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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女とダークエルフはスライムに出遭う

「あ、そうだ。エル、これを渡しておく」


 イングリットが差し出してきたのは、呪文が描かれている札だ。


「イングリット、これは?」

「迷宮脱出札だ。これを破ると、入り口に戻ることができる」

「へえ。便利なものがあるんだ」


 迷宮には数カ所、地上に戻る転移陣が設置されているが、魔物との戦闘で深手を負った場合など緊急を要するときに使えるアイテムである。


「ねえ、イングリット。これ、けっこう高いんじゃないの?」

「命を落とすことに比べたら、安いものさ。大迷宮は下の層に行けば行くほど、強力な魔物と出遭う。危ないと感じたら、すぐに撤退するぞ」

「うん、わかった」


 今度こそ、大迷宮第一層の攻略を始める。

 さっそく、角から魔物が飛び出してきた。半透明でゼリー状の球体、スライムである。

 エルはすかさず、火の魔石を構えたが――プロクスが炎のブレスを吐き出すほうが早かった。スライムは炎上し、息絶える。が、それにまさかの追撃する存在ものがいた。フランベルジュである。


『炎帝旋風剣!!』


 一回転すると炎の竜巻が発生し、絶命していたスライムをさらに炎上させ無と化す。

 明らかなオーバーキル状態に、イングリットが突っ込んだ。


「おいおいおい! やりすぎだ! こんな密封された空間でガンガン火力出しやがって。空気なくなって窒息するぞ!」


 エルが言いたかったことを、イングリットは一息で言い切った。見事な突っ込みに、エルは「イングリット、すごい」と絶賛しながら拍手する。


「スライムからは素材が採れるから、存在が消し飛ぶほどの力で殺すのは勘弁してくれ」


 野生のスライムから採取できるのは、増粘剤と呼ばれるもの。主に工業用の接着剤として利用されている。

 ここ数年は、食品や化粧品、薬などにも使えないかと、研究が進んでいるらしい。


 その後、何体かのスライムと遭遇したが、今度はプロクスとフランベルジュが物理的な攻撃で倒していた。おかげで、増粘剤を得ることができた。


「なんか、わたし達とイングリットの出番はないかも」

「だな」


 イングリットは第一層の宝箱の位置も把握していた。


「この先を曲がった先が行き止まりなんだが、宝箱があるんだ」


 言われた通り進むと、長方形の木箱が置かれていた。


「宝箱型の魔物の可能性があるから、かならず一撃与えてからあけるんだ」


 イングリットはその辺で石を拾い、宝箱目がけて投げる。見事命中した。


「魔物だったら、一撃食らった瞬間に牙を剝く。あれは大丈夫みたいだ」

「中身、何か入っているの?」

「ああ。あれは大迷宮の主が管理していて、ランダムに選ばれた道具が出てくる仕組みらしい」

「大迷宮に、管理人がいるの?」

「ああ。どこの誰だというのは、明らかにされていないがな」

「迷宮を管理することによって、何か利益があるってこと?」

「まあ、そうだな」


 大迷宮の管理人は、神に近い存在ともいわれている。でないと、これだけ巨大な迷宮の管理なんて務まらない。

 さまざまな種類の魔物が出現することから、各地の魔物を迷宮に転移させて、冒険者に殺させる目的があるとか、冒険者の持つ金や装備を得るためだとか、迷宮に人が出入りすることによって魔力を奪っているとか、さまざまな憶測が行き交っているようだ。


「この層のアイテムは、毒消し草や低位ポーションのどちらかだな。エル、開けてみるか?」

「うん」


 エルは宝箱の前にしゃがみ込み、そっと蓋を開く。


「――え?」

「ん?」


 宝箱の中からでてきたのは、毒針だった。


「それは、下の層に行かないと手に入らない、わりと貴重なアイテムだぞ」

「な、なんで?」


 その疑問に、ヨヨが答える。


『エルの幸運値が高いから、貴重なアイテムを引き当てたんじゃない?』

「幸運値、か。そうかもしれないな」

「ヨヨ、幸運値って何?」

『意味もなくツイてることを数値化したもの、かな。イングリット、合っている?』

「まあ、そんな感じだ」


 幸運値が高いと、稀少なアイテムを発見したり、攻撃を受けても深手を負わなかったりする。


「そっか。そうだったんだ」

「これから、宝箱はエルに開けてもらおう」

「ただ、今回だけ運がよかった可能性もあるけれど」


 エルはそう謙遜したが――第一層であるのに、次々と貴重なアイテムを引き当てた。


「ルビーナイフに、邪気守り、迷宮脱出札……」


 イングリットは頭を抱え、ありえないと呟いた。

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