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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女は大事件に巻き込まれる

「イングリット、夜は何を食べたい?」

「うーん、エルが作った、ふわふわのオムレツがいいな。チーズが入っているやつ」

「じゃあ、市場で新鮮な卵を買ってから、帰ろっか」

「そうだな」


 エルとイングリットは平和な会話をしつつ、王都の街を歩く。


「なんか、今日は人が多いな」

「だね」


 何か催しでもやっているのか。キョロキョロしながら歩いていたエルは、宙をひらひらと漂っていた号外を顔面で受け止めてしまう。


「わっ!」

「おっと。エル、大丈夫か?」


 イングリットがエルの顔に張り付いた紙を取ってくれる。

 すぐ傍で、刷り上がったばかりの号外を配っているようだった。


「号外、号外だよ~! とっておきの、大スクープだ!」


 人が多い原因は、号外が配布されていたからだろう。いったい何が起こったのか。エルは首を傾げる。


「――エル」

「ん?」


 イングリットは外套をエルの頭上から被せ、肩を抱く。


「え、イングリット、何?」

「エル、黙ってついてくるんだ。詳しい話は帰ってから話そう」

「う、うん」


 人が多い市場に繋がる道を回れ右をして、下町のほうへと向かった。

 イングリットの歩みは、だんだんと速くなる。次第に、エルを担ぎ上げて走った。

 何か、号外に善からぬことでも書かれていたのだろうか。

 エルの中で、不安がじわり、じわりと広がっていく。

 あと少しでイングリットとエルの魔石工房にたどり着く。家に帰ったら大丈夫だろう。

 そう思っていたのに――イングリットのハッと息を呑む声が聞こえた。

 すぐさま、路地裏へと隠れる。


「おい、出てこい!!」

「そこに、銀髪の娘をかくまっていただろうが!!」


 十名ほどの騎士が工房の前に集まり、扉を乱暴に叩いていた。

 銀髪の少女というのは、エルのことである。

 いったい、何が起こっているのか。わけがわからなかった。


「クソ!」


 イングリットは悪態をつき、回れ右をして下町の路地裏を走り始める。

 ヨヨ、フランベルジュにプロクスもあとに続いていた。


 イングリットが向かった先は、貴族の商店街。長いしっぽ亭だ。

 閉店の看板がかかっていたが、構わずに扉を叩き続ける。

 扉の向こう側から、人影が見えた。厳つい店主が、顔を覗かせる。


「ん、お前たちは――?」

「すまん、匿ってくれないか!?」

「入れ」

「感謝する」


 扉が丁寧に閉められ、施錠されるとイングリットはエルを下ろした。

 ここまで全力疾走してきたので、ぜーはーと苦しそうに息を吸ってははいていた。


「イングリット、お水、飲む?」

「あ、ああ」


 焦るあまり、魔法鞄から水の魔石を見つけることができない。水吐フグがあったので、取り出す。

 口から氷の魔石を取り出し、カップに水を吐き出させる。


『オロッオロロロッロ!』

「……」


 カップは水で満たされる。イングリットは気にしている余裕がないのだろう。エルが差し出した水を、一気に飲み干した。


「まだ、いる?」

「いや、大丈夫、だ」


 イングリットは息が整うと、エルに静かに語りかける。


「エル、その、なんだ。悪い話だ」

「うん」


 ヨヨがエルに寄り添う。ふわふわの毛並みをした体をぎゅっと、強く抱きしめた。


「黒斑病の原因は、東の森に棲む銀髪の少女の姿をした魔女が原因だったと、書かれている。似顔絵が載っていて、それが、エルそっくりで。この国の王女の姿に化けて、人々に厄災を振りまいていると、書かれていた」

「どういう、ことなの?」

「東の森の村の火災に、生存者がいたらしい。その者が、証言していると」

「誰か、生きて、いたんだ」


 エルは複雑な気持ちがこみ上げ、立っていられずに床にしゃがみ込む。


「号外は、今さっき配られ始めたのだろう」


 その証拠に、イングリットの手には乾いていないインクが付着していた。


「わたしの顔にも、インクが付いている?」

「いいや、付いていない。張り付いたのは、裏面だったのだろう」


 しかし、なぜ? という疑問が、荒波のように押し寄せる。


「王女の姿に化けてって、どういうことなんだろう」

「そういや、錬金術師のキャロルが、エルとそっくりな人がいると言っていたな」


 キャロルは国家錬金術師である。王女と顔見知りの可能性は極めて高い。


「おやじ、悪かったな。巻き込んでしまって」

「いいや、構わない。俺たちは客を、信用している。今回の報道も、民を煽動するためのガセだろう」


 原因不明の黒斑病に対する不安を、エルを悪だと糾弾し、人々の強い感情を操ろうとしているのだ。


「それはそうと、預かっていた人工精霊の核の移植が終わった。今は眠っている状態で、いつ目覚めるかは、わからん。引き取るだろう?」

「うん。一緒に、連れて行く」


 店主が連れてきた、久しぶりのうさぎのぬいぐるみ型人工精霊、ネージュはぐったりしていて動き出す様子はない。

 エルはぎゅっと抱きしめたあと、魔法鞄の中に詰め込む。


「ありがとう」

「いや、いいが」


 ネージュは引き取った。ここには長くいられないだろう。


「イングリット、ごめん。わたしのせいで、逃げることになって」

「いや、構わない。問題は、これからどうするか、だな」


 ここで、エルは思い出す。


 ――私はフォースター家の者だ。王都で困ったことがあったら、訊ねるといい。家は、その辺の者に聞いたらわかるだろう


 鞄からフォースター家の、角がある馬の幻獣の家紋が入った指輪を取り出す。


「イングリット、フォースターのところに行こう!」


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