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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女は貴族令嬢と再会する

 買い取ってもらえなかった魔石バイクに、イングリットとエルは跨がって王都の街を走る。


 道行く人々は、初めて見る魔石バイクに興味津々といった視線を向けていた。

 食いつきは、悪くない。それどころか、詳細を聞こうとしているのか、走って追いかけてくる者もいた。

 何か聞かれても答えられないので、今は気付かなかった振りをする。


 王都のシャモア通り三番地――そこは、貴族のタウンハウスが多く並ぶ通りだ。


「緑色の屋根に、赤いレンガの家が、シャーロットの家なの」


 シャーロットというのは、エルが王都に来る途中に客船で出会った美少女である。

 彼女の両親は工場をいくつも持っており、製品化した魔技巧品を生産していると話していた。


 エルの目的は、シャーロットの父親に頼んで、魔石バイクの大量生産をしてもらうこと。


「しかし、相手にしてもらえるのか」

「もしものときは、お祖父さんの名前を出す」

「おうおう。エルサン、強気だな」

「だって、イングリットの魔石バイクはとってもすばらしいものだから。たくさん普及させて、嫌がらせをしているジェラルド・ノイマーに、ギャフンと言わせるのが目標」


 その言葉は茶化さずに、「そうだな」と神妙な声色で返していた。


 あっという間に、シャーロットの屋敷にたどり着く。

 改めて、外套の頭巾をしっかり被った。

 エルは街中で危険視されている『魔女』で、イングリットは『ダークエルフ』だから。


 改めて、屋敷を見上げる。


「さすが、魔技巧品工場を経営しているだけあるな。屋敷もその辺の貴族の家よりデカい」

「うん、そうだね」


 魔石バイクを降りて、守衛所へ近づくと、胡乱な目で見られる。

 エルの代わりに、イングリットが話をしてくれた。


「悪い。シャーロットお嬢様の知り合いのエルを連れてきた。面会できないだろうか?」

「シャーロットお嬢様のお知り合いのエル――ああ、お聞きしております」


 すでに、話をしていてくれたらしい。門を開いて、守衛所で待機していたメイドが案内してくれる。


 屋敷の外観もたいそうなものだったが、庭も果ては見えないほど壮大だ。

 中でも、澄んだ水が天へと跳ねる見事な噴水があった。


「お、魔石噴水だ」

「魔石噴水って?」

「川の汚染された水を、飲料にできるようになるまで浄化できる装置だよ」

「王都には、便利なものが普及しているんだね」

「まあな。結構、川の水を飲んで腹を壊す人も多かったみたいだな」

「そうなんだ」


 王都の川は、生活排水などで汚れているのだという。


「運が悪ければ、川の水を飲んで病気になって、死ぬ人も多かったみたいだな」

「うん。汚染されていない森の川でも、飲んだらいけないって言われていた」


 いくら川がきれいに見えても、森に生きる生き物の糞尿に、魔物の死骸などが溶け込んでいる可能性があるからだという。口にしたら、感染症にかかるかもしれないとモーリッツが話をしていた。


「だったら、この魔石噴水は、画期的な発明だったんだ」

「そうだな。王都で初めての、大型浄化処理を行える魔技巧品だよ」

「イングリット、詳しいね」

「発明したのは、私だからな」

「そうなんだ! すごい!」

「でも、著作権はジェラルドにあるから、どれだけ売れたとしても、私の懐には銅貨一枚さえ入らないのさ」

「そっか」


 いらぬことを聞いてしまったかもしれない。エルがしょんぼりしていると、イングリットはエルの頭をがしがし撫でた。


「もう、気にしちゃいないさ」

「でも……酷い」

「今から、儲け話をしに行くんだろう? そのことだけを、考えよう」

「うん」


 自然と、エルとイングリットは手を繋いで、玄関口を目指した。


 玄関口は両開きの立派な扉だった。シャーロットの知り合いということで、恭しく出迎えられる。

 そのまままっすぐ客間へと通された。待つこと十分でシャーロットがやってくる。


「――エル!!」


 扉が開いた途端、シャーロットが駆け寄ってきた。ぎゅっと、エルを抱きしめる。


「エル!! わたくし、ずっと待っていたのに、どうしてすぐに来てくれなかったの?」

「ごめんなさい。ちょっと、忙しくて。その、いろいろ、騒ぎがあったでしょう?」


 シャーロットはエルから離れ、じっと見つめる。


「もしかして、魔女の噂のこと?」

「そう」


 東の森に棲む魔女が、黒斑病を広めた。王女の姿に化けて、人々が倒れる様子を楽しんでいるという。そんなデタラメな話が、王都に広がっているのだ。


「エルが、黒斑病を広げた魔女なわけないのに。そうだったら、今ごろ、わたくしは黒斑病になって倒れているはずだわ」

「うん……」

「わたくしは、エルを信じているから」

「シャーロット、ありがとう」


 エルが感謝の気持ちを伝えると、シャーロットはにっこりと微笑んだ。


「それはそうと、そっちの女性はどなたなの?」

「彼女は、イングリット。私が、世界で一番信用している人……かな」


 思いがけない紹介だったのだろう。イングリットは、褐色の肌をほんのり赤く染めている。


「イングリットは、ダークエルフなの」

「ダ、ダークエルフですって!?」


 シャーロットの青い瞳が、極限まで開かれた。

 この反応が、普通なのだろう。


「でも、悪いダークエルフじゃないから」

「え、ええ。そうね」


 シャーロットはエルの対面に位置する場所に腰掛け、本題へと移るよう促す。


「それでエル、どうかしたの? 遊びに来たわけではないでしょう?」

「うん。シャーロットに、魔石バイクを紹介しようと思って」

 

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