Drop1 プロローグ
ぴちゃん…と、どこからか漏れた水道の水滴が、水溜まりに落ちては音を鳴らす。冷たい北風が壊れかけた窓に吹き荒れ、今にも破れそうになっている。そう。少しでも音を立てたら『誰か』に気づかれてしまう……そんな重々しい空気が漂っているのだ。
風穴が空いて廃れた工事の物陰に、髪が銀と白の中間ぐらいな色で目は黒色した少年が息を最大限に潜めながら隠れていた。
「あいつどこに逃げやがった!?くそ…っまた俺らが飯抜きになる」
「まぁ~良いじゃん?『あの方』の御機嫌が損なわない限り、見つけたら許してくれるでしょ?…なにせあの坊っちゃんは息子だし。」
「ふざけるなよ!?あの方は息子にも容赦ない方だぞ!?…というかもう4日もろくに食べてねぇぞ!?」
「はいはい、そうですねぇ~」
ここは社会からも政治からも見棄てられ、生活はしなくてはとごみ溜めをかき集めて作った路地裏の暗黒街……の入り口の場所。そこに現れたのは、清楚な青のTシャツにダメージが入った黒のズボンを履いた『よそ行き』の格好をした男二人だった。
ぴたっと靴の音が消え、不思議に思った少年はちらっと物陰から顔を覗かすと、まだ二人はいた。見つかってしまったのだ。
少年はそれを見るや否やぎゅっと目を瞑り、がたがたと震え始めた。
「ほら出ておいで?かくれんぼ~はもうお仕舞いだよ~?」
「そうだぞ!俺らは居所は掴めてるだからなぁ!」
にやにやと楽しそうに笑いながら少年がいる方に、こつんと靴を鳴らし歩いていく。少年は次の逃げ場を探そうとするも、先の方には暗黒街に入ってしまうし、反射神経で飛び出して逃げるという体力も、少年には生憎無かった。
「もうちょっとで見つけちゃうぞ~?」
「あーあ、み」
「……みーつけたぁ???」
「「!?」」
低い、低い男性の声がした。その声を聞くだけで普通の人なら逃げてしまいそうな、怒りを抑えている声だった。しかし、この男二人は慣れているためざっと勢い良く振り返った。
「こんな夜にガキとチンピラ野郎が隠れん坊か?なんならよぉ…俺も混ぜてくれ?」
物陰に隠れたままなので男の姿は見えないが、ゴンッと地面か何かに打ち付けられた音がして、さっきまで喋ってた男達の声がしなくなった。異常な有り様に気づいた他の連中も続いて男に殴りかかろうと向かっているが、その男は怯みもせず、涼しい顔で集団を相手していた。
「____逃げろ。絶対死ぬんじゃねぇぞ?」
光のある街へ行け、とも付け加えて男が放ったその一言は少年は不思議と体力が戻る感覚になった。痛む傷に顔をしかめながら、少年は夜更けのネオン街に走っていった。
心陽が藍久と……いや、湊があの『二人』と一人と出逢う前。これは過去にやんちゃしてた新人男性警部と暗黒街にいた少年のお話。