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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女とダークエルフは、人助けをする?

「ねえ、イングリット、そろそろお腹空かない?」

「そういえば、そうだな」

「食事を取ってから、親玉倒そう」

「それがいい」


 エルは周辺を、水と風の魔石に加え、炎の魔石を使って洗う。煮沸消毒である。


「エル、そこまでする必要あるか? 別に、ここは汚くないし、ゴブリン臭くもないが」

「でも、ゴブリンがここで、地面に座って飲み食いしていたかもしれないでしょう?」

「まあ、絶対にないとは言えないが」

「ゴブリンが使った場所をそのまま食事に使うなんて、ありえないから」


 そう宣言し、エルは貴重な炎の魔石を使って食事の場をきれいにした。

 熱風に襲われるが、エルはなんのその。厳しい目を地面に向けていた。

 ヨヨはエルに、胡乱な視線を突き刺すように送る。


『いや、熱っ。毛皮のコート、今すぐ脱ぎたい』

「猫くん、しばしの我慢だ」


 エルを止められる者は一人としていなかった。


 煮沸消毒が終わった地面を見たエルは、満足げに頷く。キラキラと輝く額の汗を拭っていた。そして、プロクスと共に敷物を広げる。


「手はこれで洗ってね」


 桶に水の魔石を入れると、澄んだ水で満たされる。手を浸したイングリットは「あー冷たい」と呟きながら、薬草石鹸で手を洗っていた。


 エルが鞄から取り出した弁当箱に入っているのは、朝から作った鶏肉のタルタルサンドである。


「おっ、うまそうだな」

「たくさん食べてね」


 エルがそう言った瞬間、目の前の親玉の部屋へと続く扉がバン! と勢いよく開かれた。


「ヒエエエエエエ!!!!」


 悲鳴を上げながら出てきたのは、緑色の粘着質な液体で全身がベタベタになった二十歳前後の女性である。


 エルの目は鋭くなり、素早く弁当箱の蓋を閉める。きれいにしたばかりであったが、ゴブリン特有の臭いで空間が満たされてしまった。


「今すぐ、煮沸消毒、しなきゃ」

「オイオイ、エルサン、それ、炎の魔石、止めてあげて」

「た……助け……て……!」


 ゴブリンの粘液でドロドロになった女性は、エルとイングリットに向かって手を伸ばす。


「エル、どうするか?」

「とりあえず、きれいにする」

「そうだな」


 水と火、風の魔石を用いて、女性に付着したゴブリンの粘液を洗い飛ばす。

 途中からナイフで削いだ薬草石鹸を加えた。ブクブク泡立ち、ゴブリンの臭いと汚れをどんどん取り除いていく。

 全身きれいになったら、今度は風の魔石だけ使い、水分を吹き飛ばした。

 地面に散らばったゴブリンの粘液も、魔石を使ってきれいな状態にする。


 ようやく、女性の全貌が明らかとなった。

 草色の長い髪をハーフアップにしており、常に微笑んでいるような細い目に眼鏡をかけている。服装は全身を覆う魔法使いの外套を着込んでいたが、寸法はぶかぶか。

 鞄も、装備品も持っていないようだ。


「助かりましたー。ゴブリンの粘液まみれにされたときは、死を覚悟していたのですが」


 女性は額を地面に付けるような勢いで、平伏した。


「本当に、助かりました」

「それはいいとして。あんたさ、所持品を親玉の部屋に忘れてきたのか?」

「いえ、道具はすべて、ここに来るまでに落としてしまいました」

「は?」

「ゴブリンの気を引くために、必死で。気付いたら、手ぶらだったんですよ」

「よく、単独行動で、ここまでたどり着いたな」

「奇跡的でしたー」


 なんとも緩い女性である。ただ、ヨヨが警戒していないので、悪い人ではないのだろう。エルはそんなことを考えつつ、女性を観察している。


「あなた、職業は?」

「調合師です。ここまでは、調合した爆弾で魔物を倒しつつ、やってきまして。でも、鞄をなくしたので、これ以上先には進めないですね!」


「あはは」と笑ったのと同時に、彼女のお腹がぐーっと鳴る。

 あまりにも大きな音だったので、迷宮内で反響していた。


「あの、食事、あるけれど、食べる?」

「いえ、そんな、悪いですよ」


 遠慮するのと同時に、お腹も鳴った。無視できる腹の虫ではないだろう。


「たくさんあるから、食べていって。二人だけでは食べきれない量を作っているから」

「えっと、その、では、お言葉に甘えて」


 女性を敷物の上に招き入れる。エルは再び、弁当の蓋を開いた。


「わっ、おいしそう」

「たくさん食べて」

「あ、ありがとうございます」


 鶏肉のタルタルサンドの他に、ゆで卵や乾燥果物、野菜の酢漬けも出す。


「ああ、おいしい。こんなおいしい料理、久しぶりです!」

「よかった」


 ゴブリンの臭いですっかり食欲が失せていたエルだったが、女性の見事な食べっぷりを見ていたら、なんだか食べたくなった。

 大きく口を開けて頬張る。鶏肉は柔らかく、なめらかな味わいのタルタルソースとよく合う。口の端に付いたソースを指先で拭い、イングリットがしたようにペロリと舐めた。


「うん、おいしくできている」

「エルの料理は、相変わらず最高だな」

「イングリット、ありがとう」


 一通り食事が終わってから、イングリットは女性に問いかける。なぜ、戦闘慣れしていない調合師が、たった一人で大迷宮に挑んでいるのかと。

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