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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女はダークエルフから大迷宮について話を聞く

 今回、下町の新聞配達を生業とする商会から、配達用の一人乗りの自動車がほしいという依頼があったのだ。

 イングリットが考えたのは、二輪で馬に跨がるように操縦する小型車。

 異世界の勇者が迷宮に残したらくがきの中に、『バイク』と呼ばれる乗り物があったらしい。それを元に、魔石を動力源とした『魔石バイク』を考案した。

 イングリットはたった三日で、魔石バイクの設計図を完成させた。

 問題は、材料だった。

 まず、魔石の魔力に耐性がある金属が必要だった。タイヤに使う素材も、普通のゴムでは耐性がなくすぐに劣化してしまう。

 塗装に使うペンキだって、市販品は使えない。

 その辺の素材すべてが、大迷宮で採れるだろうという期待を込めて、本日探索に向かう。


『うおおおおおおお!!!!』


 プロクスの首から提げられたフランベルジュは、悲鳴を上げていた。

 高所恐怖症なのかとエルが聞くと、『そ、そんなことはないッ!』と震える声で返す。

 気の毒に思ったエルは、一回目の休憩でフランベルジュを鞍に固定できるよう縛り付けておいた。


 二回目の休憩時に、エルはイングリットに大迷宮について話を聞く。

 魔石ポットに茶を入れ、エル特製のクッキーを囲んでちょっとした茶会を開く。

 プロクスは小さく変化し、尻尾を振りながらクッキーを食べていた。

 エルはイングリットのカップに、角砂糖を落としながら質問する。


「ねえ、イングリットは、大迷宮に行ったことあるの?」

「あー、前に一回だけあるな。単独行動だったから、第七層までしか行かなかったけれど」

「底なし迷宮、だっけ?」

「ああ、そうだ」


 大迷宮は勇者の伝説にも登場し、魔王を倒すための聖剣の素材をすべて集めた場所としても有名だ。そのため、何か必要な素材があれば、大迷宮に行くとだいたい揃うと言われている。


「今、報告されている階層は、十年前に第一級アンの冒険者が到達した百五十層だったか」

「すごい人がいるんだね」

「まあ、そうだが、遺体で見つかったんだ。ギルドカードの情報を探ったら、大迷宮の第百五十層で反応があったんだと」

「じゃあ、今も、第一級の冒険者の遺体は、百五十層にあるってこと?」

「そうだな。親族が遺体や遺品の回収を望んでいて、ギルドに依頼を提出して報酬を出しているが、まだ達成できていない」

「そうなっちゃうよね」


 ギルドとしては、惜しい人材を亡くしたと言われていたようだ。

 第一級の冒険者の死亡が確認されたあと、大迷宮に挑戦するさいの推奨等級なるものがギルドから発行された。


第六位シスは第十層まで、第五位サンクは第二十層まで、第四位カトルは三十層、第三位トロワは第四十層、第二位ドゥは六十層、第一位アンは第八十層まで、無限大アンフィニは特に制限なし、みたいな感じだな。基本、これの目安は単独行動用だが、パーティーを組んでいても、無理はしないほうがいい」


 大迷宮には豊富な素材やアイテムがあるが、強力な魔物も存在する。


「エル。よーく聞いておけ。大迷宮は、日々、成長していると言われている。大金持ちになれる素材が落ちていることもあるし、人生を変えるようなアイテムも落ちている。でも、それらは、すべて人を糧として得られるものなのだ」

「大迷宮が、人を喰らうみたい」

「そうだな。大迷宮が、人を喰らうんだ。たとえば、上位魔法薬ポーションを作る、レイズ草というレア薬草が生えているのだが、人の死体から養分を得て葉をつけるんだ。死体一体につき、レイズ草一枚しか生えないんだとか」

「えっ、レイズ草って、そうなの?」

「実は、だな。エルの生まれ育った森にも生えていたのか?」

「うん。すごく、珍しいものだったけれど」


 魔法鞄に、乾燥させていた瓶を入れていたのだ。取り出して、イングリットに見せる。


「ほら、これ」

「おお。本物のレイズ草だ。十枚、あるな」

「あるね」


 エルはレイズ草が入った瓶を、鞄に戻した。


「じゃあ、アイテムとかは、冒険者が落とした物なの?」

「そうだな」


 大迷宮を巡回する妖精がいて、宝箱の中にアイテムを入れて回るらしい。自分の物だと主張しているわけでなく、入れたら回収することはないようだ。


「奴らは宝箱魔物ミミックの配下妖精で、アイテムを回収しては宝箱に入れて回っているという話も聞く」

「宝箱魔物って、宝箱を開けた人をばくりと食べる魔物だよね」

「ああ、そうだ。宝箱の数が多ければ多いほど、宝箱魔物に引っかかりやすくなる。だから、積極的に入れ回っているんだ、なんて話も聞くな」

「ふうん」


 イングリットは宝箱を見つけたとき、足で蹴って宝箱魔物か否か確認するらしい。


「階層が深くなると、仕掛けがある場所もある。毒矢が跳んできたり、床が抜けたり」

「注意が必要なんだね」

「まあ、その辺は猫くんがいるから、問題ないと思うけれど」


 妖精族は、悪意に敏感だ。そういう仕掛けも、すぐに気づく。


「ヨヨ、よろしくね」

『まあ、気づいたら報告するよ』


 大迷宮はいろいろと危険な仕掛けや魔物がいると聞いたが、エルは今から始まる冒険を前にドキドキしていた。

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