第一話 突然の始まり
お目汚し失礼します。
『はぁ~・・・・』
店の改修都合で今日から5日間も収入が途絶えるのだ、長い溜め息が漏れても致し方ないだろう。
今の様に住所不定になり全国各地を転々とし、その日暮らしでインターネットカフェや格安ホテルを拠点にしつつ日雇いバイトで生き長らえてすでに13年目。
住民票はすでに職権削除されてしまってて、身分証明書も何もない現状では身動きが取れないし、助けを求め役所を尋ねたら住所登録が必要と言われ住所設定してから御相談くださいだとさ。
さら生活保護を受け付けるには親族への問い合わせもされるようである。親族とは縁が切れてる現状では八方塞がりであり、途方に暮れつつその場を後にする始末。
後から知った事だが戸籍謄本が有れば住所設定が可能で、戸籍謄本は本籍地の役所での面談で取得可能だったようだが、住所設定できる住み込みの働き先から移動してしまっていて後の祭りだ。
どうあっても親族とは関わりたく無いが、国も冷たい『住所登録が無いと生活保護も受けられない』とは。
『はぁ~・・・・・』
とりあえず格安ホテルの支払いは完了してるし、無事に改装が5日で終わる事を祈りつつ、格安スーパーで5日分の飲食物を買い込み、バックパックに詰め込むとリサイクル自転車で阪神電車今津駅を目指し、のんびり移動を開始する。
各地を転々としながら、日雇いや住み込みバイトをする為に以前購入した60ℓのバックパックは非常に重宝している。
電車に乗る際にも大き過ぎず周りに邪魔になり過ぎないし、着替えや数日分の飲食物を入れても余裕が有るのがまた良い。
それでも水2ℓのペットボトル3本とカルピス470mℓの原液2本を一気に買う必要は無かった、腰痛持ちには非常に辛い、5日間閉じ籠ろうと考えたのが悪かったのだろう。
その他にアルファ米のパックを10個に温めないでも食べれるカレーのレトルトにハヤシライスのレトルト、その他もろもろと菓子パンが5個にチョコクッキーやかっぱえびせん2袋にビスコのクッキー1箱。
もう一度言おう、腰痛持ちには非常に辛いのだ、昔からそうだったついつい買い物時はあれこれと買い物籠に放り込む癖があるのだ・・・
後は15時まで時間を潰しながらのんびり移動だな、阪神電車今津駅の駐輪機に自転車を止めてから尼崎駅まで電車で移動すればホテルはすぐだと考えながら、今津駅を目指しながら阪神沿線沿いを自転車移動してると、高架下の公園で楽しそうに遊ぶよちよち歩きの幼子に癒されながら、和んでいると。
[[[[キャー]]]]
「!!!マイ、チーちゃん!!!!」
悲鳴が聞こえると同時に自分も急激に落下する衝撃が襲ってきて
「うぐっ」
突然地面との接地感が失われて自転車から放り出され宙を落下する感覚に襲われた。
「・・・・・」
それにしてもおかしい。地面が崩落して一緒に落下したはずなのに、崩落したアスファルトや乗ってた自転車はもう見えないぐらい落下してしまっている。
それなのに自分の落ちる速度がエレベーターで階下にでも移動してるかのような落下速度だし。聞こえて来ただろう悲鳴の主らしきお嬢ちゃん達と幼子が、手を伸ばせば届く距離に居るのも不思議現象過ぎる。
落下時は変な態勢だったのだが何故か足から落ちている。落ちていると思えるのは足が下側にあるが足裏に地面や床に接地してる感覚が無いからだ。それに上を見上げるとすでに空は見えず地面がせり上がり塞がってしまって行ってる。
このまま落下?を続けてるとどうなるんだろうか、落下の衝撃とか有るのかは分からないが、流石に幼子だと数十センチの落下でも大怪我しかねないはず。
「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん、手を伸ばしてあの子と赤ちゃんを、おじさんの所に引っ張れるかな?」
髪の長いお嬢ちゃんに頼んでみる。
「は・はぃ、やってみます、ナっちゃんミサちゃん、手届く?」
「ん~と、届いたよぉ」
「じゃぁ、二人をこっちに引っ張って!」
「むり~、空中で引っ張ろうにも自分も引っ張られる感じ~」
子供の軽い体重では空中で人を引っ張るのは難しいようだ。
「じゃあ、おじさんと手を繋いで全員が手を繋いだ状態でおじさんが引っ張ってみるよ」
「はぃ、お願いします」
手前の黒髪長髪のお嬢ちゃんと手を繋ぎ、子供たちも全員が手を繋いだのを確認してからゆっくりと力を入れながら引き寄せてみると、無事に全員が自分の周りに密着する距離まで引き寄せれた。
「それじゃ、その子と赤ちゃんをおじさんが抱っこしとくよ。」
抱っこし始めるとその途端に二人ともが大泣きしだした、二人して全力で抱き着いてきて、ギャン泣きである。
離婚して離れ離れになった我が子を思い出させる状況に心が痛むが、今は泣く子を全力であやすしか手が無い。
2歳から3歳ぐらいの子が首筋に抱き着き大泣きし、1歳か1歳未満の赤ちゃんを心臓の音が聞こえるように耳を胸元に引っ付けてゆっくり揺すってあやす。
首筋にしがみつく子の背中をトントンとしながら落ち着かせ、横抱きにした赤ちゃんが安心したのかうとうとしてる。
昔を思い出しながらも、本当に子供には癒される。
それから数分経つがまだ底に着かない。下を見てみると未だに暗闇しか見えないのが、怖い。
「ジーーーー」
幼子に必死になってると、お嬢ちゃんたち4人がジーっと見てる事に気が付くが、言葉で安心させられる状況じゃ無いので、何も言えない。
「そんなに見られても、おじさんも何も分からないから、何も言えないよ?」
とは言ったものの、お嬢ちゃん達も不安顔だ。どうしたものか・・・
「とりあえず落ちる速度はエレベーターに乗ってる様な感じだし、このまま落下して怪我とかしないで欲しいね」
と言いながら軽く微笑んで見るが、こんなおっさんが微笑んで、誰得よ(苦笑
それにしても、なんだろうこの状況は、単なる崩落事故には思えないし、ラノベで良くあるダンジョン落下物?ステータスとでも言えば良いのか?
「ステータス」
ボソッと呟くと、目の前に色んなRPGゲームでお馴染みのステータス画面が出てきた。
[ステータス]
【名前】:阪本 仁
【年齢】:44
【性別】:男性
【レベル】:-
【状態】:バツ1
【善悪値】:72
【性格】:おだやか
【結婚可能人数】:0
【生命値】:59
【魔力値】:49
【筋力値】:23
【体力値】:19
【器用度】:22
【敏捷度】:14
【知力値】:16
【精神力】:20
【 運 】:67
《スキル》:-
[簡易表示]
【善悪値】の数値により、簡易表示は【青文字】で表示されます。
【名前】:通称や愛称を設定できます。未設定
【レベル】:-
【状態】:緊張
ふむふむゲームでお馴染みな感じか、名前、年齢、性別は分かるな。レベルが「-」表示なのは、レベル1でも無いって事なんだろう。でだ状態がバツ1って・・・そんな表示してくれんでも知ってるわ(涙
善悪値ってのはなんだろうか72とか高いのか低いのかわからないし、結婚可能人数ってなんだろ、0って事は俺にはもう結婚の望み無いって事なんだろうな、まぁ年齢的にも別にどうでも良いのだが。
生命値と魔力値に小数点以下が表示されてるのは何らかの補正があるからなのか?筋力値から運までは数値化された能力値って感じで理解は出来るとしても、スキルが何も無いって事は今まで生きてきて何も身に着いて無いって事か?ちょっと凹むな・・・
簡易表示ってのはなんだろうか、青文字で表示とか書いてるけど分からないな。名前は変更可能って事なのか、って事は他人から見られる情報って事なのかな?
とりあえず、通称を設定出来るってなってるし、未設定ってなってるから、「おじさん」とでも変更出来るのだろうか?
『あ!?』
[簡易表示]
【善悪値】の数値により、簡易表示は【青文字】で表示されます。
【名前】:おじさん
【性別】:男
【レベル】:-
【状態】:緊張
変更されたな、良くわからないしこのままで良いか。これが他人の情報を見れるなら、嬢ちゃん達も見れば分かるんだろうか?
いつの間にか寝ちゃってた赤ちゃんを見つめてみると、赤ちゃんの頭上にポップアップされたウィンドウの様な物が出てきた。
白い文字で自分の簡易表示欄と似たような物が見える。
【名前】:????
【性別】:女
【レベル】:-
【状態】:睡眠
名前が????なのは、自分が知らない情報だから表示されないって事なんだろうか。
思案しながらふと下を見ると地面が見えてきた。
「地面が見えてきたから急に落ちるかもしれないので、注意しててね」
「「「は、はぃぃ」」」
ドキドキしながら地面を見ていたが、何事もなく地面に着地した様だ。
周囲を見回してみると先に崩落した土砂や落下したアスファルトの塊に、自分の乗ってた自転車や公園にあった鉄棒の残骸やフェンスの残骸などが散乱し、土砂やアスファルトは一か所に一塊となって広間の中央に積み重なってあった。
その時不意に空間内に声が響き渡った。
『はじめまして、私はこの星地球に住む人種から見たら〔神〕と言う存在の者だ。この度私が星の管理をする事になり星の現状や生物の環境等を考慮し人種の人口を減らす事にした。減らすと言っても即大量虐殺をするわけではなく、強き善き者を選別しての人口減らしをする事にしたので、今現在私の声が聞こえてる者には試練に挑んで貰う』
『星に500箇所のダンジョンを設置し約3,000名が挑む事になったが、挑戦者の選別は完全にランダムで選択され強き善き因子を持つ人種6名を一組とし近くに居た者達が選ばれダンジョンに落下して貰った』
『また6名一組で設定してる挑戦条件だが、不幸にも落下を免れ6名に達しないグループや、これまた不幸にも6名以上が落下してしまって6名以上の人数になってしまったグループも存在する、だが6名一組で無いグループの落下階層はランダムに選択されてしまっているので、6名一組より難易度が上がったと理解して貰いたい』
『すでに発見した者も居る様だが、軽く説明するとダンジョンに入った瞬間に今まで地球には存在していなかったシステムが導入されている。まず【魔素】が充満してるのがダンジョン内部であり、諸君等個人には【魔力】を有する様に概念が変わった事を伝えておく。
また【ステータス】と言われる物が各個人に割り当てられ【スキル】等も存在し【スキル】には生活技術や武技から魔法まで幅広く存在するので自力で見つけるなり取得するなりしてもらいたい』
『ダンジョン内部には、魔物が存在し罠の類も多数設置されている。【ステータス】を見た者には分かると思うが、個々に【レベル】と言う概念も導入されている。【レベル】は魔物と戦えば勝とうが逃げ切ろうが経験としその身に蓄積していき【レベル】が上昇する事があるが、魔物を倒した場合が一番経験を取得出来ると理解して頂きたい。また魔物を倒した際に【ドロップ】する飲食物を食べる事でも【レベル】上昇に関わる。魔力を含む飲食物はその【ドロップ】品に設定されてる【レベル】が高い物程、口にした際に肉体に吸収される【レベル】上昇因子が濃いと思って頂ければよいが、飲食物での【レベル】上昇には上限もあるので、食べれば食べるほど【レベル】が上がるとは思わないように』
『魔物の【レベル】は、魔物に接触すれば分かるようになっており【ドロップ】品や【レベル】の存在する物には接触すれば【名前】と【レベル】が判明するようになっておる』
『試練達成条件はダンジョンから脱出する事のみだ。無事に脱出出来たダンジョンの在る地域には脱出した人数によって人口減少速度を緩める為の恩恵を与えよう。』
『今挑戦者達が居る空間内には外から危険が来る事は無いが、ここで救出を待つとか愚策はしない方が良い。地上のダンジョン入口には結界で封印してあるので外部から侵入する事は不可能だ。』
『ゲームの様な感覚で浮ついている者が多数居る様だが、これは命懸けの試練である。死ねばその場で終了となる』
『では頑張るがよい』
そう言うと、今まであった圧倒的な威圧感が霧散した感じがして解放された。
凄まじい圧力だった・・・・・
これが〔神〕と言う存在感なのか・・・・
「ふぅ~」
お嬢ちゃん達の方を見てみると目に涙を溜めて泣き出しそうな雰囲気になっていた。
「大丈夫?」
「・・・・・・」
反応がない、困った・・
とりあえず、赤ちゃんと子供を下に降ろして座るとするか。胡坐座りをして太腿の上に子供二人を座らせて自分にもたれ掛けさせて、しばらく様子を見るしかないな。
それにしても久しぶりの赤子の抱き心地は、壊れた心を癒してくれる程の安らぎで穏やかな心で居られるな。赤子や幼子ってどうして無条件で助けてあげないとって気持ちになるんだろうな。あの時もそうだった。我が子と遊んでるとつい家族って良いなぁってつぶやきが聞こえた元妻が血の繋がりだけが家族よだってさ。祖父母世代が半島から日本に連れて来られたって言う元妻との結婚生活だったが、結局日本国籍が欲しかっただけなんだろうな。
「あの、おじさん。私達どうなっちゃうの?」
「さっきの声だと、私達って7人居るから、難易度が上がったって事?」
「死んじゃうのかな・・・」
「怖いよ・・・」
4人が言うだけ言って、泣き出してしまった・・・・
「おじさんにもどうしたら良いのか分からないけど、一つだけなら分かる事があるよ、《子供と引き離された親の気持ち》だけはね、おじさんにも経験があるから君達の親御さんの気持ちなら痛いほど分かるかな。」
「とりあえず〔神〕様も言ってたけど、この場に居続けるのは良い判断では無いと言ってたし、親御さんの事を思えば、君達を連れて無事に脱出する事を目指すべきなんだろうが、どうするべきかな?」
話し掛けた事で、お嬢ちゃん達も泣くのを止めて考え出したようだ。考える事が出来るなら今しばらくは大丈夫な気がする。
「さて自己紹介でもして、これからの事を話し合えるかな?」
「「「「はい」」」」
「おじさんの事は、名前は〔阪本 仁〕名前で呼んだりしないだろうから、このままおじさんと呼んでくれて良いよ。自分等で呼びやすいように呼んでくれて構わない」
「君達の事は何て呼べば良いかな?」
「私の名前は〔坂元 岬〕で13歳だよ」
小柄でボーイッシュな感じの黒髪ショートで黒目で大きな目元が印象的な可愛らしい子が一番に名乗った。
「私は〔山ノ内 桜〕です、同じく13歳です」
次に腰まである黒髪ストレートを肩辺りの背中で纏めた活発そうで明るい感じの子が丁寧に自己紹介した。
「〔河辺 夏美〕です、サクラとミサキの同級生で同じ陸上部で幼稚園からの親友です。同じく13歳です」
「そして私の後ろに隠れてるのは、私の妹で〔春美〕で人見知りで恥ずかしがり屋の11歳です」
赤茶黒の髪で肩までの長さのボブカットで一番活発そうな子が自分と親友との関係と妹の紹介をして締めくくった。
「この子達は知ってる?」
「知りません。公園で母親と遊んでた子だったと思いますが、知り合いではないです」
太腿の上でまだスヤスヤ寝てる二人を見ながら質問してみたが、姉妹でも知り合いでも無いようだ。
「そっか~君達もそうだけど、こんな小さな子が試練とかこの先不安になるね」
言った瞬間お嬢ちゃん達が俯いてしまったのを見て、ハッとした
「ああ、ごめんごめん迷惑とか邪魔とかって意味で言ったんじゃないんだよ。赤ちゃんって食べ物とかの心配があるし、魔物が居るんだと赤ちゃんなんか絶対に触らせる訳にいかないでしょ。そういう意味で不安になるねって事を言いたかったんだよ」
「おじさんね、この二人の子と同じぐらいの歳の子供を元妻に奪われてね、引き離されちゃったんだ13年程前の話だけどね。それから一度も子供に合わせて貰えて無いから当時の子育てしてた時の記憶が鮮明に思い出されてね、赤ちゃんに必要な物が脱出するまでの間に手に入るのかって心配になっちゃって」
「まぁ、暗い話してても仕方ないし、これからどうするか相談しようか」
「そうですね、でも何をどうしたら良いのでしょうか」
「えっと、山ノ内さんだっけ、おじさん気付いたことがあるんだけどさ、【ステータス】って言うと目の前に自分にしか見えない画面が出たんだよ。自分の能力が数値化された項目があってさ、それでね他の人を誰だろうって思いながら見ると、白文字で【名前】【性別】【レベル】【状態】って項目が表示されたりもしてるんだよね。」
「それでね、皆も自分の【ステータス】を確認して戦える手段があるか確認してみて欲しいかな?【スキル】に何かあれば教えて欲しいな。おじさんは【スキル】は横棒が引かれてて持ってない感じだった」
「「「「ステータス」」」」
真剣な顔付で確認してるようだな、中空を視線が移動してるし
「えっと~【名前】河辺夏美で、【年齢】が13歳で、【性別】が女性で、【レベル】が横棒になってて、【状態】が処女・・・・・・・」
河辺さんがステータスを読み上げていき状態の項目を声に出しちゃって自爆して顔を真っ赤にして俯いちゃったな。再起動に時間が掛かりそうだし、他の子も巻き込まれたようで同じ様に真っ赤になっちゃってるわ。これどうしろと言うんだよ・・・
幼児二人を眺めながら時間を潰そう。うんうん、それが正解だろうそうに違いない。ここで何を言っても変態おやじの称号を貰ってしまいそうで口出しするのは悪手だろう。うん、無言が正解で危機回避成功だろう!
お読み頂きありがとうございます。