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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女一行はゴブリンと戦う

「イングリット、魔法使いのゴブリンがいる!」

「なんだって!?」


 イングリットのほうも、前衛のゴブリン二体を倒したばかりのようだ。

 魔法を喰らったプロクスは、無傷だった。竜の鱗は頑丈なので、当たり前だろう。

 暗闇からの不意打ちの魔法は悔しかったようで、プロクスはジタバタと地団駄を踏んでいた。


『ぎゅるるるるう!』


 いつもと異なる鳴き声をあげた。契約を結んだエルは言葉を解することができるのに、理解できなかった。


 遠くのほうで、赤い光がチカリと瞬く。間を置かずに、炎が噴射した。


「あれは、イラプション!?」


 大地を沸騰させ、炎を噴出する高位魔法である。ゴブリンと思わしき断末魔の叫びがこだましていた。


 ヨヨが小さな声で、エルに教えてくれる。


『今ので、プロクス側のゴブリンは全滅』

「あ、そう」


 プロクスを怒らせたことにより、一瞬でケリが付いてしまった。一気に殲滅せんめつできてスッキリしたプロクスは、小さな姿に戻る。

 一方、フランベルジュ側はというと――。


「あれ、イングリット、フランベルジュは?」

「旋回しながら、ゴブリンのほうへと飛んでいったのだが」


 こちらからも、ゴブリンの断末魔が聞こえる。

 バシャ、ベチャという、何の音か想像したくないものも聞こえてきた。


「あれだよね、フランベルジュ。くるくる回転したまま、ゴブリンのほうに突っ込んで行って……」

「エル、もう言うな」


 案の定、ゴブリンの緑色の血に塗れたフランベルジュが戻ってきた。


『俺様が、全部倒してきたぞ!』

「ぎゃあ! こっち寄るな!」

「すごい臭い。ちょっと待って、フランベルジュ。きれいにしてあげるから」


 エルは風と水の魔石を取り出し、小さな竜巻に水を含んだものを作ってフランベルジュに付着したゴブリンの血を洗い流す。

 それだけでは臭いまで落ちないので、薬草石鹸も使い徹底的にきれいにした。


「エルの魔石は、本当に役に立つな」

「でしょう?」


 だが、それとは別の問題が生じた。

 フランベルジュが倒したゴブリンは、進行方向のものだった。


「つまり、これからバラバラになったゴブリンを乗り越えていかなきゃいけないのかよ」

「最悪」

『わかった。俺様が先に行って、燃やしてくるから』

「いや、これ以上火を使ったら、空気が薄くならないか?」

「あ、そうかも。止めたほうがいいね」

『エルの氷の魔石で凍らせたら? 見えることに変わりはないけれど、臭いやねちょねちょ感は軽減できるような気がする』

「いいかも」


 ヨヨの意見を採用し、エルは投石器を使ってゴブリンの死体に氷の魔石を投げつけた。

 パキパキ、パキパキと音が鳴り、様子を見に行ったフランベルジュの話によるとしっかり氷結状態にあるという。


「猫君、抱っこしてあげよう。氷の上を肉球で歩くのは辛いだろう?」

『あ、どうも。では、お言葉に甘えて』


 家猫よりも一回り大きいヨヨを、イングリットは片手で持ち上げていた。


「プロクスは鞄の中に入っておく?」

『ぎゃう!(平気!)』

「そう」


 覚悟を決め、先へと進む。


「エル、氷で転ばないように、気を付けろよ」

「たぶん大丈夫」

「不安な答えだな。ほら」


 イングリットが差し出した手を、エルはぎゅっと握った。

 魔法で作った光球を照らすと、一面氷結状態であることがわかった。

 氷の上に足を踏み入れると、ギシッと音が鳴る。しもが降りたような状態となっていた。


 冒険用の靴は、氷の上も滑らずに進む。非常に便利な品だった。


 時折転がっている氷塊は、フランベルジュがバラバラにしたゴブリンだろう。なるべく見ないように進んでいたのに、何かを踏んでしまった。


「きゃあ!」

「エル、どうかしたのか?」

「何か、踏んだ。たぶん、ゴブリンの欠片」

『ぎゃう~?(何かな~?)』


 あろうことか、プロクスはエルが踏んだ物体を持ち上げた。


『ぎゃう!(杖だ!)』

「え、杖?」

「なんだ、これ」


 プロクスから杖を受け取ったイングリットは、目を見張っている。


「イングリット、それ、何?」

「世界樹から作った柄に、虹色水晶が付いた、上位魔法士が使うようなとびきり上等な杖だ。これを使った魔法を喰らっていたら、大変なことになっていたぞ。天災レベルの魔法が発動される」

「な、なんでゴブリンが、そんなものを持っているの?」

「冒険者から奪ったとしか思えないだろう。魔法の遣い手は、接近されたら終わりだからな。低位魔物といえど、歯が立たない」

「そっか」


 フランベルジュが思い切って倒してくれたおかげで、一行は難を逃れていたようだ。


「フランベルジュ、ありがとう」

『いいってことよ』


 フランベルジュは剣身を斜めにしながら言う。胸を張っているように見えた。


「この杖、どうする? 貴重品だったら、持ち主に届けたほうがいいの?」

「いや、迷宮で拾った物は、好きにしていい決まりなんだ。エルが装備するといい。魔法も、使えるんだろう?」

「うん。でも、天災レベルの魔法を使うときってある?」

「ないな」


 とりあえず、他のゴブリンが拾ったら、大変なことになる。このままエルが持っておくことにした。


「持ち歩くのは大変だから、魔法鞄に入れたいけれど――」


 ゴブリンが使っていた品である。一度洗いたい。そうエルが主張したので、開けた場所で杖を洗うことにした。


『なんていうか、エルって潔癖症だよね』

「ゴブリン相手だったら、誰だってこうなるから」


 杖がきれいになったところで、迷宮の攻略を再開する。

 行き当たった先に、親玉が待つ部屋があった。

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