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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第一部 少女はダークエルフと出会う
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少女とダークエルフは王都に戻る

 フランベルジュは『必要なときに俺様を呼ぶとよい』と言って姿を消した。


「なんか、嵐が去ったって感じ」

「まったくだな」


 もしかしたら、炎の剣であるフランベルジュが四六時中一緒について回るものだと思っていたので、エルは内心ホッとする。


「エル、どうする? 一回引き返すか?」

「うん、それがいいかも。たぶん、オーガ以上の強い敵は出ないと思うけれど、なんだか疲れちゃったし」

「そうだな。それがいい。一晩、野営して、明日また出直そう」

「うん」


 きっと、火竜の傍に天幕を張ったら、魔物も寄ってこないだろう。

 そんなことを話しながら帰ろうとしたそのとき、エルはある物に気づいた。


「え、これ――!?」

「エル、なんだ?」

「イングリット、この鍾乳石、見て!」

「ん?」


 それは、オーガとの戦闘で落下した、突起状の鍾乳石だった。


「それが、どうしたんだ?」

「水晶魔鉱石なの!」

「本当か!?」


 イングリットはしゃがみ込み、鍾乳石を覗き込んだ。


「たしかに、これは特別な魔力を放っている。しかし、驚いたな。まさか、下じゃなくて、上のほうにあったなんて」


 よくよく確認すると、周囲を覆う岩は魔防効果がある。魔鉱石が放つ魔力を頼りに探した場合、見つけにくいようになっていた。


「鍾乳石が地面に落ちたおかげで、見つかったんだ」

「ついているな」


 エルはたがねと金槌を取り出し、水晶魔鉱石を取り出した。

 まだ、魔石にするための加工をしていないのに、美しく澄んだ水晶が採れた。


「これで、ネージュを助けることができる……!」

「ああ、そうだな」

「イングリット、ありがとう。イングリットのおかげで、水晶魔鉱石が採れた」

「エルが頑張ったからだろう。私は何もしていない」

「そんなことないよ。イングリットが一緒に鍾乳洞にきてくれたおかげだから」

「まあ、そういうことにしておくか」


 来た道を戻り、鍾乳洞の外に出た。


『ぎゃーう!』


 火竜はエルとイングリットを待っていた。嬉しそうに、駆け寄ってくる。


「あいつ、本当に待っていたな」

「イングリットの魔技巧品、すごいね」

「いや、あれは片道の契約だから、自主的に待っていたんだと思うぞ」

「そうなんだ」


 ここでゆっくりのんびり休んでいたら、日がくれてしまう。

 エルとイングリットはすぐさま帰ることを決めた。


 火竜に跨がり、空を飛び立つ。


「ネージュ、待っていてね」


 魔石を入れ替えしたら、きっと今まで通り元気になる。

 エルはそう信じていた。


「エル、王都に戻ったら、どうするんだ?」

「父さんのこと、ギルドで調べてもらおうかなって」

「ああ、それがいいかもしれないな」


 次なる目標を決めつつ、王都へ戻った。


 火竜はエルとイングリットを、王都近くの開けた場所に下ろしてくれた。

 感謝の印として、エルは持っている七枚のクッキーすべてを火竜に手渡した。

 火竜は尻尾を左右に振り、クッキーを両手で大事そうに持って嬉しそうにしている。


「ありがとうね」

「感謝する」

『ぎゃーう!』


 手を振って別れようとしたが、火竜はいっこうに飛び立たない。


「火竜、じゃあね」

「またな」


 何かを察したエルとイングリットは、ほぼ同じタイミングで回れ右をする。

 早足で去ろうとしたが、背後から火竜の鳴き声が聞こえた。


『ぎゃーう! ぎゃう、ぎゃーう!』

「イングリット、火竜は、なんて言っているの?」

「クッキーもっと寄越せ?」

「もう、ないよ」


 早足から、全力疾走に代わる。イングリットは背後を振り返る。


「げっ、また二足歩行で走っている!」

「見たいような、見たくないような」


 結局、火竜はエルとイングリットの前に回り込んできた。


『ぎゃう、ぎゃうぎゃう!』


 そう言って、クッキーをエルに差し出した。


「それ、あなたにあげたの。ぜんぶ、食べていいから」

『ぎゃう、ぎゃうううう』


 火竜はクッキーをエルに差し出したまま、その場でジタバタと地団駄を踏み始めた。


「え、何?」

「もしかして、クッキーは返すから、一緒に行きたいって言っている、とか?」

『ぎゃうっ!!』


 まるで「それだ!」と言っているかのようだった。


「イングリットの家で、火竜飼える?」

「まあ、裏庭だったら、飼育できないこともないが」

『ぎゃうーー!!!!』


 火竜は嬉しそうに、体を左右に揺らす。やはり、エルとイングリットについて行きたいと訴えていたようだ。


 これ以上、大きくなることはないかと確認したら、火竜は親指を立て「ぎゃう!」と鳴いていた。心配ないと言っているように聞こえた。


「これ以上成長しないのであれば、まあ、いいか。えーと、じゃあ、エル、契約してやってくれ」

「え、わたし!?」

「エルが釣った火竜だろう?」

「そうだけど」


 エルは火竜に近づき、問いかける。


「契約するのは、わたしでいいの?」

『ぎゃう!』

「対価は、クッキーでいい?」

『ぎゃうーん!』


 クッキーで問題ないようだ。

 火竜は手に持っていたクッキー七枚を一気に食べる。見事な食べっぷりだった。

 そして、エルに手を差し出す。


「手を握り返したら、契約が完了するんだね?」

『ぎゃう!』


 火竜の手を、エルは握った。すると、火竜の体から魔法陣が浮かび上がり、光に包まれる。


「これは、契約による、変化?」

「だな」

「大きくなったらどうしよう」

「地味に困るな」


 光が収まると、火竜の姿は消えていた。


「あ、あれ? 火竜は、どこに?」

「エル、下だ」


 火竜の体は縮み、赤子のようになっていた。

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