目覚め
叫び声と怒号、うるさい足音で目が覚めた。
「敵が来たぞ!……ありゃ王国騎士団だ!?」
「ざけんな!!なんたってこんなとこに騎士が来るんだよ!!!」
「知るかよ!とにかく村の入り口を固めろ!」
慌てて走り回る男たちを俺は檻の中から眺めていた。
いつからか分からない。物心ついたころからこの盗賊たちに飼われていた。
「さっさと出ろ!ガイル!ぼさっとしてると首を掻き切るぞ!!」
無言で檻から出た。俺の仕事はほとんど力仕事や戦闘だ。
今怒鳴ってきた男よりも体格も背丈もずっと高い。だけどこいつを殺す気はないし逆らう気も湧いてこなかった。
「俺たちは後方で女や食料の護衛をやってるから。お前は敵と戦ってこい!こっちに通したらぶち殺すからな!!」
「……あぁ。わかった」
片手にボロの剣を担ぎ、叫び声と馬の鳴き声のうるさいほうに、向かっていく。
剣はずっと前に襲った商隊の積み荷にあったものだ。とにかくデカくてぶん回すだけで殺せるから気に入っている。
「右翼を押し上げろ!!!」
「奴ら、家の中や屋根の上にまでいるぞ!!」
「相手の装備は粗末だ!!質と装備の差を生かしきれ!!!」
それなりに大きいとはいえ、ただの盗賊と騎士だ。力の差は歴然で目に見えてこちらのほうが殺されてる。
ちょうど押し負けてこけたところに剣を突き立てられ男が絶命しているところについた。
騎士は殺して油断していたのか俺が無造作に振り下ろした剣に反応できず……
「ジーン!!!」
脳天が割れた。誰が見ても即死だろう。
「くそったれ!!!」
「新手か!?」
「ひるむな!!たかが野盗だ!」
騎士は同僚の死を見ても臆せずにくる。やはり騎士になれるだけあって勇気も備えているのだろう。
だが……
「気持ちじゃ剣はふせげないぞ?」
「こいつ!!」
「押し通れ!!」
二人の騎士が飛び込んできたその剣が俺に向かって振り下ろされて……
「そんな見え見えなのが当たるわけないだろ」
半歩後ろに引いて躱した。そのまま切り上げで騎士の左腕が飛んだ。
「がぁぁぁぁ!!」
「このやろう!!!」
もう一人は薙ぎ払うように切りかかってきた。
仮にも騎士が使う剣だ。当たれば鎧も着ていない俺は致命傷だろう。だが……
「力の差が出たな」
「馬鹿な!?」
力だけで生かされているような身だ。騎士と戦ったことはなかったが、負ける気はしなかった。
その証拠に横薙ぎされた騎士の剣は、俺の剣に完全に止められていた。
「じゃあな」
「ぐあぁぁ!!」
騎士を蹴り飛ばし剣を突き立てた。騎士は地面に横たわって痙攣した後、息絶えた。
「右翼突破!!」
「左翼も順調に上がっています」
「このまま半包囲で殲滅してやれ!!!」
俺は何とか勝ったが、全体としては絶望的だ。はじめこそ屋根の上や狭い家の中で戦うことで有利に戦っていたが、質でひっくり返されてすでに一方的な虐殺になっている。
「ぎゃぁぁぁぁぁ」
「来るなぁ!!!!」
後方……盗賊団の頭や幹部たちがいた後方にはいつのまにか騎士たちが回り込んでいた。
勝敗は決まっただろう。
「なら、これ以上ここにいるのもよくないだろうな」
物心ついたころからここで過ごしていたとはいえ、このままここにいていい事になるとは思えない。
だとすればやることは一つだ。
近くには、殺した騎士の馬がいる。乗ったことはないが走って逃げるよりかはましだろう
「これでだめだったら、運がなかったと思おう」
飛び乗り小間の横腹を蹴る。馬はびっくりして勢いよく走りだした
「誰か馬で逃げているぞ!!」
「一人も逃がすな!」
「追え!!!」
戦いを見ていて思ったが騎士たちは弓を持っていない。戦いの中でも使っていないので使わなかったというわけではないのだろう。
「なら、逃げ切れる可能性が出てくるな」
村から抜けたところに2、3人の騎士がいた。
「誰だ!?」
「騎士じゃないぞ!!」
かまっている暇はない。囲まれれば終わりだ。
すれ違いざまに騎士は道をふさごうとして来たが、止まった状態から全力で走っている馬の進路に出るのは難しい。それでも何とか間に合った体格のいい騎士を横切り……
「隊長ぉぉぉ!!!!」
首を飛ばした。
どうやら普通の騎士ではなかったようだが、関係ない。
ただひたすらに馬を走らせ続けた。
俺はこの日、自由を手に入れた
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