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少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房  作者: 江本マシメサ
第一部 少女はダークエルフと出会う
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少女とダークエルフは強敵を前にする

 暗闇に浮かぶのは、血よりも赤い瞳。

 エルは恐怖から、全身鳥肌を立たせる。

 次にボッと音を立てて、炎が上がった。棍棒こんぼうが、火をまとっていたのだ。

 そこから、姿がぼんやりと浮き上がってくる。

 人型ではあるものの、全長は二米突メートル半と規格外の大きさだ。額から突き出た二本の鋭い角にぎょろりとした目、真っ赤な肌と、その様子は不気味としか言いようがない。上半身は何も身につけていないが、下は腰布を巻いていた。


 距離にして五十米突ほど開いているが、圧力のようなものをビシバシと放っていた。


 蒸し暑い洞窟内であったが、さらに気温が上昇する。


「イングリット、あれは――人食い鬼オーガ?」

「ああ、そうだ。ただのオーガじゃない。属性付きだ」


 ただでさえ、オーガは厄介な敵だ。武器を操り、幾分かの知能もある。

 属性付きだということで、おそらく炎も操るだろう。


「おかしいと思っていたんだ。鍾乳洞の中は、普通はひんやりしているのに」


 火属性を持つオーガが住み着いていたので、気温が上昇していたようだ。

 オーガは人の血肉を好む。

 エルとイングリットを見て、舌なめずりしていた。

 イングリットは即座に水の矢をつがえ、オーガに向かって放った。

 狙ったのは、手に持つ炎をまとった棍棒。火を消した上に、手から離そうとしていたのだろう。見事、棍棒に当たり、水魔法が発動した。

 しかし――オーガの持つ棍棒の火は消えない。


 オーガは棍棒からイングリットの矢を引き抜き、いともたやすくへし折った。


「クソ!」


 続けて、イングリットは矢を番う。今度は、氷の矢だ。足下に向かって放ったが、回避されてしまった。意外と素早い。


 オーガが動き出す。炎を纏った棍棒を振り上げ、駆けてくる。

 もう一度、氷の矢を放ったが、魔法が発動する前に棍棒でたたき落とされた。


 イングリットは傍にいたエルを抱き上げ、回れ右をして走り始める。


「オーガなんて、ここ五年以上目撃情報が出ていないのに!!」


 オーガが発見されると、すぐさま騎士隊が派遣される。それくらい、人にとって脅威とされる魔物なのだ。


「イングリット! 今まで、反感ヘイト管理はどうしていたの?」

「今までの魔物は、すべて一撃必殺で倒していたんだよ!」


 強力な敵が目撃されたところには行かず、比較的弱い魔物が観測される範囲しか足を踏み入れなかったらしい。


「いや、ここも低位魔物しか出ないはずなんだが」


 固有ユニーク魔物モンスターなど、めったに会えることはない稀少きしょうな存在だ。目撃情報だけで、ギルドからもれなく報酬がもらえるだろう。


 だんだんと、距離が縮まっていく。

 捕まったら、頭からバリボリと食べられてしまうだろう。


「イングリット、わたしを捨てて、逃げて!」

「そんなこと、できるわけないだろうが!」

「お願い!」

「ダメだ!」


 エルを抱えての状態なので、すぐに追いつかれそうになる。

 イングリットの頭の中に、エルを見捨てて逃げるという選択はなかったようだ。

 このままでは、共倒れとなる。

 何か、しなければ。そう思った瞬間、イングリットが転んだ。

 地面の突起に足を引っかけてしまったようだ。

 エルの体は、投げ出される。


『オオオオオオオオ!!!!』


 オーガはすぐ目の前まで迫っていた。


 イングリットはすぐさま起き上がり、腰ベルトのナイフを引き付いてオーガに投げる。

 見事、額に突き刺さった。


「──ぜろ、火よフォティア!」


 ナイフと魔法は連動していたのだろう。額に刺さったナイフが、爆発する。


『オオオオオオオオ!!!!』


 爆風とともに、オーガの大きな体がぶっ飛んだ。


 やった! エルはそう思ったが、倒れたオーガの体は、すぐに起き上がった。

 オーガの額には小さな傷が入った程度で、致命傷には見えない。


『オオオオオオオオ!!!!』


 オーガは手に持つ棍棒の炎を強め、振り上げながら襲いかかってくる。


「クソ!!」


 イングリットはエルの体に覆い被さった。


「イングリット!!」

「エル、いいか? 奴が私に気を取られている間に、逃げるんだ」

「そんなの、できない!」

「このままでは、どっちも死ぬんだよ。だったら、どちらかが生きていけるほうがいい。エル、お前には、やらなければならないことが、あるんだろう? それに、エルのことを待っている奴もいる」

「イングリット……」

「私はいいんだ。どうせ、誰も待っていないから。死んでも、誰にも迷惑をかけないし、悲しまないさ」


 そんなことはない。イングリットが死んだら、エルが悲しむ。

 このままでは、イングリットは死んでしまう。エルは即座に腹をくくった。


 イングリットの体を力一杯押し、前に出る。


「エル!?」

『オオオオオオオオ!!!!』


 オーガの前に出て、一番大きな氷の魔石を、投石器にかけて目一杯引いた。

 そして、眼前に迫ったオーガに、氷の魔石を投げつける。


 目の前が、真っ白になった。


 一面、氷が覆ったからだ。


 オーガも、全身氷塊と化している。

 エルが地面を足先で叩いたら、氷は崩れた。

 オーガが粉々となる。


「エル、危ない!」


 天井から、突き出た鍾乳石がエルの頭上に落ちてきた。イングリットが腕を引き、助けてくれた。


「イングリット、ありがとう」

「エル、それはこっちの台詞せりふだ」


 オーガだったものは氷塊と化し、そして崩れた。

 それは、エルの魔石の力によるものだった。


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