少女とダークエルフは大迷宮の第一層に挑む
大迷宮へ続く列に並んだが、そこまで時間がかかることなく中へ入ることができた。
通された部屋には大迷宮に続く入り口はなく、発光する魔法陣があるばかり。
「あれ、なんで?」
「転移魔法で、別々の場所に飛ばしているんだ。でないと、大勢の冒険者が同じ場所から出発したら、渋滞を起こすだろう?」
「あ、そっか」
フランヴェルジュはぶんぶん回転し、準備運動していた。それを見たプロクスはエルの鞄の中から飛びだし、フッと炎の吐息を吐き出す。
「おうおう、みんな、やる気だな」
「狭い部屋でそんなことしたら危ないから」
エルが注意すると、フランヴェルジュとプロクスは大人しくなる。
「この先は魔物がでる危険な迷宮だ。各々、心して行くように」
大迷宮攻略の経験者であるイングリットの言葉に、各々返事をする。
『ぎゃう~~(は~~い)』
『承知した』
「わかった」
『了解』
「返事の息が合わないのは気になるが、まあいい。行くぞ!」
同時に魔法陣に乗ると、部屋の中は光で包まれる。景色が回転し、薄暗い迷宮の中に降り立った。
じめじめしていて、物音が反響する。第一層は洞窟のような場所らしい。
エルはすぐさま、魔法で光球を作り出す。
「全員、いるな?」
『ぎゃう!(いるよ!)』
「うん、いる」
『おるぞ!』
『いますー』
「やっぱりバラバラだな。気にせずに、よし、行くぞ」
イングリットは何度か通っているため、第一層の地図はだいたい頭に入っているらしい。
「現在地がどこか、わかるの?」
「まあ、だいたいな」
第一層は初心者でも攻略できるようになっている。魔物との遭遇頻度は低く、取得できるアイテムや素材も多い。
「おっ、これはヒール薬草だな」
ヒール薬草――調合師が煎じたら、傷を治すポーションを作ることができる。
「へえ、ヒール薬草が生えているんだ」
「低位の物だがな」
「あ、本当だ」
「エル、わかるのか?」
「うん、先生に習ったから」
「何回も言うけれど、エルの先生は何者なんだ……!?」
「ただのお爺さんだって」
「いやいや、ありえないから」
エルは鞄の中から調合用の瓶を取り出し、ヒール薬草と魔力水を入れてふるふると左右に振る。すると、瓶の中の液体が光った。低位ポーションの完成である。
「うん、やっぱりこんなもんか」
「エルサン、ちょっと待って。何、それ?」
「低位ポーション」
「違う、違う。今、どうやってポーション作ったの?」
「先生に作ってもらった、ポーション用の作成瓶だけれど」
「何その、チートな調合道具は!?」
「わたしが構造を考えて、先生に作ってもらったの」
「はあ!?」
イングリットの驚愕の声が迷宮内にこだまする。
通常、ポーションを作るさい、ヒール薬草を蒸留させ有効成分を取りだし、魔力水と融合させる温度に合わせたヒール薬草の精油を混ぜ、数日寝かせたのちにポーションは完成する。調合師が温度調節に苦労して作るポーションを、エルは数秒で作って見せたのだ。
「これ、先生の技術があって初めて作れる物だから、割れたらお終い」
「でも、構造はエルが考えたんだろう?」
「うん。あ、イングリットなら、作れるかもね。でも、量産しないほうがいいかも。調合師の人達の仕事を奪ってしまうし」
「確かに、それは市場に出さないほうがいい。ポーションの価格が崩壊するだろう」
「だよね」
エルは完成したばかりのポーションを瓶に注ぎ、イングリットに差し出した。
「イングリット、これ、あげる」
「いいのか?」
「うん。ポーションだったら、他に持っているし。必要だったら、言ってね」
エルは鞄の中のポーションをイングリットに見せた。
「なっ、これは、高位ポーションばかりじゃないか!」
「森に自生していたヒール薬草で作ったポーションなんだけれど」
「エルが住んでいた森はいったい……?」
「まあ、妖精とかが棲んでいるくらいだから、普通の森ではなかったと思うけれど」
辺境にあり、村人は森の奥深い場所まで入ってこなかったので、薬草が育ちやすい環境にあったのだろう。
「じゃあ、ありがたくもらっておく」
「でもまあ、誰かが怪我したら、回復魔法で治すし。ポーション飲むより、そっちのほうが早いから」
「は?」
「戦闘中だったら、ポーション飲むよりも、わたしが回復魔法するほうがいいでしょう?」
「いや、そうじゃなくて、エル、回復魔法を使えるのか?」
「あれ、言っていなかったっけ?」
「……聞いてない」
「リザレクションとかも使えるから。もしも腕が千切れても、腸が飛び出しても、きっと大丈夫」
「おいおい、エルサンよ。リザレクションなんて、聖女級の魔法使いしか使えないんだが」
「先生の本を読んで、覚えた」
「だから、エルの先生は何者なのだ!!」
頭を抱え叫んだイングリットだったが、一瞬にして真顔になる。
「うん、全部、聞かなかったことにしよう。エルは、ごくごく普通の、可愛い女の子」
「可愛いって」
「聖女より可愛いに反応するんかい。まあ、いい。いや、ぜんぜんよくないけれど。先に進むぞ」
大迷宮の攻略が、始まる。




