幼きシルヴィ
シルヴィは、動物が好きだ。
生まれ育った北部の村では、自然が特に身近なものだった。家は質素な作りだったので、板戸の隙間からはヤモリが入り込み、井戸から汲んだ水には虫が浮いていた。
それを、庭とも草地とも言えるところに放してやると、ヤモリはちらちらと後ろを振り向き、虫は草の下を這っていく。
彼らは、たまたま自分たちの住居に迷いこんだだけで、勝手に命を奪う権限は自分にはないということをシルヴィは自覚しており、また集落でもそのような考えのもとで皆が自然と共存していた。
しかし、鹿や鳥、うさぎ達は、ヤモリなどと比べると遥かに大きいのに、それらは自分たちの食料として命を奪われていくのだ。
仕方ないのだ、と首長たちは言った。そして、父も同じように山で獣を撃つ。虫を小動物が食べ、鹿などがさらに捕食する、その流れのなかで自分たちも生きている。
子供心に罪悪感と感謝を抱き暮らしていたシルヴィだったが、産業化の波が少しずつ押し寄せ、人は次第に利便性の高い地域へ移り住んでいった。
多数の人に倣うように居を移したシルヴィたちは、移住先で体系的な教育と出会った。そこで教えられたことは、読み書きのほか、思想であった。
とりわけ、弱者である動物は、捕食や利用されるために存在しているという教えに、シルヴィは雷に打たれたような衝撃を受け、同時に何かしらの納得も感じられた。
動物を撃ち、食することに罪悪を感じないで良いのなら、自分をこれ以上苛む必要はない。
人並み以上に動物と密に接し、またわざわざ自覚するまでもない愛情を自分以外の獣にまで与えていたいたいけな少女には、それが正当性のあるものか、自己防衛による盲信なのか、残念ながら区別は付いていないのだった。
そしてまた、シルヴィは男女の違いも思い知らされた。
知識力では、むしろ繊細で勤勉なシルヴィのほうが上流階級の男子よりはるかに勝っていた。
しかしそれを地域や、さらには国のために生かそうと奮闘すればするほど、性差を理由に陥れる輩が増える理不尽さは、シルヴィには到底理解できなかった。
そんな折りに出会った男性は、金髪で柔和、ともすれば軟弱にも見える容貌とは裏腹に、心根はしっかりしており、シルヴィの向上心や信念の支えとなる人であった。
同じ志を持つ者として尊敬の対象から生涯の伴侶へと望んだ彼は、皮肉なことに、添い遂げる相手に異性を望まない人でもあった。