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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女は公爵に問いかける

 フォースターは最初から、エルが孫であることを、知っていたのかもしれない。

 だとしたら、どうして今まで知らない振りをしていたのか。

 聞き出すのは、正直に言えば恐ろしい。一人では、絶対に聞けなかっただろう。

 けれど今は、イングリットがいる。「フォースターから話を聞くべきだ」と言わんばかりに、強く手を引いてくれていた。

 それが、どれだけ心強いか。正しい道へ導いてくれるイングリットの存在に、エルは救われていた。


 フォースターの執務室の前には、侍従が立っていた。

 エルの存在に気付くと、姿勢を低くして問いかける。


「ご主人様に、ご用でしょうか?」

「う、うん」

「かしこまりました。しばし、こちらでお待ちください」

「わかった」


 エルのほうからフォースターへ話しをしに行くのは、初めてだった。ドキドキしながら、廊下で待つ。

 三十秒と待たずに、侍従が戻ってきた。「どうぞ」と、手で示してくれる。


 一歩、部屋に入ると、執務机につき、サラサラとペンを走らせているフォースターの姿が見えた。

 ドキンと、胸が大きく跳ねる。

 もしかして、忙しい時間にやってきて、仕事を邪魔してしまったのではないか。

 内心、冷や汗たらたらであった。

 しかし、フォースターはすぐに顔を上げ、にっこり微笑んでくれる。


「珍しいね。君のほうから、私に会いにきてくれるなんて。嬉しいから、記念日にしようか。エルが初めて、私の部屋に来てくれたすばらしき日だ。記念品スーベニアも、作らせよう」


 エルが反応を示さずとも、フォースターはペラペラと喋り続ける。

 緊張しつつやってきたのに、脱力しそうになってしまった。


「それで、何用かね?」

「話、長くなると思う。平気? 忙しくない?」

「君の用事以上に、大事なことはないよ。隣の部屋へ移ろうか。インク臭い部屋で、君と過ごしたくない」


 フォースターは立ち上がり、続き部屋となっている隣へ誘う。そこは、フォースターの私室のようだった。


「ここはね、掃除をする使用人と侍従以外、誰も入れていない部屋なんだよ。初めての客人だ」

「私も、入っていいのか?」


 イングリットは気まずげに質問する。


「もちろんだ。エルが、大事に思っている人だからね。私も同じように、尊重したい」

「だったら、遠慮なく」


 フォースターの私室はそこまで広くない。毛足の長いふかふかの絨毯に、淡い陽光が差し込む窓、落ち着いた色合いの家具が並んだ、温もりを感じる内装である。

 絢爛豪華なフォースター公爵家当主の私室とは思えない、シンプルな部屋だった。 


「エル、私の部屋はどうだね?」

「なんていうか、無駄なものが何一つない感じ」

「そうなんだ。ごちゃごちゃした装飾は、ときに精神を疲弊させるからね」

「それは、なんだかわかるかも」


 エルはフォースター公爵家の部屋よりも、イングリットと住んでいた部屋のほうが落ち着く。貴族の家の内装は、フォースターの言葉を借りるならば「ごちゃごちゃ」なのだ。


 侍従が紅茶と菓子を運んでくる。せっかく持ってきてくれたのだが、胸がいっぱいで口を付ける気にはならなかった。

 今、心の中で燻っている問題を解決しない限り、好物であっても喉を通さないだろう。


「話を、始めてもいい?」

「どうぞ」


 エルは息を大きく吸い込んで、深くはきだす。

 イングリットが奮い立たせてくれるように、背中を撫でてくれた。

 大丈夫と自らに言い聞かせ、口を開く。


「おじいさんは、わたしのことを、知って・・・いたの?」

「はて。それは、どういう意味かな?」


 フォースターは笑顔を崩さずに、エルに問いかける。

 狐ジジイは、簡単に尻尾を出してくれないらしい。


 遠回しな質問で、相手のほうから話をさせる方法は通用しないのだろう。

 真実を織り交ぜつつ質問した。


「わたしとおじいさんが、血縁関係にあるってことを、知っていたのか聞きたかったの」


 フォースターから、初めて笑顔が消えた。 

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