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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女はフォースター公爵との縁について、ざっくり語る

 エルの突然の宣言を聞いたイングリットは、目が点となっていた。


「エル……フォースターって、白きユニコーンの家紋のフォースターじゃないだろうな?」

「そのフォースターだと思う」

「そのフォースターは、とんでもない大貴族で、当主は国の重鎮ともいえる存在だ。そんなヤツの家に行ったら、即座に捕まるに決まっている」

「フォースターには、貸しがあるの」

「エルサン……あんた、なんで……」


 イングリットはその場に膝をつき、ぐったりとうな垂れる。


「イングリット、大丈夫? もう一杯お水飲む?」

「いや、いい。つーか、私、水吐フグの水飲んだんだよな」

「うん、ごめん。水の魔石が、もうなくって。おいしくなかった?」

「いや、キンと冷たくて、おいしかったけれど」

「そうなんだ。今度、わたしも飲んでみるよ」

「エル……水吐フグの水、飲んだことなかったんだな」

「ない」


 虚ろな目をしているイングリットに、エルはフォースターとの縁を語り始めた。


「港町から王都へ続く馬車に乗り合わせたのが、フォースター。空腹のフォースターに、パンとスープをあげた貸しがあるの」

「エルサン、あんた、どんだけ人を食べ物で釣り上げるんだよ」

「釣ったのは、プロクスだけだよ」


 クッキー一枚で火竜を釣り、パンとスープで国の重鎮であるフォースター公爵と知り合った。ありえないと、イングリットはぼやく。


「フォースター公爵のところに行って、どうするんだ?」

「保護してもらう」

「逆に、捕まる可能性は?」

「ある。でも、街で捕まるよりかは、丁寧な扱いで捕まる気がする」

「まあ、そうだな」


 号外が配られている中、見つからずに脱出することは不可能だろう。


「プロクスが大きくなれるような、開けた場所もないし」

「公爵邸の庭だったら、問題ないかもな」

「そう。それも、目的の一つでもある」


 もしも捕まりそうになった場合は、脱出して庭に逃げ込み、成獣化したプロクスで逃走すればいいのだ。


「そんな作戦なんだけれど、どう思う?」

「うーん。ずっと、ここにいるわけにもいかないだろうからな」


 イングリットはぎゅっと目を閉じ、考える仕草を取る。眉間に皺を寄せ、うんうんと唸っていたが、腹をくくったようだ。


「わかった。フォースター公爵のところに行こう」

「決まりだね」


 ここで、長いしっぽ亭の店主が一言口を挟む。


「あんたら、フォースター公爵邸に行くのだったら、馬車で送ってやるが」

「それは、ありがたいけれど、どうしてそこまでしてくれるの?」

「うちの客だからだよ。それに、あんたらが悪人でないことは、よくわかっている」

「そっか。ありがとう」

「礼は、フォースター公爵邸に到着してから言ってくれ。号外のせいで、街中は混乱している。何が起こるかは、わからん」

「うん……」


 一行はすぐさま馬車に乗り込み、長いしっぽ亭を出発した。

 人が多い大通りを避け、整備が行き届いていない裏通りを走る。

 悪路とまでは言わないが、雑草が生え、石畳に欠けがあるので馬車は大いに揺れる。


「わっ!!」


 ガタンと大きく音が鳴った瞬間、エルの体は軽く浮いた。

 座席に立てかけてあったフランベルジュは、倒れてしまう。


『うぐっ!!』


 幼体のプロクスも、ゴロゴロ転がっていた。ヨヨだけは、床に張り付いていたのか微動だにしない。


「酷い道だな。王都とは、思えない」

「ガタガタだから、みんな、通らないんだね」

「みたいだな」


 時間をかけ、フォースター公爵邸に到着する。

 窓から見た屋敷は、国王の住まいかと思うほど大きい。


「これで、タウンハウスかよ」

「領地のカントリーハウスは、これより大きいんだ」

「おそらくな」


 名だたる貴族は、領地と王都、二カ所に屋敷を持つ。

 王都のタウンハウスは夏から冬にかけての社交期のみやってきて、生活の拠点とする貴族がほとんどである。


 長いしっぽ亭の店主はフォースター公爵家に顔が利くようで、守衛がいる門をあっさりと通過していった。


「ついているな」

「うん。わたし達だけでは、門を通過できない可能性もあったから」


 いくらフォースター公爵家の家紋が入った指輪を持っていたとしても、女、子どもの戯れ言として処理されるかもしれなかったのだ。


 馬車はどんどん進んでいく。

 フォースター公爵邸の庭は、想像以上に広大だった。

 美しい花が咲き乱れ、噴水に温室、東屋など、どこを見てもため息が零れそうな景色が広がっていた。


「これだったら、プロクスが成獣化できるね」

「そうだな」

『ぎゃう!(まかせて!)』


 馬車から降り、中へと入ると、大理石のエントランスと大勢の使用人に迎えられた。

 長いしっぽ亭の店主が、執事に取り次いでくれる。


「この娘達が、フォースター公爵に貸しがあるらしい。会わせてやってくれ」

「かしこまりました」


 老齢の執事はうやうやしい態度で会釈し、エルとイングリットについてくるように言う。

 去りゆく長いしっぽ亭の店主に、エルは声をかけた。


「あの、おじさん。ありがとう」


 長いしっぽ亭の店主は手だけ振って、去って行った。


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