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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女とダークエルフは今後について話し合う

 とりあえず、工房は手に入れた。

  執事には下がってもらい、込み入った話をする。


 エルは改めて、工房を見回す。

 道具は一通り揃っている。素材さえあれば、すぐにでも魔石や魔道具が作れそうだった。


「イングリットは、これからどうする?」

「そうだな。魔石バイクを仕上げたいところだが……」


 大迷宮で手に入れた素材は、金色のスライムから得た『金』、ゴブリン・クイーンから採れた『魔弾ゴム』である。


「あとは塗料があれば、魔石バイクを作ることが可能だな」

「塗料は、国家錬金術師のキャロルが何か知っているかもよ」

「あー、いたな。そんなのが」


 大迷宮で出会った、錬金術師のキャロル。好奇心旺盛の研究者気質の女性で、困っているところをエルとイングリットが助けた。


「一応、恩は売りまくっていたからな。こちらが頼んだら、断れないだろう」

「だったら、先にキャロルに接触して、塗料について聞いてみる?」

「そうだな。ただ、どうやって会うかが問題だ」

「だね」


 フォースターに頼んだら、すぐに会えるだろう。ただ、これ以上頼るのも気が引ける。


「王城にある国家錬金術師の塔は、魔法使いの本拠地でもあるからな。あいつらは警戒心が高いから、地位も身分もない私達がいくら希望しても、通さないだろう」

「うーん。フォースターに頼むしかないのかな」

「エル、すっごくイヤそうだな」

「フォースターにお願いをして、ニコニコされるのがイヤ」

「そうかい」


 何か方法がないか考えていたら、イングリットがハッとなる。


「そうだ。鳥翰ちょうかん魔法があったな」

「ちょうかん、魔法?」

「ああ。連絡を取りたい相手に、鳥のはねのように羽ばたいて手紙が飛んでいく魔法なんだ」

「へえ、そんな便利な魔法があるんだ」

「その昔、広い森に散り散りになって暮らすエルフが考えた魔法なんだが」

「イングリットは、使えるの?」

「ああ。だが――」

「だが?」

「送る相手の魔力の波動を、魔方式にしなければならない。残念なことに、私は他人の魔力を文字化することはできないんだ」


 その昔、エルフの村には賢者がいて、個々の魔力を文字化していたらしい。それを使って、エルフ達は遠くにいる者達と連絡が取れるようになっていたという。


「魔力の文字化、わたしはできるよ」

「は!?」

「キャロルのでしょう? そんな複雑ではなかったよ」


 エルは工房の棚を探り、ペンとインク、それから羊皮紙を取り出す。

 ペン先にインクを浸し、サラサラと文字を書いていく。


「エル……マジか」

「こんなの、さほど難しいことではないでしょう?」

「いや、今さっき、村の賢者にしかできないって、説明したばっかだろうが」

「でも、わたしはできる」

「エルは、できる」

「そう」


 喋っている間に、キャロルの魔力は文字化された。


「はい、これ。キャロルの魔力。これを、イングリットが知っている鳥翰魔法の魔方式に組み込めば、連絡が取れるの?」

「ああ、取れる。問題なく、な」

「よかった」


 せっかくなので、この場でキャロルへの手紙をしたためることにした。


「二枚目に、何も書いていない紙を重ねて、裏に私へ届くよう、返信用の鳥翰魔法を作ることもできるんだ」

「へー、便利だね。でも、送った相手に文字化した魔力を渡すのは、あまりよくないかも?」

「言われてみたら、そうだな」

「もともと、仲間内で使う魔法だったもんね」

「ああ」


 とりあえず、返信用の紙は同封しないでおく。フォースター公爵家と書いていたら、どこから出しても届くだろう。


 エルは魔石バイクに耐えうる、耐魔塗料の作り方や入手方法を知らないか、質問する旨を手紙に書いた。

 あとは、イングリットが手紙の裏に魔法陣を描き、鳥の形に折れば魔法は完成する。


 手先が器用なイングリットは、紙から一羽の鳥を完成させた。


「これを、部屋の窓から放てばいいの」

「そうだな」


 地下から二階の私室に移動し、窓を開け広げる。

 イングリットは手のひらに折った鳥を乗せ、ふっと息を吹きかけた。すると、パタパタと翼を動かし、手紙の鳥は大空を飛んでいく。


「わっ、本当に、飛んでいくんだ」

「すごいだろう?」

「うん、すごい」


 これにて、ひとまず塗料については保留にしておく。


「さてと、エルサン」

「ん?」


 エルは身構える。イングリットがエルを「エルサン」と呼ぶときは、何かがあるのだ。


「イングリット、何?」

「言っていなかったが、ちょっとした問題が、ある」

「早く言って」


 急かしたが、イングリットは遠い目をして、窓の外を眺めていた。


「イングリット、早く、言って」

「ああ、言うさ」

「早く」


 イングリットはしゃがみ込み、エルと視線を合わせる。そして、肩を掴んで訴えた。


「魔石バイクの設計図は、下町の工房にある。設計図がないと、作れない」

「嘘でしょう?」


 イングリットの言葉に、エルはがっくりうな垂れてしまった。

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