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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第一部 少女はダークエルフと出会う
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少女と猫は奇跡の救世主を目の当たりにする

 そこからのエルとヨヨの旅の道のりは、衝撃の連続だった。

 魔物に襲われ、肉喰い大蜂の大群に出くわし、沼に落ちてしまう。

 すべて、魔石を使って解決させた。

 雷の魔石で魔物を脳天から貫き、肉喰い大蜂は嵐の魔石で追い払い、沼に落ちた際は大量の水で沼を払って脱出した。

 昼頃に村へと到着する予定だったが、いろいろな出来事に出くわしたためにそれも叶わず。


 やっとのことで森を抜け、平原に出てくる。そこからひたすら歩いた。


 結局、エルの記憶の中にあった村に辿り着いたのは、夕暮れ時。

 ポツポツと家が並び、煮炊きをする煙も上がっていた。

 エルの近くにあった村よりも、規模はいくぶんか大きいようだ。


「村だ……!」


 元気を振り絞って走っていこうとしたその時、異様な集団を目にする。

 全身黒尽くめで、頭部に鳥のような仮面を被った者達が列を成していたのだ。

 手には鳥籠と、大きな鞄を持っている。


「ねえ、ヨヨ。あれ、何?」

『鳥仮面?』

「それは、見ればわかる」


 ゾッとしてしまい、この場から身動きを取ることができない。


『エル、どうする? ここの村は止めておく?』

「でも、ここを通り過ぎたら、次の村は三日歩いた先にしかないし」

『でも、さっきの鳥仮面、不気味だよ』

「何かの、お祭りかもしれない」


 世界各国には不思議な祭りが多々ある。牛と戦ったり、トマトをぶちまけたり、暗闇の中を走ったり。

 あの黒い鳥仮面も、ここの村の祭りの儀式である可能性があるのだ。


「様子を見に行こう」

『ええ、ヤダなあ。近づかないほうがいいと思うけれど』


 ヨヨの心配症が発動したが、エルは無視して先へと進む。

 村に辿り着いた時には、太陽が完全に沈んでいた。村の家のほとんどは、灯りが点いていなかった。


『火の魔石を買えないほど、貧しい村なのかもしれないね』

「うん」


 ガラス窓のない木造の家は年季が入っていて、強い風が吹いたら倒れそうに見える。

 もう、村人たちは眠っているのか。

 太陽が沈むのと同時に一日を終える村がある、というのは本で読んだことがあった。そのため、そこまで驚かない。


『ここも、商店とか宿はないみたいだね』

「そうだね」


 人の気配など感じられないのではないかと思っていたが、村の広場にぼんやりと灯りが点っているのに気づいた。

 気配を殺し、ゆっくり、ゆっくりと近づいていく。

 積み上がっていた木箱に体を隠し、そっと覗き込む。

 そこには、先ほど見かけた黒衣こくいの鳥仮面と村人が集まっていた。


「な、何をして──!」


 エルはハッとなる。村人の異変に気づいたのだ。

 村人の頰には大きな斑点があり、首筋には大きなこぶができていた。それは、黒斑病の症状である。

 黒斑病はこの小さな村でも脅威をふるっていたようだ。


 今から何を行うのか。エルは固唾を呑んで見つめる。

 村人は鳥仮面に平伏し、祈りを捧げるように手と手を合わせていた。

 鳥仮面は村で歓迎された存在のようだ。


「もしかして、鳥仮面は医者?」

『黒斑病の治療にきたってこと?』


 本で見た医者の姿とまったく異なる。あのように、鳥仮面を被った医者など見たことがない。

 エルは首を傾げながらも、今から行うであろう治療の瞬間を待つ。


 村人は広げられた敷物に横たわった。続いて鳥仮面が行動を起こす。

 鳥籠からハトを取り出し、尾をむしり始めたのだ。


「えっ、あれは?

『夕食の準備、ではないよね?』

「あれは土バトだから、食用ではないと思うけれど……。この辺では食べるのかも?」

『う~ん』


 鳥仮面は思いがけない行動に出た。尾が剝き出しになったハトの肉を、村人の腫れたこぶへと当てたのだ。

 まだ生きているハトはジタバタと暴れている。だが、鳥仮面が首をぎゅっと握ったからか、「ポーッ!!」という鳴き声を上げ、息絶えたようだ。

 すると、他の鳥仮面が拍手を始める。横たわっていた村人の家族が駆け寄って、何度も会釈をしていた。そして、革袋に入った金らしきものを鳥仮面に差し出している。


『え、今ので黒斑病が治ったってこと?』

「ありえない。あんなもので、黒斑病が治るわけがないのに」


 二人目の患者を診察する素振りを見せ、再び敷物に横たわらせる。今度は、怪しい壺を取り出して患部に塗っていた。そのあと、何かの呪文のようなものを読み上げる。


「あれは、古代語? よく、聞こえないのだけれど」

『待って、聞いてみる。え~っと、「ツユクサは、生のままサラダにしたらおいしい……」って言っている』

「何それ」

『古代人の豆知識? 適当に選んだ古代語を、それっぽく読んでいるだけみたい』


 呪文を読み上げたあと、鳥仮面は村人の手足を摑んで拘束した。

 何をするのかと思っていたら、まさかの行動に出る。腫れたこぶに、熱したナイフを入れたのだ。


「ギャアアアアアアアア!!!!」


 凄まじい叫びが、静かな村に響き渡る。患部に布を押し付け、再び呪文を唱え始めた。


「ヨヨ、なんて言っている?」

『う~ん。「明日晴れたらピクニックに行きたいな」、だって』

「ただの古代人の日記じゃん」

『そうだね』


 鳥仮面は医者ではない。適当な治療を行い、村人から金をせしめる悪人だ。

 しかし、エルは彼らを糾弾することなどできない。

 もしも彼らの治療行為を止めに行っても、見ず知らずの子どもの言うことなど信じないだろうから。


 その後も、ハトの鳴き声と村人の叫びが交互に響き渡る。

 エルは耳を塞ぎ、歯を食いしばった。

 何も見ない、聞きたくもない。そんなことをしていたので、背後から近づく気配に気づかなかったのだ。


「お嬢ちゃん、どうしたんだい?」

「!」


 声をかけてきたのは、六十代くらいの老齢の男性だ。片手にランタンを持ち、心配そうにエルを見つめている。


「ああ、あれを見てしまったんだね。恐れることはない。あれは、救世主様だ」

「救世主?」

「そうだよ。今、各地で流行っている死の病を、鎮めて歩いているらしい。やっと、ここの村にも来てくれたんだ」

「……」


 あんなの、救世主でもなんでもない。ただの詐欺師だ。そんな言葉が喉まで出かかっていたが、口に出さなかった。どうせ、子どもの戯言ざれごとだと思われてしまう。エルは自分自身が他人にどう見えているのか、しっかり把握していた。


「お嬢ちゃんは、うちの村の子ではないね。どこから来たんだ?」

「……ここの村に、知り合いを訪ねてきたのだけれど、亡くなっていて」


 咄嗟とっさに考えた嘘である。声が震えたのでバレてしまうのではと思った。けれど、老人は信じたようだ。


「そうか。それは可哀想に」

「ここには、宿もないようで」

「ああ、だからそんなところにいたんだね」


 エルはコクリと頷いた。


「寒いだろう。どれ、うちにおいで」


 エルはヨヨを見る。

 ヨヨは問題ないとばかりに、コクリと頷いた。悪意などなしに、純粋な好意で誘っているようだ。


「いいの?」

「ああ、いいよ」


 エルは老人の好意に甘えることにした。


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