第十二話 おじさん、今後の方針を決める。
チーちゃんの布おむつの洗濯を済ませて戻ると、サクラちゃんもナツちゃんも寝ていたので起こさない様にそっとチーちゃんマイちゃんの近くに移動して横になり、2日目の出来事を思い返す。
自由に動く【魔物】との戦闘は非常に緊張するものであった。組み付いて何とか倒す事に成功はしたけど、あんなのは運でしかない結果だろう。
武器も防具も無い中では何とかなっただけだ。【女神様方の寵愛】が無ければ多分動きも把握する事無く最初の突進だけで貫かれて死んでいたに違いない。女神様方には感謝してもしきれるものではないな。
並べて寝かせたマイちゃんとチーちゃんを見、それからお嬢ちゃん達4人の寝てる方にも意識を向けて、生きて戻れたことを安堵すると共に、この子等を無事に親元に返してあげたいと言う思いが一層強まる。
上の階層に移動すればする程に【魔物】の【レベル】は下がるのだろうか、上がるのだろうか。下がるのだとしたら楽になるのだが、【魔物】の【レベル】が上がるとしたら試練としては脱出不可能だろうとも思う。
この際、【魔物】の【レベル】が下がると仮定してこの階層で出来るだけ自身の【レベル】を上げ切ってから上の階を目指す方が安全度は上がるとは思う。自分はゲームでもラスボスに戦いを挑むのはレベルを上げ切ってから挑むタイプなのだ。この子等には申し訳ないけど少しの期間は【レベル】上げに時間を使わせて貰おう。それにこの階層は結構深い階層な気がするんだよな。【エリクサー】なんて名称のポーションまで手に入った位なんだし、手に入る【アイテム】は多いに越したことはない。
「ふぁんぁぁ」
その時チーちゃんが少し愚図る様に泣き始めようとしたので素早く反応し、チーちゃんを抱き上げると横抱きにし暫く胸元を優しく手のひらで触れては離しを繰り返しトントンしてると落ち着いてきたのだが、抱っこしたままその愛くるしさに癒されるのであった。
「おはよう」
「「「おはようございます」」」
「おはようございます!」
ミサキちゃんが、一番元気に挨拶を返してくれたが、全員が昨日の様に状況を把握できてない雰囲気は無くなっていた。
「少ししたら朝ご飯の準備しようか?」
「「はぃ」」
サクラちゃんとナツちゃんが返事してくれたので、リュックサックの中の食べ物で残ってる物が何かなと思案しているとマイちゃんも目を覚まして、辺りをキョロキョロとしてるが目的の物は見つからなかった様でしょぼんとしては居るが、昨日の様に泣き出したりはしなかった。
「マイちゃん、おはよう」
そう言って、マイちゃんの頭をナデナデしていると。
「おはよごじゃいましゅ」
マイちゃんが可愛らしく自分を見上げる様に言ってきた。
あまりにも、その姿が可愛すぎたので思わず抱き上げてギューっとしちゃった。
「喉渇いたね、お水飲みに行こうか?」
「うん!」
マイちゃんを抱っこしたまま水源の水を飲みに行こうとしたら、皆行くと言うのでチーちゃんを一人に出来ないので、マイちゃんを首にしがみ付かせてチーちゃんを抱き上げて移動する。
「おいしいね~」
マイちゃんがおいしいと喜んでる。
コップで水を飲んだ後に水浴びをした場所に移動して、チーちゃんの顔と手を濡らしたタオルで拭ってあげて綺麗にしてから、自分も顔を洗ったり口を漱いだりとしてサッパリする。
「きもちぃー」
ミサキちゃんも顔を洗って気持ち良いと騒いでいた。
「よしご飯作ろっか」
それから皆でナツちゃんの指示に従いながら朝ご飯を作り朝食を済まし、皆が落ち着いたのを見計らってから今後の方針を告げる。
「おじさんね、昨夜少し考えたんだけど、これから先ね上の階に移動する度に【魔物】の【レベル】が上がるのか下がるのかを考えたのね。
それで試練と銘打たれてるから【レベル】が上がるのかもしれないって不安と、こういった【ダンジョン】だと下の階に移動する度に【魔物】の【レベル】が上がるってのが定石なら、上の階層に移動しても【魔物】の【レベル】が下がるのが定石だろうと考える2通りがあるのね。
で、おじさんは後者の上の階に移動しても【魔物】の【レベル】が下がるってのを期待して進もうと思ったんだけど、皆はどう思う?」
「おじさんの言う【魔物】の【レベル】ってのは、【魔物】の強さって考えたら良いの?」
「そうだね、そう思ってくれて良いよ」
「「「ふむふむ」」」
答えると年長組3人が考える様に頷く、ハルちゃんは幼子2人の面倒を見てくれてる様だ。
「私はおじさんの言う様に、上の階に行けば【レベル】が下がると思う」
サクラちゃんが自分と同じ考えだと述べてくれる。
「私も上に行けば弱くなると思う」
ナツちゃんもサクラちゃんと同じ意見な様だ。
「試練って言うぐらいだし強くなるかもっても思うよ」
ミサキちゃんは強くなるって思うと答える。
「うん、その2通りが今考えられる事なんだけどね、どっちの場合でも対応出来るようにね、おじさんはこの階で【レベル】を上げれるだけ上げてから上階に移動しようと考えたんだ。
理由はねさっきの予測の2通りに対応する為に、この階層より上の階で強い【魔物】が出た場合に即死しない為の用心と、逃げ切れるだけの身体能力を手に入れておくのが安全に繋がるのかなって思ったの。
問題があるとしたら、しばらくはこの階層で過ごす事になってしまい、地上に辿り着くのに時間が掛かってしまうってのがあるね」
「いいよ、おじさんの考えにお任せします」
「うん、おじさんが大丈夫って思える様に進めてください。私達は安全にここで守られてるだけなので」
「うんうん、おっちゃんの好きな様にやってよ。そりゃお母さんとお父さんにしばらく会えないのは寂しいけどさ、無理に移動して死んじゃう方が嫌だから」
サクラちゃん、ナツちゃん、ミサキちゃんの順で賛成してくれる。
「あ、ああ、わかった。それじゃあ慎重に進む事にするね。
何かあったら絶対に言ってよ。それじゃさっそく、上に移動する階段なりを探しながら【レベル】上げをするよ。チビちゃん二人をお願いしますね」
「「「はーい」」」
「ハルちゃんもお願いね」
「は、はぃ」
嬢ちゃん達にも方針を伝える事が出来た事だし、それでは慎重に準備をして上の階層を目指しつつ【レベル】上げをしていきますかね。
「行って来ます」
「「「「行ってらっしゃい」」」」
行ってらっしゃいの言葉に心の中で感動に震えながら、異空間の出入口を開き外に出て、荷物置き場の空間を開き、サーベルデスラビットの角を加工して作った角を取り出し片手で持って、振り回そうとして見るも、それはまだ無理だと判断出来た。
両手持ちなら振り回すことは出来たのだが、あのウサギ型の【サーベルデスラビット】の動きに付いて行けるかと言うと、あの速度に合わせた振り回しは無理だなと思えた。
それでも素手で動き回る事に比べると手に武器があると言う事が、心の安寧に繋がるのも事実なので。昨日とは違い角を持ちつつ移動する事にする。
「取り敢えず、昨日の広間まで行ってみるか」
宝箱でも無いかなと期待を胸に慎重に昨日2度通った道を進む。もちろん天井も注意深く視線を忙しなく動かしながらだ。
昨日も訪れた広間に繋がる曲がり角まで来ると、広間の方に何かが動く気配を感じる。
曲がり角を背にして広間の方を伺って見ると、昨日も見たウサギ型の【サーベルデスラビット】の姿を視認出来た。
心構えをしつつ慎重に広間の方に近付いて行き、広間入口で様子を伺うも、昨日の通りに【魔物】には察知されてるようで、こちらに向き直り威嚇している。
こうなったら慎重に進んだ所で意味がないので、広間に立ち入り【魔物】と対峙しつつ角を両手で強く握りしめて相対する。
相対するも束の間、【魔物】は既に飛び掛かる態勢になっており、僅かの間も無く飛び掛かってきたので横に回避行動を取り回避に成功する。
「それにしても【魔物】の攻撃意欲は凄まじいな。視認即攻撃とか、先に【魔物】を発見しないとまずいな」
そんな事が考えられるほどに、昨日よりは余裕があるようだ。
思えば昨日の様な【魔物】の動きが目で追うのがやっとって感じでは無くなっていた。
これも【レベル】上昇の恩恵なんだろうな。それでも【魔物】の動きは驚異的なのには変わりないんだけどね。
しばらく【魔物】の突進を回避してと繰り返しつつチャンスを伺うも【魔物】は角を突きの要領で突進してくるので受け止めるなんて方法は取れないし、回避するのもギリギリなんかは怖くて出来ないし、角を跳ね上げるとかも無理だ。自分は剣士でもなければ武器の取り扱いに長けてる訳でもない!
それでも何かしないとこの鼬ごっこが終わるとは思えないし、自分の体力が尽きたらそこで終わりだ。
数度、突進を回避してと繰り返した後に思い切って回避の時に持ってる角の切っ先が【魔物】の体に当る距離に置き去りにして回避をしてみると、【魔物】も同じ行動の繰り返しと判断していた不意を突けたのだろう、左前脚の付け根部分を浅く切り裂いた手応えがあり、【魔物】の体から赤黒い色の血の様な物が流れ出てるのが見て取れた。
「よし、この角ならダメージが与えられる事が分かったのは大きい」
内心でガッツポーズしつつ、次の行動を見守ると、【魔物】も反撃されるとは思っても無かったのか、警戒しつつ威嚇してくるが、こっちも飛び出せる程の腕では無いので待つしかない。
この【魔物】を難無く倒せる様になるのが第一目標だな。それ位出来なければこの先が思いやられそうだ。
この瞬間も【魔物】を注意深く見ていると、足の付け根に付けた傷口からは赤黒い液体が止めど無く流れてるのが分かる事から、浅手だったと思った傷は思ったよりも深手を与えてたようだ。
しばらく睨み合いが続いたが自分が思いもよらず我慢が出来なかった様で、足を一歩前に踏み出してしまった。
その瞬間に【魔物】が突進してくるが体液を流し過ぎたのか最初の突進程の速度は無かったのだが、こっちも不意に一歩を踏み出してしまったのが不味くて回避行動が一歩遅れたのにも拘らず【魔物】を切りつけた時の動きをしてしまった結果、【魔物】に角の刃を当てる事に成功しつつも自分も【魔物】の体躯に跳ね飛ばされる結果となってしまったのである。
しかも武器にしていた角まで手離してしまい、状況が悪化してしまった。
「あ痛たたた、まずったな」
痛みを我慢しつつ起き上がり角を手放した事を後悔しつつ【魔物】の動きを見続ける。
武器にしていた角が突き刺さってる部分から割と勢い良く体液が流れ出てるのが良くわかる。【魔物】の周囲が時間を追う毎にどんどんと赤黒く変色していく範囲が広がっているが。
また、【魔物】も動こうとするが武器にしていた角が突き刺さってる部分が動きを阻害しているようで動きにくいようだ。
こっちにとっては助かる。あの体液の流出量だと動けなくなるのも時間の問題なのではとは思うが、最初に切りつけた方の傷からの流出は止まってしまってる事から、自然治癒力が高いのが良くわかる。てかすでに最初の傷口すら見当たらないぐらい塞がってるんじゃなかろうか。
自分が使っていた武器の角が左前足の付け根の関節部分を巻き込む感じで胸部分に突き刺さってる様だ。割と深く切り裂きつつ突き刺さったようで。
こっちも様子を伺ってる間に体の痛みが引いて来た感じがする。
「さて、どうしたものか・・・」
取り敢えず、【魔物】の動きを確認してみることにして、フェイントだけで相手をからかってみる。そうすると【魔物】にはフェイントの判断も無いようで、こちらの動きに面白い様に反応し傷口に突き刺さってる角が面白い様に傷口を抉ってくれる。
傷口を抉ると同時に流れ出る体液の量も増えて行き、【魔物】の動きが次第に鈍化してるのも見て取れるがもう油断はしない。
いつでも突進を回避出来るように身構えながら、時々左前脚に負担が掛かる様にフェイントで【魔物】の動きを誘導しつつを繰り返し、体液の流出が止まらない様にだけ意識を集中する。
すると次第に【魔物】の動きが鈍っていき、ある時を境に動かなくなり、こちらのフェイントにも反応を示さなくなった。討伐時の様に青黒い粒子にはなってないので、慎重に【魔物】の視界から外れてみるも【魔物】は反応を示さない、これはどういう事だ?
分からないし、フェイントも意味をなさず時間だけが過ぎるがそこからは動きがない。ポケットに入れていたこぶし大の鉱石を取り出して、【魔物】の顔目掛けて投擲してみる。
鉱石は勢いよく【魔物】の顔面に直撃するも反応が無い事から意識を失ってる可能性を思い浮かべ近付くべきか考え、このままでは埒が明かないので、意を決して【魔物】に急接近して武器の角を掴み押し込んでみると、それが止めとなったようで漸く【魔物】は青黒い粒子となり中空に溶ける様に消え去ると同時に、目の前にレベルUPのログが流れ出す。
「ステータス」
[ステータス]
【名前】:阪本 仁
【年齢】:44
【性別】:男性
【レベル】:239
【状態】:バツ1
【善悪値】:86
【結婚可能人数】:5人まで
【生命値】:52879
【魔力値】:51983
【筋力値】:20671
【体力値】:17076
【器用度】:19773
【敏捷度】:12583
【知力値】:14380
【精神力】:17975
【 運 】:67
《スキル》:造形術Lv67
《固有スキル》:[異空間創造作製Lv2]
《加護》:[女神様方の寵愛]
[簡易表示]
【善悪値】の数値により、簡易表示は【銀色文字】で表示されます。
【名前】:おじさん
【レベル】:239
【状態】:健康
「ふむ、1匹の討伐での【レベル】上昇はそんなにしなくなったが、それでも34も一気にレベルUPするのは異常なのだろうな。
とりあえずは1匹倒してもレベルUPしなくなるまではこの階層で過ごすべきだな」
足元を見ると【魔物】の【ドロップアイテム】が幾つか出現していた。
【サーベルデスラビットの皮 Lv685】
【サーベルデスラビットの前歯 Lv685】
【サーベルデスラビットの人参40本(食用) Lv685】
【サーベルデスラビットの魔石 Lv685】
「肉は無いか。歯ってどうするんだ?大きさはキャッシュカード2枚分ぐらいか。まぁ何かに使えるだろうから荷物置き場に放り込んでおこう。魔石も使い道がわからんし。人参は助かるな。それにしても更に軽く感じる様になったな」
【ドロップアイテム】を持ち上げてみるも、最初の頃のような両手でなんとか持ち上がるとかってレベルではなく片手で普通に持ち上げれる。更に言えば皮の上に全部乗せても持ち運べる様になった。
どんどんと人間を辞めて行ってる感が否めないが、無事に脱出する為ならそれでも良い。
無事に【魔物】を倒し終えて広間内を物色してみるも昨日の様に宝箱っぽい箱等は無く、行き止まりなだけのようだ。
広間内の壁も確かめてみたけど隠しドアの様な物も無かった。ゲームとかだと隠された秘密の部屋とかありそうなのにな、行き止まりだけって夢も希望もないぞ。
勝手に憤慨しつつ来た道を慎重に戻り分かれ道を行って無い方向に進んで行くと、今度は左方向に緩やかにカーブしてる道を進む。
道なりに進んで行くと前方が明るくなってる様な気がする、そう思うのは今までは10メートル前方迄しか視認できなかったのにどう見ても20メートル先が明るく見える。
今までと違う感じに警戒感を高めつつ足音さえさせない様に出来る限りの気配を消しながら慎重に進んで行くと、とたんに視界が広がり外に出たのかと思えるような風景が広がっていた。しばらく呆然としてしまったが、これがラノベのダンジョン物で良く描かれていた階層丸ごとフィールド風ってやつかと妙に納得してしまう。
「さてと、この広大な景色の中を突き進むのか・・・」
目の前には視野180度一面が草原なんだよね。ここを進むにしても目標物も無ければ見た感じでは均一な高さの草しか見えない。
こんな所を突き進んだとしてこの洞窟の入口が見えなくなった瞬間に方向が分からなくなるぞ。自分は決して方向音痴ではないし、建物の中に居たとしても入って来た入口や自分が動いた方向で東西南北ぐらいは大まかに判断出来るだけの方向感覚は持ってると言い切れるのだが。
前方に見える草原なんだが、左右を見てもこの洞窟の壁が途切れた先まで草原なんだよね。言ってみれば港を出港した船が大海原のど真ん中に出て行くようなもんだ。
上空を見てみても青空が映し出されてるだけで、刻一刻と景色が移り変わる様子も無ければ、雲一つ無い。
「どうしたもんかね。コンパスでも無ければ遭難するぞこれ・・・・
てか、今が遭難中と変わらんのか・・・」
異空間で休める事だし、今の状況が遭難となんら変わりない事に気付いたので、なる様になれと突き進んでみる事にする。
「景色だけは良いんだよなぁー」
本当に景色だけは抜群だ。周りを見回してみても青草の絨毯で大海原のど真ん中を歩いてる様に錯覚するぐらいには、木とか岩とかも目に映らないし、本当に膝下ぐらいの草原の中を歩いてるだけだ。
1時間ぐらい歩いただろうか。背後を見ても洞窟の入口は既に見えなくなってる。
「これって本当に準備不足で進入したら遭難して食料と水が尽きてそこで終わりって事にならないか?」
そうこうしながらも更に1時間ぐらい突き進んでいたのだが、朝食を食べてから荷物置き場に【ドロップアイテム】を置きに入り水分補給しただけなので、喉が渇き始めたのとそろそろ昼食時な時間帯だろうと言う事で異空間内に戻る事を考えた。
だが、このまま異空間内部に入ってしまうと次に出て来た時に進んできた方向も分からない事になるので、地面の草地を軽く持てる様になった角の加工武器で草刈りをして地面に進んで来た方向を掘るのと同時に、地面部分が修復されるかもとの思いで草を一定方向に広く刈り取って進む方角を頂点にするように三角形と四角を引っ付けた矢印風に草を刈り取っておく。
「何か物を置いときたいけど、3時間程度で消えちゃう事を知ってるからね。地形を使わせてもらうよっと」
地面と草地への一工夫を終えたので、荷物置き場の異空間から人参40本を取り出して、子供達の異空間に入る。
「ただいまー」
「「おかえりなさい」」
あれ、二人?サクラちゃんとナツちゃんしか答えてくれない。
「2人だけ?また水浴び中なのかな?」
「違うよー。マイちゃんが不安にならないように集中して遊んで追いかけっこしたりしてたら疲れて寝ちゃったの。ミサキも一緒に寝ちゃってるよ」
「そっかーそれなら良かった。水場だけは注意してねあの深さでも溺れるからね」
「はーい」
「おじさん、お腹が空いちゃって戻ってきちゃったの。【レベル】上げの方は順調なんだけどね、今居る場所が分からなくなった」
「「分からなくなった?」」
サクラちゃんとナツちゃんが驚いたように声を上げる。
「別にどこかに飛ばされたとかじゃなくてね。草原に出たんだけど広大な草原でね、休む時は異空間に入るし良いかと突き進んでる最中なんだけど、最初の広間のあった洞窟入口は既に見えなくなってしまっていてね、それで現在地が不明って事ね」
「そうなんだー」
「おじさんのこの異空間?のスキルが無かったら私達もその場所を歩いてたんだよね。そんなに広大なら歩くだけでも厳しかったよね?」
「そうだね、おじさんも2時間ぐらい歩いたんだけどね、景色は一向に変化が無くてね、休憩に戻って来たの。なので、先に水浴びさせてもらうね。汗かいちゃったし歩き疲れた足を少し冷やすよ」
「「はーい、私達はお昼ご飯の準備だけしときますね」」
「うん、よろしくお願いね。おじさんも水浴びからあがったら手伝うよ」
そう言って、竈近くに置いた宝箱内に人参40本を追加で仕舞い、水場の方へ移動して汗を流しサッパリとする。戦闘で火照った体が冷たい水で冷やされて心地いい。
少しの間、水場で足を延ばし足の筋肉を解してから体を拭き竈の方へ戻ると、既に竈には火が熾されており肉の焼ける良い匂いが漂っていた。
ついつい生唾を飲みゴクリと喉をならしてしまったが、この肉は本当に旨いのだ。我が子の為に養育費を多く支払いつつ極貧生活を続けて来た自分にとっては極上の美味だ。だが、極貧生活をしてる事には何も後悔は無い。我が子が成人するまでは我が子が金銭面で苦境に立たされない様にだけは絶対にしたいし、それが親の使命でもあるのだからだ。
そうだ、早く脱出して今月末の養育費の振り込みをしないと駄目なんだった。まずいぞこれは養育費の支払いをしないとか男親としては最低過ぎるぞ。そう思い早く脱出する事を心の中で決意するのであった。