中に残った液体を飲めと口に押し付けられ、思わず飲んでしまったが、体が仄かに光ったかと思えば、全身にあった痛みが引いていくのがわかった。折れていたはずの肋骨も今では痛みすらない。
「よし、完治したな、なら頼みがある毛布を6いや7枚用意してくれんか、大至急で」
「お、おぅ」
言われた通り、自衛隊員の集まる場所に走っていき毛布を用意するように告げると、迅速に対応してくれて毛布を7枚持ってきてくれた。
「助かる、自分の持つ物は持てない物ばかりなのでな」
その一言でピンときた、この鎧の者は【ドロップ】品を持っているのだと。
毛布を受け取った鎧の者は、【ダンジョン】入り口前に倒れている女性に毛布を掛けてから、手足の骨折をある程度正常な位置で固定し、また新たに取り出した小瓶の液体をそれぞれの四肢の振り掛けていき、最後に残った液体を口に突っ込み飲み込ませて居た。
「あんた、試練に選ばれた民間人か?」
「ああ」
「それより、あれを持つと銃刀法違反とかで身柄が拘束されたりするか?」
「あれ?」
「それだよそれ、その足元に顕現した剣だよ、ゴミだから【ダンジョン】内に放り込みたいんだが」
「ああ、それは止めて欲しいかな、研究所とかで研究するはずだしな」
「いやいや、誰が持てるんだよ、俺は一切手伝わないぞ。申し訳ないが、マスコミを筆頭に俺の母親を死に追いやった奴らにも腹を立ててるのでね。
なので何も報告しないし、何も手伝いもしない。強制するなら、抵抗するし、命令してくる輩には消えて貰っても良い」
「それで、その剣は【ダンジョン】内に捨てていいか?」
「いや、それは待ってくれ、上の判断に従うしかない」
「ふん、人の戦利品を横から搔っ攫おうって輩か」
「そう言わないでくれ、武器なんか初めて見つかるものなんだ」
「知るか」
「あ、あのぉ、助けて頂きましてありがとうございました」
「君も黒色か、話しかけないでくれ。殴りたくなる」
「殴れば死ぬのは確実だから我慢するが、一切声を掛けないでくれ」
「おいおい、酷いことを言ってやるなよ。助けられてお礼を言ってるだけだろ?」
「あぁぁ、人の悪評を拡散した相手を受け入れろと?」
「お前は、白表示だから話しかけるし、優先して助けもした」
「あの女は、お前を助けた序でだ」
「【レベル】が5もあれば、何を言ってのかは、分かってるよな?」
「な、なぜ【レベル】まで分かる。俺にはお前が銀色表示でおじさんとしか分らんぞ?」
「まぁ良いや、それでこれからどうなる?」
「俺は好き勝手好きな場所に行って休んでいいのか?」
「いや、上の判断だが知ってることを聞かれたり、身体能力の測定とかもされるはずだぞ、俺たちがそうだったし」
「はっ?人の話を聞いていたか?一切の報告はしないし、協力もしないと言ったはずだぞ」
お読みいただき、ありがとうございます。