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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女はダークエルフに提案する

「たぶんね、魔力の消費が激しいのは、安全のための魔法を常時展開させているからだと思う。それをどうにかしたら、大丈夫かも」

「でも、常時展開させていないと、危険だろう?」

「うん。だけれど、それだと魔力の消費が激しくて、誰も魔石バイクを維持できないと思う」

「あー、そっか。言われてみたら、そうだな」


 イングリットとエルが目指すのは、魔石バイクの普及である。

 いつか冒険にも魔石バイクを、と言われるくらいにまで売るのが目標だ。


「しかし、どの魔法も、外せないんだよな。やっぱり、馬車や魔石車と違って、魔石バイクは剥き出しの身で乗るものだから。エル、何かいい着想はあるか?」

「うーん」


 魔石バイクの前で、エルは腕を組んで考える。

 魔法を少なくしたり、効果を縮小したりすることはできない。魔力の容量の多い魔石にしたり、魔石の数を増やしたりするのもダメ。


「危険なときだけ、魔法が展開されるのは、どうだろう?」

「ああ、なるほど。危険察知の魔法であれば、そこまで魔力の消費は多くないな」

「でしょう?」


 イングリットとエルは、石で地面に魔法陣を描く。ああではない、こうではないと話し合い、魔石バイク用の危険察知魔法を編み出した。

 完成した魔法を、魔石バイクに搭載させる。


「よし、と。これでいいな」


 イングリットは再び魔石バイクに跨がり、取っ手を握る。加速装置を捻ると動き始める。

 わざと魔石バイクを傾かせたら、魔法が発動して支えてくれた。危険察知の魔法も、きちんと機能しているようだ。


 ブオン!! と大きな音を鳴らし、魔石バイクは動き始めた。

 ゆるゆるとした動きから、だんだん速さを上げていく。

 噴水の回りをくるくる走り、薔薇が咲いた小道をどんどん進んでいく。

 目にも留まらぬ速さで駆け抜け、エルのもとへと戻ってきた。


「エル、どうだ?」

「すごい! 風みたいに、ぴゅーっと走れるんだね!」

「ああ、気持ちよかった」


 その感想を聞いたら、エルも乗りたくなってきた。イングリットは「エルも乗ってみるといい」と誘ってくれたが、一人で乗るのは少し怖い。


「ねえ、イングリット、後ろに、乗ってもいい?」

「もちろんだ」


 ネージュは危ないと制したが、転倒したとしても結界が展開される。怪我をすることはないのだ。なんとか説得して、魔石バイクに横乗りになる。

 イングリットにぎゅっと抱きつき、ドキドキしながら動くのを待った。


「じゃあ、動かすからな」

「うん、お願い」


 魔石バイクは、再び走り出す。最初はゆっくりだったが、しだいに加速していった。

 風を全身に感じながら、魔石バイクは走る。


「エル、どうだ?」

「風が、心地いい!」


 屋根のない馬車に乗ったことはあるが、ガタガタと揺れ、シートは固く乗り心地はよくなかった。けれど、魔石バイクは乗り心地が最高だ。


「イングリット、これ、すっごく売れると思う!」

「だといいな!」


 大迷宮で材料を集め、キャロルからもらった素材で完成した魔石バイクを、エルとイングリットは試作品一号とし、大事にしようと誓い合った。


 ◇◇◇


 魔石バイクの試乗を重ね、改良を施した二台目の魔石バイクを発注者へ納品することとなった。

 かなりの自信作で、足取り軽く魔石バイクを運んだのだが、思いがけない事態に遭ってしまう。


 魔石バイクの発注をしていた商会から、注文を取り消したいと言われてしまったのだ。


「なっ……どうして!?」

「いや、その、一人乗り用の魔石車の金額と同じ値段で、魔石車を売ってくれるという話があったもので」


 イングリットの手に、発注書が押し返される。

 店の前に、ピカピカの魔石車が停まっていた。聞けば、その魔石車を安価で買い取ったらしい。

 魔石車は、魔石バイクの五倍の値段だ。魔石バイク一台の値段で買えることなど、ありえない。


「すまないね。話はなかったことにしてもらうよ」


 その一言で、追い出されてしまった。

 イングリットは、発注書を握りつぶす。


「あいつだ。ジェラルド・ノイマーが、私の商売の妨害をしたんだ。そうに違いない!」

「イングリット……」


 ジェラルド・ノイマーというのは、イングリットを騙して大儲けした魔技工士である。

 商会から、イングリットの魔石バイクを買い取る話を聞いて、魔石車を安価で売ったのだろう。


「前に、エルが言っていたな。契約書は、大事だと」

「う、うん」

「その通りだった。きちんと契約を結んでいないから、こういうことになるんだ」


 イングリットは悔しいと呟く。発注書を握る拳は、ブルブルと震えていた。

 エルはその手に、自らの指先を添える。


「イングリット、わたし、この魔石バイクを、王都一の魔技巧品だと思っているの」

「エル……ありがとうな」


 イングリットはその言葉を、ただの慰めの言葉だと思っていたようだ。

 しかし、エルはそういうつもりで言ったのではない。


「これから、魔石バイクを、国中の人が使えるように、普及させたい」

「エル……国中はちょっと」

「前に、約束したでしょう? たくさんの人が、イングリットの魔技巧品を使えるようにしようって」

「ああ、そうだったな」


 イングリットは苦笑していた。けれど、エルは本気である。


「イングリット、付いてきて。今から、魔石バイクを、見せに行こう」

「どこに?」


 エルが指差したのは、貴族の邸宅が多く並ぶシャモア通りの三番地であった。

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