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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女は首を傾げる

「あっさり受け入れたけれど、フォースターの家族は大丈夫なの?」

「家族?」

「隠し子がいるって聞いて、衝撃を受けない?」

「ああ、その心配には及ばない。妻は二十年前に出て行ったし、一人娘は以前話した通りだ。私は寂しい独り身だよ」

「フォースター公爵家の、跡取りはいないの?」

「いないな。私が死んだら爵位と財産は凍結されて、そのうち王族が継ぐだろう」

「そう」


 エルの存在が、フォースター家の争いの種にならないと知り、エルはホッと安堵する。


「私は国内でも三本指に入る、フォースター家の当主だ。私の言うことに、意見できるものは国王か、行方不明になった友人くらいだろう。安心して、過ごすといい」

「ありがとう」


 期間は定めないという。懐の深さを見せつけてくれた。


「あの」

「なんだい?」

「フォースターは本当に、わたしが悪い人だと、疑っていないの?」

「まったく、思っていないよ」

「理由は?」

「勘だ。ひと目会ったときから、お嬢さんのことが、気になってしかたがなかったんだよ」


 フォースターの発言のあと、イングリットはエルを守るようにぎゅっと抱きしめる。


「イングリット、何?」

「あいつ、少女趣味があるんじゃないよな?」

「さあ?」


 エルの素っ気ない回答に、フォースターは待ったをかける。


「私は、そのような理解できない趣味は持ち合わせていない。お嬢さんには、不思議な魅力があるのだよ。ダークエルフの君も、一緒に行動しているのならば、わかるだろう?」

「言われてみたら、エルは放っておけない何かがあるな。それに、料理が美味い」

「たしかに、馬車で食べた料理はおいしかった」


 エルはイングリットとフォースターの言葉に照れてしまう。モーリッツや父は特に何も言わずに食べていたので、褒められ慣れていないのだ。


「まあ、何はともあれ、私の勘がお嬢さんを助けるように訴えているし、精霊や竜に妖精が心寄せる存在が、悪しき者である可能性は極めて低いだろう」

「フォースター、ありがとう。もしかしたら、迷惑をかけるかもしれないけれど」

「ふむ。財産、地位、名声と三拍子揃った私に、困るような事態があるのかな? あったとしたら、お嬢さんのために、駆けずり回って見せよう」


 話を聞いていたら、フォースターは王族に次ぐ地位や権力を持っているようだ。

 あのとき乗り合わせたのがフォースターでよかったと、エルは思う。


 手と手を握り、しばらくフォースターの隠し子でいることに決めた。


「それで、えーっと、何だね。ここに住むにあたって、お嬢さんの名を教えてほしいのだが」

「言っていなかった?」

「言っていないね」

「言っていないな」

『ぎゃうぎゃう(言っていないよ)』

「そう」


 フォースターはエルを信じると言った。同じように、エルもフォースターを信じることにした。

 若干の胡散臭さはあるものの、悪意に敏感なヨヨは何も言わない。きっと、信用してもいいのだろう。


「わたしは、エルネスティーネ」

「エルネスティーネ!?」

「え?」

「今、エルネスティーネと言っただろう?」

「ううん、言っていない……はず」


 エルネスティーネ――どこかで聞いたことのある名だが、覚えていない。

 いったい、どこで聞いたのか。


「その名前、フォースターの知り合い?」

「いいや、娘が――」

「亡くなったアルフォネ妃?」

「ああ、そうだ」


 フォースターの娘が、生前話していたらしい。

 子どもを名付けるとしたらは、一人目はロレンティーヌ。二人目は、エルネスティーネと付けたいと。


 ドクン、ドクンと胸が激しく鼓動する。

 エルネスティーネの名を耳にしてから、酷く落ち着かない気分になった。


 フォースターの娘、アルフォネ妃はエルの母親である。

 エルには本名があり、それがエルネスティーネである可能性があるのだ。


 疑問は、なぜ、モーリッツや父フーゴは『エル』と略した形で呼んでいたのか。


「えー、それで、お嬢さんの名は、エルでいいのかい?」

「――!」


 今、この瞬間、エルは気付いた。

 アルフォネ妃が母親ならば、フォースターは祖父なのだと。

 どうして、今まで気付かなかったのか。

 フォースターも独りであると話していた。

 つまり、エルとフォースターは似たもの同士なのだ。


「エル、でいい」

「では、エルと呼ばせていただこう。私のことは――パパと呼んでもらおうかな?」

「ヤダ」

「な、なぜだい?」

「フォースターはフォースターだから」

「エル……」


 イングリットに、呼び捨ては気の毒だろうと言われる。

 エルはしばし考え、提案してみた。


「だったら、おじいさん、でもいい?」

「おじいさんか。悪くないな」


 悪くないと言いつつ、口元には弧を描いていた。


「それじゃあ、おじいさん、よろしく」

「ああ。エル、仲良くしよう」

「仲良くするのは、ちょっと……」

「な、なぜだい!?」


 つれない態度のエルにフォースターは衝撃を受けつつも、どこか嬉しそうだった。

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