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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女は心の闇を垣間見る

 身支度が調ったら、フォースターと落ち合う。

 金髪縦ロールのエルを見た瞬間、フォースターは、その場にくずおれた。


「ああ……地上に天使が、舞い降りてしまった……! 私が選んだ流行の服が、彼女に似合いすぎる……! 可愛い……可愛すぎる。まさしく、可愛さの天才だッ!」


 フォースターはぐっと拳を握り、よくわからない内容をまくし立てている。

 エルは真顔で、執事に問いかけた。


「あれ、大丈夫なの? お医者様、呼ばなくてもいい?」

「大丈夫でございます。旦那様は、正常です」


 執事は表情も変えずに、淡々と言い切った。よくあることなのだろう。


 エルができることは、なるべく相手にしないことだけだった。

 思いの丈を言葉として発したフォースターは、満足したのか落ち着きを取り戻し、サッと立ち上がる。


「――さて、行こうか」


 エルとイングリットは、同時に頷いた。


 フォースター公爵家の家紋が付いた馬車に乗り込む。フォースターが馬車の天井を杖で突いたら、馬車は動き始めた。


 カーテンを少しだけ開くと、街の様子が見える。

 広場では、誰かが民衆に語りかけていた。

 黒斑病を蔓延させる、悪魔が降り立ったと。

 イングリットはカーテンを閉ざし、エルの肩を抱き寄せる。見るな、聞くなと言いたいのだろう。


「……ねえ、おじいさん」

「なんだね?」

「もしも、わたしが黒斑病を流行らせる悪魔だったら、どうする?」

「おい、エル。何を言っているんだ」


 エルは自分でも、そう思う。

 しかし、黒斑病の感染が広がる原因はエルのせいだと訴える者がいて、信じる者達もいたら、「そうなのかもしれない」と受け入れてしまいそうになる。


 フォースターはエルの言葉を聞いて、ふっと嘲笑った。


「君が、黒斑病を流行らせる悪魔だって? ならば、私は余計に君を受け入れなければならないだろう」

「どうして?」

「黒斑病は、私の罰だ」

「罰?」

「ああ。私はね、こう見えて、金と地位と財産を誰よりも手にしたいと思う、狡猾な男だったんだよ」


 一時期は、国王よりも偉くなりたいなどと、思う日もあったくらいだという。


「娘を王妃にして、宰相の地位に収まり、国王からも絶大な信頼を得ることとなった。しかし――気付いたときには、私は独りだった」


 フォースターの言う“独り”が、どういう意味なのか、エルにはわからない。

 返す言葉も見つからないまま、話の続きを聞く。


「近しい者達は私を恐れ、妻は政敵に殺され、王妃にまでしてやった娘は、黒斑病であっさり死んでしまった……!」


 国王との間に娘がいるものの、女性は継承権を持たない。

 現在、後妻を迎える話が浮上している。


「もしも、迎えた後妻が男を産めば、その者が国王となる。そうなれば私は、たちまち失脚するだろう。黒斑病の治療方法を知る友さえ戻れば、なんとか私の居場所は見つかると、思っていたんだ」


 フォースターの友とは、エルの師匠であるモーリッツだ。


「しかし、彼はもう……」


 フォースターはじっと、エルを見つめる。その瞳は、仄暗いものであった。


「君が、黒斑病の悪魔というのならば、私の命を、喰らってくれ。もう、私は十分生きた。早く、楽になりたい――」


 フォースターと出会ったときに感じた、警戒心は間違いではなかったのだ。

 彼は実に狡猾な男で、成功のためならば実の娘も差し出していた。

 悪魔のような男だったのだ。


 けれど、今はそうとは思えない。

 フォースターは罪を自覚し、罰を望んでいる。


「違う。わたしは、黒斑病の、悪魔じゃない」

「私の罪は、裁かれないのだな」

「いいえ。あなたにとって、一番の罰は、黒斑病で死ぬことではない。生きることが、一番の罰になる。だから、誰よりも長く、生きなければならない」


 フォースターは目を丸くして、驚いていた。

 無理もないだろう。子どもが、大人に罰について説いているのだから。


「やはり君は――私の天使だ」

「違うから」


 エルがぴしゃりと言い返したら、フォースターは淡く微笑んだ。

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