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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女とダークエルフは大迷宮の第一層に挑む

 大迷宮へ続く列に並んだが、そこまで時間がかかることなく中へ入ることができた。

 通された部屋には大迷宮に続く入り口はなく、発光する魔法陣があるばかり。


「あれ、なんで?」

「転移魔法で、別々の場所に飛ばしているんだ。でないと、大勢の冒険者が同じ場所から出発したら、渋滞を起こすだろう?」

「あ、そっか」


 フランヴェルジュはぶんぶん回転し、準備運動していた。それを見たプロクスはエルの鞄の中から飛びだし、フッと炎の吐息を吐き出す。


「おうおう、みんな、やる気だな」

「狭い部屋でそんなことしたら危ないから」


 エルが注意すると、フランヴェルジュとプロクスは大人しくなる。


「この先は魔物がでる危険な迷宮だ。各々、心して行くように」


 大迷宮攻略の経験者であるイングリットの言葉に、各々返事をする。


『ぎゃう~~(は~~い)』

『承知した』

「わかった」

『了解』

「返事の息が合わないのは気になるが、まあいい。行くぞ!」


 同時に魔法陣に乗ると、部屋の中は光で包まれる。景色が回転し、薄暗い迷宮の中に降り立った。


 じめじめしていて、物音が反響する。第一層は洞窟のような場所らしい。

 エルはすぐさま、魔法で光球を作り出す。


「全員、いるな?」

『ぎゃう!(いるよ!)』

「うん、いる」

『おるぞ!』

『いますー』

「やっぱりバラバラだな。気にせずに、よし、行くぞ」


 イングリットは何度か通っているため、第一層の地図はだいたい頭に入っているらしい。


「現在地がどこか、わかるの?」

「まあ、だいたいな」


 第一層は初心者でも攻略できるようになっている。魔物との遭遇頻度は低く、取得できるアイテムや素材も多い。


「おっ、これはヒール薬草だな」


 ヒール薬草――調合師が煎じたら、傷を治すポーションを作ることができる。


「へえ、ヒール薬草が生えているんだ」

「低位の物だがな」

「あ、本当だ」

「エル、わかるのか?」

「うん、先生に習ったから」

「何回も言うけれど、エルの先生は何者なんだ……!?」

「ただのお爺さんだって」

「いやいや、ありえないから」


 エルは鞄の中から調合用の瓶を取り出し、ヒール薬草と魔力水を入れてふるふると左右に振る。すると、瓶の中の液体が光った。低位ポーションの完成である。


「うん、やっぱりこんなもんか」

「エルサン、ちょっと待って。何、それ?」

「低位ポーション」

「違う、違う。今、どうやってポーション作ったの?」

「先生に作ってもらった、ポーション用の作成瓶だけれど」

「何その、チートな調合道具は!?」

「わたしが構造を考えて、先生に作ってもらったの」

「はあ!?」


 イングリットの驚愕の声が迷宮内にこだまする。


 通常、ポーションを作るさい、ヒール薬草を蒸留させ有効成分を取りだし、魔力水と融合させる温度に合わせたヒール薬草の精油を混ぜ、数日寝かせたのちにポーションは完成する。調合師が温度調節に苦労して作るポーションを、エルは数秒で作って見せたのだ。


「これ、先生の技術があって初めて作れる物だから、割れたらお終い」

「でも、構造はエルが考えたんだろう?」

「うん。あ、イングリットなら、作れるかもね。でも、量産しないほうがいいかも。調合師の人達の仕事を奪ってしまうし」

「確かに、それは市場に出さないほうがいい。ポーションの価格が崩壊するだろう」

「だよね」


 エルは完成したばかりのポーションを瓶に注ぎ、イングリットに差し出した。


「イングリット、これ、あげる」

「いいのか?」

「うん。ポーションだったら、他に持っているし。必要だったら、言ってね」


 エルは鞄の中のポーションをイングリットに見せた。


「なっ、これは、高位ポーションばかりじゃないか!」

「森に自生していたヒール薬草で作ったポーションなんだけれど」

「エルが住んでいた森はいったい……?」

「まあ、妖精とかがんでいるくらいだから、普通の森ではなかったと思うけれど」


 辺境にあり、村人は森の奥深い場所まで入ってこなかったので、薬草が育ちやすい環境にあったのだろう。


「じゃあ、ありがたくもらっておく」

「でもまあ、誰かが怪我したら、回復魔法で治すし。ポーション飲むより、そっちのほうが早いから」

「は?」

「戦闘中だったら、ポーション飲むよりも、わたしが回復魔法するほうがいいでしょう?」

「いや、そうじゃなくて、エル、回復魔法を使えるのか?」

「あれ、言っていなかったっけ?」

「……聞いてない」

「リザレクションとかも使えるから。もしも腕が千切れても、腸が飛び出しても、きっと大丈夫」

「おいおい、エルサンよ。リザレクションなんて、聖女級の魔法使いしか使えないんだが」

「先生の本を読んで、覚えた」

「だから、エルの先生は何者なのだ!!」


 頭を抱え叫んだイングリットだったが、一瞬にして真顔になる。


「うん、全部、聞かなかったことにしよう。エルは、ごくごく普通の、可愛い女の子」

「可愛いって」

「聖女より可愛いに反応するんかい。まあ、いい。いや、ぜんぜんよくないけれど。先に進むぞ」


 大迷宮の攻略が、始まる。


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