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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女は家族を知る

 フォースターと血縁関係であることが明らかとなったが、二人の生活は驚くほど変わらなかった。

 フォースターはいつも通り胡散臭くて、エルは心を開いていない。

 血が繋がっているからといって、いきなり家族になれるわけではないのだ。

 逆に、血が繋がっていないフーゴのほうが、本当の家族だった。

 エルは気付く。共に支え合い、慈しみ合い、何年も何年も共同生活を送れる者こそ、本当の家族になるのだろうと。


 フォースターの他にも、エルには血縁関係にある者達がいる。

 父親である国王と、双子の片割れである姉。

 その二人に関しては、まったくの無関心であった。これからも、その認識は変わらないだろう。


 エルは紅茶を飲みながら、イングリットにぽつりと零す。


「わたしに家族がいるとわかった瞬間、もっと、感激するものだと思っていた」

「まあ、十二年も離れて暮らしていたら、感動は薄いだろうな。相手はあの、フォースター公爵でもあるし」


 イングリットの言葉に、エルは深く頷く。

 けれど、飄々としていて、相手に隙を見せなかったフォースターの涙はなかなか衝撃的だった。



「お祖父さんの涙なんて、とっくに枯れていると思っていた」

「キャロルの言葉を借りたら、『人の心を持っているとは思えない生きる伝説、生きる残酷、恋人達の敵、フォースター公爵』、だもんな」

「笑っちゃうよね」


 もっと、優しくしないといけない。けれど、心のどこかで、優しくできない気持ちがあった。

 フォースターはフーゴを利用し、挙げ句、冤罪で処刑されるのを防いでくれなかった。

 彼の顔を見るたびに、無念の思いを抱えたまま死んでしまった父親を思い出してしまうようになったのだ。


「お父さんは、自分の子どもじゃないのに、なんで育てなければいけないんだろうとか、思わなかったのかな? そもそも、わたしがいなかったら、お父さんは、もっと長生きできていたのに……」

「エル、過ぎてしまったことを、いろいろ言ってもしかたがない」

「でも――」


 自分の子どもでもないエルを連れ出し、長い間森暮らしをしていた。

 貴族の生まれで、生活能力がないのに、娯楽も何もない場所でエルをのびのび育ててくれたのだ。


「エルを見ていたら、分かるんだ。親父さんと、先生が、エルを、愛情いっぱいに育ててくれたんだろうなって」

「どうして、わかるの?」

「エルが真面目で、素直で、可愛く育っているからだよ」


 エルの中に、フーゴの愛情がある。それを、否定してはいけない。


「お父さんに感謝したいのに、もう、できない」

「エルが明るく元気に生きることが、親孝行なんだよ」

「うん」


 イングリットはエルの頭を、ぐちゃぐちゃと力を込めて撫でる。

 その撫で方はフーゴそっくりで、エルはちょっぴり泣いてしまった。


 ◇◇◇


 キャロルからもらった特殊塗料を用いて、イングリットは魔石バイクを完成させる。


「エル、どうだ?」

「すごい……!」


 魔石バイクは、エルが思っていたよりも大型だった。

 馬とまでは言わないが、牛くらいの大きさがある。

 牛の角のように反った持ち手に、動力源となる呪文が刻まれた発動機、二人が座れそうなほどの座席、車体を支える二つの大きな車輪。

 馬車や魔石車と異なり、剥き出しの状態で運転するようだ。


「馬車や魔石車と違って、小回りが利くのさ」

「へえ、そうなんだ。ちょっと、怖いかも」

「そうだと思って、一応、安全装置にも、こだわってみたんだ」


 魔石バイク専用の帽子と外套を作り、もしも転倒したときに怪我から守ってくれる魔法を施している。他にも、衝撃感知魔法を仕掛け、前方より急接近する物があれば緊急回避を自動で行うようだ。


「試乗はしたの?」

「これからだ」


 今から、フォースター家の庭で行うという。

 ネージュと共に庭に出て、見学させてもらう。

 魔石バイクに跨がるイングリットを見て、ネージュがボソリと呟いた。


『剥き出しの身で乗るなんて、危険ではありませんの?』

「いろいろ、魔法で安全の対策をしているみたい」

『それでも、恐ろしいですわ』


 ネージュの言葉に、エルは深々と頷いた。


「よーし、エル、今から起動させてみるからな!!」

「うん!」


 エルはイングリットに手を振り返す。

 呪文を刻んだ鍵を、魔法陣で囲んだ鍵穴に差し込んだ。さすれば、魔石バイクに刻まれた魔法が発動する。

 表面に刻んだ魔法が真っ赤に光った。


「おお!」

『カッコイイですわ!』


 イングリットが取っ手を握ると、ブオオオン! と音が鳴った。そして、加速装置を捻って魔石バイクを動かそうとしたが――突然、魔石バイクの光が消えた。


「え、これ、どうしたんだ!?」


 エルは近づき、イングリットに指摘する。


「イングリット、魔力が切れたのでは?」

「なっ!?」


 動力源となる魔石を調べてみたら、見事に魔力切れになっていた。


「起動させただけなのに、どうして!?」

「安全装置が常に展開されているから、魔力を大量に消費するんだと思う」

「な、なんだと!?」


 エルの作った質の高い魔石でさえ、起動させただけで魔力切れとなってしまった。

 これでは、日常使いは難しい。


「ここまで作って、まさか、失敗作だとは……!」

「待って、イングリット。諦めるのは早い」


 エルは魔石バイク改良の提案をしてみる。

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