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接種 Inokulado

作者: 高瀬秀美

西暦2035年 ネオ東京。

日本政府によるスーパーシティ構想により様々な高層ビルが立ち並ぶ中、日本のアウトバーンを赤い流線型の車が走って行く。

車を走らせているのは運転者ではない。

車は第7世代のネットワークに繋がり自動運転されているのだ。

運転席に座っているのは18歳になったばかりの高校生のヒカルだ。

ヒカルは18歳になったので自動運転車の運転許可がおりたばかりだ。

先週、運転免許センターで運転技術をアップロードしてもらい記憶に定着させた。

自動運転で何か突発的なトラブルが起きた時にマニュアル運転に戻し対処できる。

車はヒカルの親であるヒデヒコから借りた物だ。

ヒカルは今日、ガールフレンドのシノブとダイバーシティでデートの約束をしていて車で向かっている最中だ。

ヒカルはポップコーンを食べながら車のモニターに映ったカトゥーンアニメを見ている。

画面の中で黄色の猫が茶色のネズミを追い回している。

それを見るのに飽きたヒカルは親父の車に付けられている骨董品のCDデッキの再生ボタンを押した。

車のスピーカーからはヒカルの親父が若い頃に聞いていたYMOのライデーンの曲が流れ出した。

「なんだよ、こんな古い曲!」

「坂本龍一か。音楽の教科書に載っている音楽家だな」

そう言っている最中にヒカルの頭の中にテレパシーでガールフレンドのシノブからのメッセージが届いた。

「ヒカル。ごめんなさい。服選びに手惑ってデートに遅れそうなの」

ヒカルは怪訝な顔をして「またかよ!」

「出来るだけ早めに来いよな!」

「じゃぁね!」と答えてヒカルは持っているポップコーンを口に運んだ。

ポップコーンの袋には遺伝子組み換えのトウモロコシを使用と書いてある。

ダイバーシティに着いたヒカルは最寄りの喫茶店で独りコーヒーを飲み時間を潰した。

ヒカルは1時間後に待ち合わせの場所でシノブと逢えた。

「ごめんなさい」

「てゆうか、なにか私の服装を見て反応はないわけ?」

シノブは光学迷彩の上着を着ていた。

キラキラと光ったガラス繊維の上着の表面がネモフィラの花を映し出している。

ネモフィラの花模様が16歳の華奢なシノブをより美しく見せた。

本当は嬉しいヒカルであったがシノブに悟られまいとして、こう答えた。

「別に。いつもと変わりないじゃん!」

シノブはむくれて「なーんだ。つまんないの。でもいいわ。私が遅れたのが悪いんだもの」

「遅れたお詫として貴方の好きなゲームセンターに行きましょう」

と言ってシノブはヒカルの腕を取ってゲームセンターに向かった。

ゲームセンターでシノブはヒカルをヒカルが好きなプロレスゲームの台に招いた。

嬉しくなったヒカルは「俺、一度、神取になって北斗と対戦がしたかったんだよ!」

「いいわよ。それじゃ、私が北斗ね。」シノブが乗り気になり調子を合わせる。

ヒカルは微笑みながら「じゃぁ。デンジャラスクイーン決定戦のにするよ!」

シノブは「私は初めてだから初心者モードにしてね!」

と言って二人はプロレスゲーム台のリクライニングシートに寝転んだ。

二人同時にエントリーボタンを押した。

プロレスゲームのモニター画面ではヒカルとシノブの脳神経が機械に接続された事を示すログインマークが表示された。

目を閉じると二人はバーチャル世界にいた。

ヒカルは神取、シノブは北斗となりリングの中にいる。

観客は居合わせたゲームセンターの客やゲームセンターのフォロワーのプロレスファンがアバターとなって観戦してくれている。

ゲームは1993年4月2日の横浜アリーナでの北斗VS神取戦の試合運びを完全に再現した物だ。

まず初めにリングアウトなしの完全決着ルールとアナウンスされた。

ゴング開始からシノブの北斗が挑発から神取の顔面にグーパンチを浴びせる。

まさかの一撃を受けたヒカルの神取はダウンした。

日頃からヒカルのだらしなさに頭にきているシノブが笑う。

ゲームでの試合の流れに沿って北斗は試合中にも係わらずマイクを持った。

「オイ、神取!どうした起きろ!」シノブはいい気味よとヒカルを挑発する。

やっと起き上がる神取に北斗は張り手の連打を浴びせる。

コノヤロウと思ったヒカルの神取は掌底の連打で応戦して脇固めで捕獲する。

うーやられた。シノブの北斗はたまらず場外へ逃れるが、この時に左肩を脱臼する。

なにこれ初心者モードなのに痛いとシノブは肩を押さえる。

レフェリーやセコンドが応急処置を施して北斗はリングに戻った。

神取は容赦なく左肩に蹴りを浴びせる。

貴方の攻撃、えげつないわよ。シノブは黙っていない。エルボーの連打を神取に浴びせる北斗は顔面へ、ニーの連打をする。

なかなかやるじゃないかとヒカルの神取は北斗の足をキャッチしアンクルホールドから腕関節を狙う。

危ないと思ったシノブの北斗は慌ててロープに逃れて神取を場外へ蹴り出す。

これはどう。シノブの北斗は場外の神取にダイブを狙う。

やるじゃん。と阻止したヒカルの神取はリングに戻って腕十字を狙いつつ北斗をフロントスリーパーで捕獲する。

座り込む北斗にフロントキックの連打を浴びせてから再び左腕を狙う。

やったわね。シノブの北斗も腕固めで応戦する。

観客のアバターが投げ銭を投じるとゲーム台の液晶パネル表示にクレジットされてゆく。

北斗が神取を場外へ連れ出して本部席のテーブルに叩きつける。おらーと興奮するシノブ。

テーブルに貫通ツームストーンパイルドライバーを狙ったが、神取が逆に切り返してテーブルに北斗を突き刺す。

使用されたテーブルはプロレスで使用する通常の机ではなく、横浜アリーナのテーブルを使用したため硬く、おまけに貫通しない。

テーブルの破片が額に刺さってしまった北斗は流血するも、血が止まるどころ止まらず流れで始めてしまった。

嫌。いやー、痛い。耐えられないわ。シノブはすぐさま泣き顔になった。

セコンドやレフェリーも北斗の流血の量が尋常でないため、北斗に「ギブアップか?!」と迫る。

「ギ。ギブ!」シノブの北斗はたまらずゲーム終了ボタンを押した。

観客のアバターはこの後に続く試合が見たかったがシノブが痛みに耐えきれずにゲームを中断し試合内容を変えてしまった事で白けきっていた。

ブーイングをする者もいたが、すぐ隣の台で違うカップルがヒカルとシノブの試合の続きからゲームのエントリーをした為、そちらを観戦した。

ゲームが終わり二人は正気に戻った。

「あー頭が疲れた。へとへとだぜ!」

「シノブごめんな。初心者モードでも痛かった?」

「何か飲む?」

それを聞いてシノブは「少し痛かったわ。でも面白かったね」

「ストレス、すごく発散したわ!」

「私、グレープジュースが欲しいわ」とシノブが言ったのでヒカルは「わかった」と言って近くに自動販売機がないか探しに出かけた。

ヒカルは自販機を探している間に歴史のレポートの提出期限が差し迫っている事を思い出した。

そうだナオト叔父さんに第一次接種について色々と聞かなきゃいけない。

ヒカルはポケットから時代遅れのスマートフォンを取り出し叔父のナオトに電話をした。

ナオトはリビングのソファに座り飼い猫を膝に抱え撫でていた。

ナオトの額には深い皺が刻まれており白い口ひげを伸ばしている。今年で80歳になり年相応の風貌をしている。

リビングのテーブルに置いてあったポケベルのような物が鳴りナオトがその音に気づいた。

ナオトは自分の書斎に戻り皆に骨董品と言われる真空管で出来た無線機の電源を入れた。

無線機はナオトの父親からの形見の品でコリンズという無線機である。

ナオトは50Km離れた友人のアフリカ人のネルソンを無線で呼び出した。

「ハローCQ CQ こちらはJO1◯△☓」

「7F1◯△☓取れますか?」

「聞こえているぜ。兄貴!」少しハスキーなフランス訛の声でネルソンは直ぐに返答した。

ナオトはネルソンに向かって「頼むがまた甥っ子に繋いでくれんかのぉ」

「了解!」

「兄貴には借りがあるからね」とネルソンは自分の無線機を現存しているEhoLinkシステムを通じてインターネットに繋いだ。

ナオト叔父さんの家にはインターネット環境が無い。この事でいつもヒカルは叔父さんの事を変に思っている。

「ヒカル何か用か?」ナオトが片手で髪を掻きながらヒカルに尋ねた。

「お前の用事は全くろくな事じゃないからな」

ヒカルは少し焦って「違うてば!」 

「歴史のレポートを書き上げるのに叔父さんの話が聞きたいんだ!」と言って叔父に第一次接種の事を尋ねた。

ナオトは根っからの菜食主義者、ビーガンである為、遺伝子組み換えの食品など食べないと前から話しており街では変わり者として見られている。

当然、遺伝子操作を行うワクチン接種を拒否した。そのため第一次接種で起きたジェノサイドを間逃れていたのだ。

ジェノサイドでは人類の人口の30%がコロナウィルスにより死に絶えた。日本でも3300万人程が亡くなり人口が7700万人になった。

ナオトの元妻のアケミは第一次接種を受けた為、2024年に死亡している。

叔父のナオトは現在も全てのワクチン接種を拒んでいる為、銀行口座も持てずに自給自足の生活を避接種者の集団と共に営んでいる。

ナオトはアケミの死について語り出した。

「あれの事は皆がマスコミに流されてしまった結果だ」

「私は反対したのに妻は私の頭がおかしくなったと考え精神病院に行くように勧めた」

「それでも私がワクチンの危険性を訴えた為、妻は私をキチガイと罵倒するようになったのじゃ」

「それが発端となり私達は離婚した、、、」

「、、、その結果、彼女を救う事ができなかった」

ナオトの嗚咽がヒカルのスマートフォンから聞こえてくる。

「第一次接種の事は2014年の米国大統領のトランプの言葉として、お前の歴史の教科書に載っておるぞ」

「その言葉はこうじゃ」

「人類はあの時に選択を間違えて大きな犠牲を負った」

「そのおかげで今のテクノロジーがあるんだよ!」といって叔父は突然、笑い出した。

第一次ワクチンは人口削減と人類のロボットトランスヒューマノイドの実験であった。

コロナコロナスパイクは遺伝子操作によって創られ接種者は抗体依存性免疫増強を引き起こした。

抗体依存性免疫増強によりコロナ毒が人体のキラー細胞などの免疫機能から生き残ろうと自らを変異させた。

接種者は接種後9週目から変異コロナ毒を体から排出するようになった。それでジェノサイドが起きた。

また人体のトランスヒューマン化の為にワクチンに特殊なマイクロチップを混入させた。

マイクロチップは宿主のDNA情報をコード化し宿主をタグ付けしWifiで発信する。

タグ付けされたコードはマイナンバーとして管理された。

個人の資産、健康状態、犯罪歴、免許、資格情報などあらゆる情報が集約された。

Wifiを使ったデバイスと繋がる事で様々な技術革新が起きた。

家の鍵を含むあらゆる鍵を持つ必要が無くなった。

一番、人類に貢献したのが医療であった。欠損したDNA情報を読み取り修復することが第3次接種後にマイクロチップのバージョンアップにより可能となった。

「おまいらは第5次接種でコンピューターに繋がりお互いの意思をテレパシーのように通信する事が出来る」

「わしはロボットになるのはゴメンじゃ。」

「だから接種しないが、その為にカネを持つ事が出来ないので自給自足の生活をよぎなくされているのをお前はわかるじゃろう」

「おまえの所のトマトはギャバが多くて困る」

「よかったら、うちの無農薬農園で育てたトマトを送るよ」

「ありがとう。叔父さん。また電話するね」ヒカルはシノブを待たせている事を思い出し電話を切った。

ヒカルが自動販売機を見つけ出し自販機の前に立つと自販機のモニターにヒカルの名前と小遣い残高が映し出された。

グレープジュースと無糖コーラの購入ボタンを押すとキャッシュレスで自販機から品物が出てきた。

ヒカルは2本のジュースを手に取り急いでシノブの元に向かった。

シノブはゲームセンター入り口に設置してあるベンチにちょこんと座っていた。

「全く遅いんだから何してたのよ」

「ゴメン、ゴメン。なかなか自販機が見つからなくてさ」

ヒカルがグレープジュースを手渡すとシノブが頬ずりをしてきてヒカルの耳に「だーい好き!」と囁いた。

オレンジ色の夕暮れがダイバーシティをだんだんと染めてゆく。

ヒカルはシノブの隣に座わりシノブの肩を引き寄せてこう言った。

「俺もだよ!」

二人が空を見上げると数個の宅配便のドローンが宙をせわしなく舞っていた。


終わり。


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