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俺の進む道  作者: 静
2/8

自由

しばらく馬を走らせていると、目の前に小川が見えた

後ろを振りかえるが追って来る者はいない。


「ふぅ……」


馬から降り、小川に入る。

馬に乗り汗が滲んだ身体も戦いの熱も、すべてが覚めていくようだった。

そして俺はそばに置いていた剣をつかんだ


「殺気が隠せていないぞ」


草むらに向かって声をかける。

さっきから、視線と殺気が飛んできていた。

普段なら気づけなかったかもしれないが


「あの後だからな、熱が冷めきる前に来てくれて助かったよ」


草むらから返答はない。

ここでにらみ合っても仕方がない。仲間がいるとすれば俺が不利になってしまう。

まだ一人分の気配しかない今のうちに決着をつけよう。


「!?」


草むらに向かって駆け出す。

俺は体格の割には動きが速い。

殺気の騎士との戦闘でもそうだったが、並みの人よりは素早く動けるだろう。

草むらに向かって剣を振り下ろし、相手を真っ二つに……


「ん!?」


相手は振り下ろすタイミングに合わせてこちらに向かって転がり込んできた。

体格はかなり小さい


「……くっ!!!」


それでも何とか反応でき、蹴りを入れる。

少し距離ができ、相手をしっかり見ることができた。


「!?」


相手は少女だった。まだ12、3だろう。

奇麗な銀色の髪に、ぼろを纏っている。

持っているのは小さく粗末なナイフだが、先ほどの動き、今もむけられている殺気。


「下手をすれば殺されていたかもな」

「……」


少女となると、少し事象が変わってくる。


「……!?」

「ほら、これで素手だ。どうした殺しに来ないのか?」


俺は剣を地面に捨てると少女にそう話しかけた。

少女は一瞬驚きを見せていたが、次の瞬間地面を蹴って飛び込んできた

こちらが少女を掴もうと手を伸ばした瞬間


「ふっ……」


少女が消えた。

いや、正確には”前転”した。

だが……


「甘いな」

「!?」

「一度見たんだ、二回目がすぐに通じるわけないだろ」


少女は小さい身体を生かし相手の懐に飛び込む

もともと身体能力が高いのだろう飛び込みからの前転が速くて、消えるように錯覚するのだ

俺の体格も相まって奇麗に死角に潜られると全く見えない

その位置からの一撃は躱すのは難しいだろ


「普通の人ならな」


俺はその速度に反応できた

前転している姿も見えたし、予想もしていた

そもそも左右と上はしっかりと見えているのだ。本当に消えていないのなら居るのは下しかない


「少し苦しいが我慢してくれ」

「ぐぅ……」


捕まえた少女を抱きしめ力を籠める

気を付けなければ折れてしまいそうなほど細い体だった

少女はしばらく暴れていたが、腕の中で暴れた後気絶した



「!?」

「おう。起きたか」

「……」

「ナイフならないぞ。流石に取り上げた」

「……」


少女はこちらをにらみ、一言も話さない


「どうして俺を襲ったんだ?」

「……言われた」


小さな声で返事が返ってきた。その声には元気はなく、弱弱しい


「俺を殺せと?俺のことを知ってるやつがいるのか?」

「違う、金を持って来いと」

「親にそう言われたのか?」

「違う……エルに」


どうやら少女には主人がいるようだ。その主人に金を持って来いと言われ、人を襲ったのだという


「親はいないのか?」

「……知らない」


少女は黙ってしまった

なぜだか知らないが、少女を助けてやりたいと思った

自分も同じような立場だったからなのか、かわいそうだと思ったからなのかはわからないが


「お前は今のままでいいのか?」

「……?言ってる意味が分からない」

「今の生活に不満はないのか?自分の好きなように生きてみたいとは思わないか?」

「……わからない。何も。自由って何?好きに生きるって?」

「お前のしたいことをしていいんだ。やりたいことをやって好きなとこに行って、自分のために動く」


少女は下を向いてまた黙ってしまった

物心ついたころから奴隷のように扱われ、この世界でしか生きてこなかったのだろう。そうすると、その生き方しか知らず、自由なんてわからずそのまま死んでいくのだ


「そう考えたら、俺は運がよかったんだなぁ」


俺はただの奴隷ではなく、戦うために頻繁に檻の外に出されていた

檻の外の世界に触れる機会も多かったし、商隊の積み荷の中には書き物や絵巻もあった

盗賊につかまった人から話を聞くことも多かったように感じる

少女は俺の独り言も気にせず、何かを考えているようだった


「とりあえず俺は寝てる。答えが出たらおしえてくれ」


少女がまた襲ってくることも考えられたが、今の彼女にそんな気配はない

そもそもそれで死んでしまうならそこまでなのだろう

そう考えながら横になった



「起こしてくれればよかったんだぞ?」

「それはできない」


朝、目が覚めると少女が横に座っていた


「かなり待っただろうに」

「かまわない」


少女はあっけらかんと言った

その顔は昨日の死にそうなくらい顔とは違っていた


「答えは出たか?」

「出てない」


言葉の割に、どこか明るい顔をしていた


「ならどうするんだ?また俺を襲うか?」

「違う。あなたに導いてほしい」


少女は当然かのように言った


「なぜ俺なんだ?」

「私は何も分からない。だけど自由があると知った。でもどうすればそうなるのか分からない。だからあなたが私を自由にしてほしい。」


どうやら少女は俺のせいで自由を知ってしまった。その責任をとれと言っているのだ


「たしかにそうかもしれない。だが俺だってすべて知ってるわけじゃない。それでもいいのか?」

「いい。いまの私はあなたに従って自由を得たい」


少女にそこまで言われているのだ


「断るわけにはいかないよなぁ」

「……あなたが本当に嫌ならばあきらめる」

「……いや、大丈夫だ。一緒に来てくれるか?」

「はい」


こうして少女と一緒に旅をすることになった


「ところで名前はなんて言うんだ?まだ聞いていなかったな。俺のことはガイルと呼んでくれ」

「名前はない。あなたがつけて。エルにはお前って呼ばれてた」


少女に名前は無いようだった


「……じゃあお前の名前は今日からレアだ」


決していま肉が食べたいからではない


「……レア、……レア」


少女……レアは何度もかみしめるようにつぶやいていた


「レア、とりあえずはどこか町にでも行こうか。腹が減った」

「はい。わかりました」


レアは無表情な顔に少し喜びを滲ませながら、俺についてきた



誤字脱字、意見等あればお願いします。

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