表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
74/165

少女一行は親玉と対峙する

 キャロルの話では、親玉はゴブリンリーダーと五体のゴブリンと戦うことになるという。


「イングリットのときも、同じだった?」

「だいたいそんな感じだな。ゴブリンが五匹だったり、六匹だったりと、ばらつきはあるが」


 大迷宮は能力によって、敵や取得アイテムを変える。もしかしたら、プロクスやフランベルジュがいるので、別の構成になっている可能性も大きい。


「あ、そうだ。途中で杖を拾ったんだけれど、これってキャロルの?」


 エルは鞄の中から虹色水晶杖を取り出し、キャロルへ見せた。もしも、彼女が持ち主ならば、返そうと思っていた。


「わー、きれいな杖ですね。残念ながら、私の杖じゃないですよー」

「そっか」


 これは魔法使いの杖で、錬金術師は使えないという。


「錬金術師の杖は、創薬にも使うので、薬剤を混ぜたり、素材を叩いたりするんです。なので、屈強な作りになっているのですよー」

「へえ」


 キャロルが落とした杖ではないというので、魔法鞄の中にしまう。


「なっ、そ、その鞄、どうしたのですか!?」

「待て待て、その話はあとだ。一向に、先に進めない」

「あ、そうですね」


 やっとのことで、イングリットが親玉が待機する扉を開いた。


『オオオオオオオオオ!!!!』


 現れたのは、黒衣のドレスをまとったゴブリン・クイーンだった。

 大きさは、三米突メートルほど。凹凸のないずんぐりとした体に、明らかに重そうなドレスをまとっている。手には、鉈のような刃物を握っていた。真新しい血が付着しているのが、妙に生々しい。

 背後には、ゴブリンリーダーを五体従えていた。


「な、なんで!?」


 イングリットの問いかけに答えられる者は誰一人としていない。


 ゴブリン・クイーン自ら、先陣をきって飛びかかってくる。鉈を振り上げた先にいたのはイングリットだ。


「どわー!!」


 イングリットは悲鳴を上げつつ、ゴブリン・クイーンの攻撃を回避した。

 プロクスが、炎の吐息を吐き出す。


『ぎゃう!(燃えろ!)』


 ゴブリン・クイーンはくるくると高速回転した。プロクスの炎を弾き、天井へ逸らすことに成功していた。

 軌道が外れたプロクスの炎は、天井に穴を開ける。

 体長二米突メートルほどのゴブリン・リーダーも次々と襲いかかってきた。


 キャロルがどんぐり爆弾をゴブリン・リーダーに向かって投げる。


 ドン!!!!


 耳の鼓膜を破くような大きな音が鳴り響く。

 ゴブリン・リーダーの体は散り散りとなる。まとめて五体倒した。


「おー、なかなかの威力でー」

「強すぎだ!」


 イングリットはキャロルに全力で突っ込みを入れていた。


 そうこうしている間にも、ゴブリン・クイーンの猛攻は続いている。

 魔法系の攻撃は、黒衣のドレスを使った高速回転がすべて弾いてしまう。プロクスとフランベルジュの攻撃は、あまり期待できない。


 大きな図体のわりに、素早い。エルの魔石は何度も回避されていた。


「だったら、私のどんぐり爆弾で」

「おい、それが弾かれて、私達のほうで破裂したら危険だろうが!」

「あ、そうでしたー」


 遠隔攻撃がまるで効かないので、フランベルジュは斬りかかる。

 だが――。


『ぐぬー!』


 ゴブリン・クイーンの黒衣のドレスは、フランベルジュの刃すらも弾き飛ばした。

 イングリットのほうへ飛んできたが、寸前で回避していた。


「おい、危ないだろうが!」

『すまんな!』


 プロクスは成獣体となり、炎の吐息を浴びせる。

 しかし、それすら弾かれてしまった。


「熱い!!」

『ぎゃうー(ごめんー)』


 部屋の温度が急激に上がったので、エルは氷の魔石を投げ込む。

 炎と氷で相殺され、ちょうどいい温度となった。

 うっすらと張った氷はゴブリン・クイーンにも付着したが、足止めすることはできなかった。高速回転で、すぐに振り払われてしまう。


「クソ、厄介だな!」


 イングリットも矢を打ち込んだが、結果は同じ。

 ゴブリン・クイーンは鉈で斬り込んでくるが、避けることしかできない。


「どうすればいいんだ」

『動きを止めることができたら、露出している部分を切り刻むことができるんだがな』


 ゴブリン・クイーンの顔や手足は露出している。そこであれば、ダメージを与えることができるとフランベルジュは呟く。


「どんな攻撃を仕掛けても、ドレスを使った高速回転を使われたら、攻撃が弾かれてしまうんだよ」


 イングリットの発言を聞いたキャロルが、ハッとなる。


「動きを、止める……、一つだけ、方法があるかもしれません!」

「なんだ?」

「水吐フグに氷の魔石と魔岩塩を飲ませて、液体氷を作って、それをゴブリン・クイーンに被せたら、凍るかとー」


 魔岩塩は魔力を多く含んだ岩塩である。主に、魔法薬を作るときに使われる素材だ。キャロルの体内にあるらしい。


 氷の魔石単品では、ゴブリン・クイーンの動きを止めることができなかった。

 しかし、魔岩塩があれば、氷の魔石の温度をさらに下げた上に、魔力値も上がるのでさらに強い氷が作られる。


 加えて、キャロルの祝福である『アイテムスロウ』を使ったら、確実に当てられる。


「エル、キャロルに水吐フグと氷の魔石を渡せ。私達でゴブリン・クイーンの気を逸らしておく」

「う、うん、わかった」


 イングリットとフランベルジュ、プロクスで、ゴブリン・クイーンのヘイトを集める。

 その間に、エルはキャロルに水吐フグと氷の魔石を手渡した。


「キャロル、お願い」

「お任せください!」


 キャロルは水吐フグの口に氷の魔石を詰め込み、自身の中にある魔岩塩を調合させた。

 頬を押すと、氷の液体を吐き出す。


『オロロロロロロロロローー!!!!』


 吐き出した水は、外気に触れた途端に凍っていく。


「よし、いい感じですね。では、みなさん、ゴブリン・クイーンに浴びせますよ」


 まず、イングリットが矢を放つ。ゴブリン・クイーンは高速回転で攻撃を弾き飛ばした。

 ゴブリン・クイーンが地に足をついた瞬間、キャロルは水吐フグの左右の頬を強く押した。


『オッロロッロオロロロロオロロロー!!!!』


 弧を描いて液体は、ゴブリン・クイーンのドレスにまとわりつく。


 高速回転をして払おうとしたが、もうすでに、地面と体が凍っていて動けない状態になっていた。


「よし、今だ!!」


 フランベルジュは、ゴブリン・クイーンの首を刎ねた。

 たった一撃で、絶命する。


「や、やった?」

『みたいだね』


 ヨヨの返事を聞いたエルは、その場にへたり込む。

 思いがけない強力な敵を倒すことができたので、深い深い安堵の息をついてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ