アメデオの回想
15歳のとき、北部から同い年のやつが引っ越してきた。
それがジェルヴェだった。
当時、北部の州というのは辺境という印象しかなく、教会で地理を勉強したときに、山が多く昔から山岳民族が住んでいる、というのはかろうじて覚えていたので、ゴツいやつが来るんだろうと思っていた。
俺はまだひょろひょろのガキだったが、同い年にしては骨ばった顔や体をしたジェルヴェが無言でうちの工房に入ってきた時は、予想が見事に当たり、ちょっと笑ってしまった記憶がある。そして、笑った俺を見てジェルヴェも笑ったんだ。にやっとな。
その時、ああこいつとは気が合いそうだ、と直感したが、どうやらうちの鍛冶工房に用事があったのは父親のほうだったらしい。同じように体格の良いジェルヴェの親父さんは、猟銃は見れるかと聞いてきた。
なんだ、本当に山岳民族か、と思った。
うちは祖父が銃に詳しく、父は剣や刃物を主に作っている。
その日のうちに工房で猟銃を預り、次の日にはジェルヴェと親父さんは、礼だと言って料理を持ってきてくれた。
それから、週末はうちの親父がジェルヴェの父さんと猟にいき、夜は店で酒を飲む、というように、あっという間に家族ぐるみの付き合いとなった。
俺の母親は早くに病死したから、ジェルヴェの母さんの料理がおふくろの味のようで、懐かしくも気はずかしかった。そしてきょうだいのいない俺には、シルヴィは妹のように可愛くて、変な話だけどジェルヴェはまるで兄のようだった。
ジェルヴェが住んでいたのは北部のとある地区だが、今は中央州に組み込まれている。
なぜそこから移住したのかと聞いたら、さあ、とジェルヴェは答えた。うちのじいさんは、北の州に武具を卸していた時があり、その頃に猟銃について北の民族から教えてもらったらしいが、中央州ができる頃に行き来は途絶えていた。
工房でじいさんが、もう駄目だな、と一言呟いたのを、聞いたことがある。
俺はその頃、政府が新しく作った学校へ通う話が出ていて、父親はすごく乗り気で、製鉄の知識と学問があればいずれは中央州へ働きに行けるかもしれないと言っていたが、俺は地元で仕事をしたいと思っていたし、何より友達と離れるのが嫌だったんだ。
家業を手伝うジェルヴェとは、暇な時間は大抵一緒だった。はっきりいって俺の方が見た目は良かったし、今も勝ってる。だがジェルヴェのあまり語らないが面倒見の良いところは女たちに人気で、2つ上の美人な印刷屋の娘も、ジェルヴェに告白したいからと俺に仲介を頼んできた。
俺は断った。誰かの手を借りなきゃ伝えられないような気持ちが、ジェルヴェに届くわけないだろう、と。それに、当時あいつは違う女と付き合っていたんだ。だからまあ、冗談半分で俺は付け足した。俺ならフリーだけどな、って。今対面で告白されたら、あんたを好きになる、って。
実際見た目はすごく好みで、ちょっと気が強そうな性格はもっと好みだった。
そうしたら、いいわよ、ってな。
付き合って頂戴ってさ。
そのあと?
2年くらい経って、じいさんと親父から本格的に仕事を教わり成人したタイミングで結婚したよ。
その頃、ジェルヴェの親父さんが亡くなって、うちの親父達もえらい落ち込み、俺達も新婚らしくない慌ただしさが続いたけど、2年後にはコンチェッタが生まれた。いやあ、幸せだったな。
物心つく前に子供と離しちゃったのは、悪かったと思ってるけどな。
まあ、俺にも色々あるんだよ。