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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女は公爵としょうもない話をする

 イングリットはやっとのことで家に足を踏み入れる。あまり、長居はできない。騎士隊も、すぐに戻ってくるだろう。

 イングリットが走って部屋に行こうとした瞬間、エルは引き留めた。


「イングリット、これ、使って!」


 エルが差し出したのは、魔法鞄である。中身は空にしておいた。

 イングリットの大事なものは、魔石バイクの設計図だけではないだろう。


「必要なもの、ぜんぶ詰めていいから」

「エル、ありがとう。でもこれ、おじいさんから貰った、大事なものなんだろう?」

「いいから! 少しだけ、貸してあげる!」

「感謝する!」


 イングリットはエルから魔法鞄を受け取り、走って二階まで上がっていった。

 エルの私物は、すべて魔法鞄の中に詰めてあった。そのため、この家の中に必要な品はない。


 結界の解除が成功して、本当によかった。改めて、胸をなで下ろしていたら、背後にいたフォースターより話しかけられる。


「おじいさんとは、誰だね?」

「え?」

「君に、おじいさんがいたのか?」

「お父さんがいるんだから、おじいさんだっているよ」

「どこの誰なんだ! おじいさんとしての気持ちならば、負けていないぞ!」


 意味のわからないことを言っている。エルは「はあ」と盛大なため息をつき、呆れた振りをしていた。

 というのも、理由がある。

 エルの“おじいさん”は、モーリッツだ。フォースターの親友でもある。

 まだ、エルは心からフォースターを信用したわけではない。すべてを、話すつもりはなかった。


「どっちのおじいさんが、好きなのかね?」

「バカなことを言わないで」

「私は真剣なのだよ! 私のほうがね、君を、幸せにできるんだ」


 はー、はー、はーと、フォースターの息遣いが荒くなる。

 ヨヨを連れてくればよかったと、エルは後悔していた。


「それ以上わたしに近づいたら、絶交するから」

「ぜ、絶交だと!? そ、そんなの、できるわけがない。君は、追われているのだろう? 行き先なんて、他に、ないはずだ」


 なぜ、ここまでフォースターに好かれているのか、エルにはわからない。

 ただひとつだけわかるのは、本当の孫だとわかったら、今まで以上に遠慮なく好かれるだろう、ということ。

 絶対に、口にできる情報ではない。


「う、嘘でもいいんだ。私のほうが、好きだと言ってくれ!」

「嘘でいいんだ」

「いいっ!!」


 あまりにもキッパリ言い切ったので、エルは笑ってしまった。


「ああ……大天使……!」


 フォースターは床に膝を突き、胸を押さえている。笑っただけでこんなにも喜ぶなんて、面白い人だ。エルは、しみじみ思ってしまう。

 しかたないので、嘘の“好き”を言ってあげることにした。


「嘘だけど、私は、フォースターおじいさんが、一番好きだよ。嘘だけど」


 念のため、二回嘘だと言っておく。それでも、フォースターは嬉しかったようだ。「我が人生に悔いなし!!」と言って、目を閉じ、微かに震えていた。


「ちょっと、昇天しないでよ」

「自信がまったくない……!」


 少し、サービスしすぎたか。エルは、明後日の方向を向き考える。

 だが、これだけ喜ばせておけば、しばらく世話になっても文句は言わないだろう。

 そういうことにしておいた。


 十分ほどで、イングリットは戻ってきた。


「え、何これ?」


 イングリットが見たのは、エルの前に片膝を突き、祈りを捧げているフォースターの姿だった。窓から、いい感じに光が差し込んでいる。


「私の可愛い可愛いお嬢さんが、大天使過ぎて、思わず祈りを捧げてしまったんだ」

「バカなことをしていないで、早く帰ったほうがいい。騎士隊が、こっちに向かっている」

「そうだな。とりあえず――」


 立ち上がったフォースターは、思いがけない行動に出る。扉を蹴破ったのだ。そして、叫んだ。


「この、人殺しがっ!! 何も、証拠など、ないではないか!!」


 ちょうど、騎士隊が到着していたようで、フォースターの荒ぶる様子に目を剥いていた。


「閣下! 落ち着いてください!」

「落ち着けるものか! 娘は、殺されたんだ! 犯人を、殺してやるっ!」


 大した演技力である。皆、本当にフォースターが乱心していると思っているようだ。

 ここでタイミングよく、フォースター公爵家の秘書や使用人がやってくる。


「ご主人様、馬車を用意しました」

「うるさい! 火を、火を放ってやる」

「ご主人様、どうか、お心を鎮めて」

「ええい、離せ!!」


 フォースターは使用人に引きずられるように、その場を離れる。

 エルとイングリットも、あとに続いた。


 フォースターの迫真の演技のおかげで、現場から無事離脱できた。

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