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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第二部 少女はダークエルフと商売を始める!
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少女は旅支度をする

 迷宮に出かけるというので、エルは弁当の準備を行う。

 数日家を空けるので、卵はすべて茹でておく。半分は卵サンドにして、半分はそのまま持って行く。

 小腹が空いたとき、ゆで卵に塩をかけて食べるとお腹が良い感じに満たされる。

 エルの魔法鞄の中に入れておけば、卵の殻が割れる心配もない。


『ぎゃう、ぎゃうー!(庭に干していた、薬草持ってきたよ)』

「プロクス、ありがとう」


 一週間ほど日陰に干していた薬草は、スープに入れるものだったり、茶にするものだったりと種類豊富だ。瓶に詰めて、鞄に放り込む。


「プロクス、フランベルジュにも声をかけてくれる?」

『ぎゃう!(了解!)』


 昨日買っていた鶏肉を思い出し、エルは慌てて調理に取りかかる。

 時間がないので、茹でることにした。沸騰する鍋に鶏肉を入れ、塩をぱっぱと振っていたら、フランベルジュを引きずりながらプロクスが戻ってくる。


「ん、ありがとう」

『ぎゃう~~(起きないよ)』

「うん。その辺に投げておいて」

『ぎゃう(了解)』


 重かったのか、それとも起こそうと思ったのか、プロクスは雑にフランベルジュを投げた。


『んぐう!!』

「フランベルジュ、起きた?」

『な、何事か!?』

「今から、迷宮に行くから」

『む。そうであったか。承知した』


 フランベルジュはむくりと起き上がり、剣を左右に振る。準備運動をしているようだ。 茹で上がった鶏肉を湯から揚げていると、ヨヨがやってくる。


『エルー、イングリット、準備できたって』

「わたしはあと、三十分くらいかかるかも」

『了解。イングリットも、ゆっくりでいいって言っていたよ』

「うん、ありがとう」


 鶏肉は塩茹でしたものをパンに挟んだだけでは味気ないので、ひと工夫加える。

 卵をみじん切りにし、同じように細かく刻んだタマネギを加える。そこに、卵黄と酢、柑橘汁、油を入れて作ったソースを加えて混ぜた。タルタルソースと呼ばれる、エル自慢の万能ソースである。

 パンに塩茹で鶏肉を載せ、たっぷりタルタルソースをかける。上からパンを被せたら、鶏肉のタルタルサンドの完成だ。

 弁当の準備は整った。続いて、エルは自らの旅支度を行う。


『エルの服は、タンスから出しておいたよ』

「ヨヨ、ありがとう」


 猫の手も借りたいと思っていたところだった。優秀な猫妖精ヨヨは、エルが望むことを言わずとも叶えてくれる。

 ヨヨが用意してくれた服を鞄に詰め、今度はエル自身が身支度を調える。

 下着の上に革装備を着込み、その上からフェルトのワンピースを着込む。下はズボンを穿き、編み上げブーツの履き口に足先を滑らせる。

 腰はベルトを巻いて、魔石師の武器である投石器をホルスターに差し込んだ。

 長い髪は三つ編みにして、邪魔にならないようにする。

 ヨヨも、旅支度をしてあげる。ヨヨ専用のブーツを履かせ、長い毛に埃や汚れが付かないよう、頭巾付きの服を着せておく。


『エル、これ、必要? 変じゃない?』

「必要。変じゃない。強いて言ったら、すごく可愛い」

『エルと一緒にいて、初めて可愛いとか言われたよ』

「あれ、言っていなかったっけ?」

『うん』

「ヨヨ、可愛いよ」

『照れるから止めてー』


 これにて、身支度が調う。


「おう、エル、準備は終わったか?」


 イングリットがひょっこり顔を覗かせる。

 長いマントに黒革のジャケットにズボン姿のイングリットが現れる。今日の彼女も美しく、カッコイイ。

 エルはいつまで経っても背が伸びず、胸も膨らまない。

 イングリットのようにぐーぐー眠ったら、成長するのか。異国の勇者の言葉で、『寝る子は育つ』という格言もある。


「ん、どうかしたのか?」

「イングリットみたいな大人の女の人になりたいと思って」


 イングリットはしゃがみ込み、エルの頭を優しく撫でる。


「エルは私よりもっとでっかい女になるから、安心しろ」

「本当?」

「本当だ。私が保証する」

「イングリット、ありがとう!」


 心配事もなくなったところで、出発となる。

 王都の郊外まで歩き、開けたところでプロクスは元の大きさに変化した。

 その場に伏せ、乗りやすいようにしてくれる。


『ぎゃーう(どうぞ!)』

「プロクス、今日も、お願いね」

『ぎゃうぎゃう(任せて!)』


 まず、紐を付けたフランベルジュを、プロクスの首にかける。


『これ、落とさないよな?』

「大丈夫。たぶん」

『今、たぶんって言ったか!?』

「力自慢のイングリットが結んだから、大丈夫だよ。たぶん」

『また、たぶんって言った!』


 フランベルジュで遊ぶのはこれくらいにして、エルはプロクスに跨がる。

 その後ろに、イングリットが跨がった。


 久々の遠出でドキドキしていたエルだったが、イングリットが傍にいると心は不思議と落ち着いた。

 イングリットはエルを「清涼剤」と言ったが、エルにとってイングリットは「安定剤」なのだろう。

 不思議な関係である。

 ヨヨはプロクスに付けた荷鞍のカゴの中に潜り込む。エルははみ出ていた尻尾を詰め、しっかりと蓋を閉めた。 


 プロクスは翼を羽ばたかせる。ふわりと、体が浮いた。

 目指すは、大迷宮。そこで、魔道具の素材を探すのだ。

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