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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女とダークエルフは第二層に挑む

 金色のスライムは、液体と化した。輝く黄金が、地面に広がっている。


「イングリット、あれ、魔石バイクの素材に使えるんじゃない?」

「んん? あっ、そうだな。うん。これならば、使えそうだ」

「イングリット、ちょっと目的忘れていたでしょう?」

「まあ……な」


 イングリットが新聞配達を生業とする商会から依頼を受け、考えた『魔石バイク』は、魔石に込められた魔力に長期にわたって耐えうる力を持つ素材が必要だった。それを、大迷宮に探しにきたのだ。

 ここにたどり着くまでいろいろあったので、イングリットはすっかり失念していたらしい。


「でもこれ、どうやって採取するんだ? なんか、熱そうだな」

「熱い、かもね」


 ここで、プロクスが一歩前に出て、胸を拳でドン! と打つ。


『ぎゃう、ぎゃーう(私に任せて)』

「あ、そうか。プロクスは火竜だから、熱いの平気か」

『ぎゃう!』


 耐魔力の魔法が付加された瓶をプロクスに手渡す。器用に蓋を開き、片手にフランベルジュを握った。


『む!?』


 液体化した黄金を、フランベルジュの剣先で掻きだし、瓶の中へと入れていた。


『なっ、何をする!?』

『ぎゃう、ぎゃう、ぎゃう(少しの間だから、大人しくしていて)』

『ぐ、ぐぬう!』


 プロクスとフランベルジュの力関係が、明らかとなった瞬間であった。

 金をすべて瓶に入れ、受け取ったエルは魔法鞄の中にしまう。

 一息ついた瞬間、赤と青、二つの魔法陣が浮き上がった。


「イングリット、あれは?」

「青いほうが地上に戻る魔法陣で、赤いほうが下の層へ行くものだ」

「だったら、赤いほうだね」

「行くか」


 一行は赤い魔法陣に乗り、第二層へ挑む。

 第二層は石造りの、いかにも迷宮といった造りになっていた。

 転移早々、魔物に襲われる。


『オオオオオ!!』


 棍棒を振り上げ、駆けてくるのは緑色の肌にぎょろりとした目を持つゴブリンだ。

 背はエルよりも小さく、動きも速くない。

 イングリットは矢を素早く射る。

 胸に命中した瞬間、魔法が発動する。ボッと鈍い音を立てた瞬間、青い血が辺りに飛び散る。ゴブリンは一撃で絶命した。

 取得アイテムは、ゴブリンの棍棒と腰布。どちらも、血塗れである。

 そうでなくても、ゴブリンの肌は粘着質で、表皮がベトベトしていた。臭いもきつい。

 あまり、持ち帰りたい品ではなかった。


「イングリット、これ、どうする?」

「特にいらない物だから、そのままにしておこう。必要な冒険者が回収するだろうし」

「そうだね」


 先へと進む。

 ゴブリンはスライムよりも賢い。あの手この手と知恵を働かせ、襲いかかってくる。

 先ほどは、地面に毒がまき散らされていた。ヨヨが気付いたので、毒に中てられずに済む。妖精族はこのような悪意による仕掛けに気付きやすいのだ。


「ここ、第二層とは思えないくらい、大変だね」

「私も思った。もしかしたら、冒険者の人数やレベルなどで、ダンジョンマスターが難易度を変えているのかもしれない」


 イングリットが一人で攻略したときよりも、ゴブリンは手強くなっているようだ。


「ダンジョンマスターがそこまで細かに管理しているとは、思わなかったな」

「うん。本当に、ここは不思議な場所だね」


 エルの投石器を握る手が、ブルブルと震えている。額にも、冷や汗が滲んでいた。


「エル、もしも危険だと感じたときは、迷宮脱出札を使おう」

「そうだね。それがいい」


 安心させるためか、イングリットはエルの頭をぐりぐり撫でる。

 ザワザワしていた心は、すっと軽くなっていった。

 イングリットは後頭部を掻きながらぼやく。第二層でこんなにハラハラするなんて、ありえないと。

 ふいに、ヨヨの尻尾が突然ぶわりと膨らんだ。悪意を察知したのだ。すぐに叫んで知らせる。


『大変だ。前後から、ゴブリンの群れが!』

「なんだと!?」


 すぐさま、イングリットは指示を飛ばす。


「プロクスとエルは後方、私とフランベルジュは前方のゴブリンを倒す。ヨヨは何か気付いたら教えてくれ」

『了解!』


 プロクスも危機を察したのか、小さな竜の姿から、中くらいの竜の姿へ変化する。成人男性くらいの大きさだろうか。低い声で『ぎゃーーう!(卑怯な奴め!)』と叫んだ。


『前方、後方、それぞれ数は五! 油断しないでね』


 まだ、ゴブリンの姿は見えない。しかし、暗闇の中からキラリと輝く何かが見えた。


「あれは、やじり!?」


 ヒュンと音を立てて、矢が飛んでくる。プロクスはすかさず、小さな炎のブレスを吐き出して炭と化した。


「イングリット、ゴブリンの中に弓士がいる」

「厄介だな」

『心配するでない。俺様がすべて、へし折ってくれる!』


 イングリットのほうにも矢が飛んできたようだが、フランベルジュが斬り落とす。


 ようやく、ゴブリンの姿が見えた。棍棒を持つ、典型的なゴブリンが二体。

 エルは雷の魔石を飛ばし、ゴブリンの額に当てることに成功した。

 粘着質な肌を持つゴブリンは、隣を併走していたゴブリンにまで感電させていた。一気に、二体葬ることに成功する。


 残りの三体はまだ姿が見えない。


「あっ、また矢が!」

『ぎゃう(任せて)』


 二本続けて矢が飛んでくる。プロクスはブレスで焼き尽くした。

 ホッとしたのもつかの間のこと。

 プロクスの前に、魔法陣が浮かび上がる。風魔法『ウィンドカッター』が発動された。


『ぎゃう!!(い、痛い!!)』


 姿を見せないゴブリンの中に、魔法使いがいたようだ。 

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