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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女はダークエルフと大迷宮グルメを食す

 大迷宮の神殿に似た建物は、入ってすぐ迷宮というわけではなかった。

 中は大広間となっており大迷宮へ続く行列が繋がっている他、売店があったり、小規模なギルドがあったりと、ちょっとした施設のようだった。


「ここにあるアイテム屋は、どれも正規店だ。もしも何か必要な場合は、ここで買うといい」


 イングリットオススメは、大迷宮名物『迷宮麺』。トロトロになるまで煮込まれた角煮がどんと載った、豚骨出汁の麺なのだとか。


「おいしそう、かも」

「ちょっと小腹が空いたから、食べてから行くか?」

「うん!」


 列に並ぶ前に、『迷宮麺』の店を目指す。


「あまりのおいしさに、迷宮麺だけを食べにくる冒険者もいるらしい」

「そうなんだ」

「私も半信半疑で食べに行ったら、本当においしくて」


 そんなことを話していたら、大迷宮行きの行列と同じくらい、ずらりと並んだ人々の姿が見えた。


「イングリット、もしかして、あの行列が迷宮麺のお店?」

「そうだな。今日は、一段と多い」


 エルとイングリットは最後尾に並ぶ。

 店の回転率はいいようで、十分ほどで入ることができた。

 中はカウンター席が十個、四人がけのテーブル席が六と、そこまで広いわけではない。二人はカウンター席の端に通される。イングリットが、注文してくれた。


「迷宮麺を二つと、スライム肉団子を一つ」

「まいど」


 イングリットは不思議なものを注文した。


「ねえ、イングリット。スライム肉団子って、何?」

「討伐したスライムを加工した薄い生地に、肉団子を包んだ料理だ。これも、けっこう美味い」

「スライム……?」

「きちんと浄化して魔力を抜いたスライムだから、安心して食べるといい。ほら、ここの店は魔法省の許可をきちんと取っている、安全店だ」


 イングリットが指さした先には、鷹獅子をモチーフにした紋章と、『魔法省監査済み・安全保証』と書かれた札が貼ってある。


 通常、魔物喰いは禁忌とされている。

 魔物が保有する魔力は人の数十倍という研究結果が出ており、人体では受け止めきれず、最悪死んでしまうからだ。

 また、魔物の肉を食べた者が奇行に走る事例も多く報告されていることから、魔物喰いは罪となった。


 法律が定められてから数百年後、魔物の加工についての技術が進歩する。

 以前までは、装備品に使うことすら禁じられていたが、今では魔物の骨や牙から作ったナイフや鎧などが出回るようになった。

 魔物の食肉についても、認められつつあるという。


「スライムはもともと魔力が低かったから、食材に加工しやすかったのだろうな」

「ふーん」


 そんなことを話しているうちに、迷宮麺とスライム肉団子が運ばれてくる。


「わっ、おいしそう!」


 大きな深皿に、麺が見えないほどの角煮が敷き詰められていた。

 続けて、スライム肉団子も置かれる。

 皿の上に、一口大の肉団子が六つあった。

 一見、ただの肉団子に見える。しかし、よくよく見たら、表面に薄い膜が張っていた。


「エル、いいか? これは、半分に囓って食べようだなんて考えてはいけない」

「それはどうして?」

「どわっ!!」


 斜め前に座る、大剣を背負った冒険者が悲鳴をあげた。おちょぼ口だったからか、スライム肉団子を半分囓ったらしい。その結果、膜が破裂し、中に閉じ込められていた肉汁が破裂したようだ。口周りはおろか、テーブルも肉汁まみれにしてしまう。


「ああなる」

「なるほど。全部食べて、口の中で破裂させるんだね」

「その通りだ。フォークに突き刺すのも厳禁だからな。この話をして、噛まなければ大丈夫と思い、フォークで突き刺して破裂させる奴が必ずいるんだ」

「了解」


 エルは匙でスライム肉団子を掬う。くんくんと匂いをかいでみたが、何も感じなかった。

 スライムは森の中で何度か見かけたことがある。石を投げただけで死んでしまう弱い個体から、人間をも呑み込んで成長する危険な個体もいた。

 いくらスライムといっても侮るな、というのがモーリッツの教えであった。

 ドキドキしながら、エルはスライム肉団子を頬張る。そして、勇気を出して噛んだ。

 プツンと、口の中でスライムの膜が弾けた。同時に、肉汁がじゅわ~っと溢れてくる。スープを飲んだと錯覚するほどの、肉汁だった。

 スライムはすぐにとけてなくなり、肉団子の旨味のみ感じる。


「何、これ。おいしい!」

「だろう?」


 スライムがこのように、面白い形で利用されているなんてエルは初めて知った。

 まだまだこの世には、興味深いものがたくさんあるのだと実感する。


 続けて、迷宮麺も食べた。


「エル、これはな、麺が一本に繋がっているんだ」

「あ……本当だ」


 大迷宮のように、どこまでも長い麺らしい。

 まず、自慢の角煮を食べてみる。


「んっ……!」


 肉は柔らかくなるまで煮込まれ、脂身はぷるぷるでほのかに甘い。

 よく噛まずとも、舌の上でとけてなくなるようだった。


 麺はもちもちつるんという食感だった。麺の生地にも、スライムが使われているらしい。大迷宮で毎日のように討伐されているスライムをふんだんに使った、まさしく大迷宮グルメなのだろう。


 エルはイングリットと共に、初めて食べるスライム料理を堪能した。

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