会い、逢い、アイ
大学デビューで決めた次の日、僕はボッチになった。
猫背を治して、髪を染め、ピアスを開けて、雑誌に載っている通りのコーディネイトをして、メガネを外した。
そして、知り合いの誰もいない大学を選んで入学した。
が、ここで持ち前の頭の良さが災いして偏差値の高いところに張ったものだから周りはマジメ君ばっかり。工業系なんもんで、女子は見当たらない。
よって、周りから敬遠され後ろ指さされ今に至る。
前のままで入ればよかった。地味な自分を変えたくて心機一転を狙った結果が大外れだ。
どんよりとした僕の気持ちを汲んでか、午前中は晴天だった空に雲が出てきてパラパラと小雨が降ってきた。
朝のニュースでたしか降水確率は30%だったか。外を歩いていた人は駆け足で校舎に向かう。傘を持っている奴は、俺しかいない。
昔から空を見るのが好きで、気象予報図なんかも好きで、いつも独自に解析している。結構当たるもんだから自慢の一つにしているが誰かに教えた事はない。つまり、ボッチは大学生からではなくもっと前からって事だ。
「あれ、傘持ってんの?入れてよ。」
僕の隣に僕以上に明るい毛色がやってきた。これは黄色?ピンク? 二次元でしか見ない色だ。
「ありがとー。ずーっと向こうから走ってたんだけど息切れしちゃって。ちょうど良い休憩所が見つかったもんで。」
顔を上げて気がついた。同じ学部のえーっと名前は、
「あれ?自己紹介の時いたよね。与作君だっけ?」
「与一です。木は切ってません。」
「あーそんな名前だったね。派手だったから覚えたんよ。ちなみに俺の名前分かる?」
「すいません、覚えてないです。」
「えー。俺は覚えていたのに悲しいなぁ。箱口だよ。これでもう覚えたっしょ?」
「そうですね。」
嘘、ほんとは覚えていた。僕みたいに大学デビュー狙っている気負った感じのないナチュラルなモテ系男子。
チャラそうに見えてこの大学受かってんだから天は二物を与えるんだと嘆いた。
僕がなろうとしている目標であり、憧れの存在。まさか向こうからやってくるなんて。
「同じ学部なら次一緒だよな、このまま行こうぜ。」
「お、男と相合傘なんかして楽しくないですよ。僕は走っていきます、このまま貸しますからあとでもらいます。」
つい遠慮して自分から遠ざけてしまった。いつだってそうだ。相手が踏み込んでくると怖気付いて逃げてしまう。それを解決したくて頑張ってるのに、僕って。
「あー相合傘!確かにそうなるねー。この傘でっかいから男2人余裕じゃん。超相合傘用じゃん。いいじゃん。俺、与作君とお話ししたいなって思ってたんだから。」
傘を預けようとした僕の手を掴んで離さない。言葉は軽いが、僕の心には受け止めきれないほどの嬉しさをぶち込んできた。
「与作じゃなくて与一ですって。」
「あだ名だよー。こっちの方が親近感でるっぽくない?」
「好きにしてください。」
「おー。好きにするー。」
好きにすると言った言葉には、手を掴んだままというのも入るらしい。掴まれた手が離されることのないまま会話は続く。
左手で傘を持ち、右手は箱口の左手と。右に立つ箱口のために左手を体の前で交差させている。側から見れば滑稽な傘の差し方だが、雨で人影は無い。
神さま、天は二物を与えずって嘘じゃん。って嘆いてごめんなさい。
できるならこの瞬間をもう少しだけ続けさせてください。
僕に初めての〇〇ができるかもしれません。