少女とダークエルフはボスに挑む
低位魔物であるスライムをオーバーキル気味に倒しつつ、一行は大迷宮を進んでいた。
「あんなにたくさんの冒険者が大迷宮に入っていったのに、ぜんぜん会わなかったね」
「それだけ大迷宮が広いんだよ」
「そっか」
半透明のスライムが飛び出してくる。すぐさまプロクスが爪先で引っ掻いて一撃与え、フランベルジュが上から突き刺す。液体状になったスライムから、エルは増粘剤を採取した。
イングリットは迷いのない足取りで進む。突き当たった先に、扉があった。
「ここが、第一層の親玉がいる部屋だ」
「親玉って?」
「第一層にでるどんな魔物よりも強力な存在だ」
「へー、そうなんだ」
「ここでは、巨大スライムが出る。図体がでかくて驚くかもしれないが、動きはそこまで速くない。危ないと思ったら、この場所に戻ればいい。深追いすることはないから」
「親切設計なんだね」
「第一層はな。どの層も、親玉を倒さないと下の層に進めない。これが、大迷宮攻略の難しいところだ」
「無理はしないようにしよう」
『命は大事に、ってわけだね』
ヨヨの言葉に、イングリットは深々と頷いた。
「準備はいいか?」
「うん」
『ぎゃう!(問題なし!)』
『いつでも行ける』
『いーよ』
「やっぱり、息合わないな」
イングリットは苦笑しつつ、扉を開いた。
内部は天井が高く、大迷宮のエントランスよりも広い。
今まで洞窟みたいな場所にいたが、親玉と戦う場所は大理石でできており一面真っ白だった。
第一層の親玉は、巨大スライム――のはずだった。
「なんだこりゃ!!」
イングリットは待ち構える親玉を見て、叫んだ。
スライムであることに間違いはない。問題は、いつも冒険者を待ち構える巨大スライムではないということ。
一行を待ち構えていたのは、金色のスライムだった。
「な、何、あれ? あんな色のスライム、見たことがない」
『エル、あれは、ユニーク・モンスターだ』
「ユニーク・モンスター?」
『他の魔物とは違う、特異的な存在ってこと。超超珍しい魔物だね』
「そう、なんだ」
エルは金色のスライムと視線が交わったような気がして、自らの肩を抱く。
「イングリット、大迷宮って、魔物もダンジョンマスターが管理しているの?」
「そうだな」
「ということは、ダンジョンマスターがわたしを見て、珍しいアイテムや魔物を出しているってことになるのかも」
「ああ、そういう考えもできるな」
エルのこれまでの人生は、とても『幸運』ではなかった。
幸運値が高いのではなく、ダンジョンマスターが敢えてそうしている確率のほうが高いだろう。
「なあエル、ダンジョンマスターに心当たりは?」
「ない」
「だよな」
『おい、おしゃべりはそこまでだ。来るぞ!』
金色のスライムは今までのスライムと同じ大きさだったが、明らかに目つきや威圧感が違った。
ポンポンとその場で跳ねると、弾丸のように飛んでくる。
目指すのは、エルだ。
その前に、プロクスがエルの前に飛び出し、小さな翼をはためかせて飛ぶと、金色のスライムにアッパーパンチを入れた。
ガツン!!
硬い、金属音が鳴る。攻撃が効いているようには見えなかった。
「なんだ、あいつ。金属みたいに硬いスライムってことかよ」
「嘘みたい。動いているときは、ぷるぷるで柔らかそうなのに」
弧を描き、飛んでいった金色のスライムであるが、地面に落ちてもダメージはゼロ。
今度は、プロクス目がけて飛び出してくる。
イングリットは魔法を付加した火の矢を番え、すぐに放った。
矢は魔法陣が浮かび、鏃にボッと音を立てて火を点す。
イングリットはただただ射ったのではない。金色のスライムの動きを想定して射った。
見事、金色のスライムに当たったが――やはり、弾かれる。
金色のスライムはイングリット目がけて飛び出してきたが、フランベルジュが回転しつつ飛んで衝突する。
金色のスライムはやはり、ダメージを受けることなく、ぽんぽんと跳ねながら転がっていた。
「ま、貫通するわけないわな。竜の一撃も弾いたのだから」
「イングリット、あれが、金属製のスライムだったら火属性の攻撃じゃなくて」
「炎だな」
金の融点は約1000度。普通の火魔法では、物理攻撃のように弾かれてしまう。
すぐさま、イングリットが指示を出す。
「私が攻撃して隙を作る。その間に、エルかプロクス、フランベルジュの誰かが炎を金色のスライムにぶちこめ! ヨヨは応援よろしく!」
『あ、僕まで指示を出してくれて、ありがとうね。とりあえず、みんな、頑張れー』
イングリットは魔法を付加していない矢を番い、金色のスライム目がけて射った。
矢は額に当たったが、すぐに弾かれる。
体勢を崩した瞬間に、プロクスが金色のスライム目がけて炎のブレスを吐き出した。
金色のスライムは棒状と化し、ブレスを避ける。
「クソ、致命傷になる攻撃は避けるか」
続けてフランベルジュが必殺技を繰り出す。
『炎帝旋風剣!!』
巻き上がった炎から、金色のスライムは素早く回避していた。
イングリットは回避した金色のスライムに矢を射る。命中したが、貫通することはない。矢はあっけなく弾かれる。
今度はエルが、炎の魔石を放った。
金色のスライムは回避活動を取ったが、イングリットが矢を放ち、炎の魔石の軌道修正をした。
炎の魔石は金色のスライムに当たり、発火する。
ドン! という音を立て、爆ぜた。




